チーム天狼院

苦しみのない楽しさは、全部ビギナーズラックだ《川代ノート》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川代紗生(天狼院書店スタッフ)

創作活動をしてるときにだいたいぶつかるこれ。
私は「苦しみの沼」と呼んでいる。
はじめた当初は知らないことだらけで成功しても失敗しても新鮮だからただひたすらに楽しいだけだけど、
ある程度全体把握ができてくると徐々に自分の実力がわかってきて、
自分なんかよりももっと上がいるという現実に苛まれ、
本当は嫉妬なんかしたことなかったのに嫉妬しちゃったりするやつあるでしょう。あれです。

そう、身動きが取れず、自分の好きにやったらいいのか基本に立ち戻ったらいいのか応用編にチャレンジしたらいいのか、どう動いてもずぶずぶと足が絡め取られていくようなあの感じ。
まさに「沼」である。

今自分の立ち位置がどこなのかもわからず、このまま続けていて成長する確証もなく、どんどん不安と焦りばかりが募っていき、ちらりと隣の芝生を見ては羨ましく思う。

そしてはじめたばかりのころの楽しかった感覚を思い出す。
ああ、私こんな苦しみを味わうためにこれはじめたんじゃないのに。
純粋な気持ちで、ただ自分の思いを吐き出したかったから、表現したかったから始めただけなのに。
別に「いいね!」がほしいわけじゃない。周りに評価されることが目的じゃない。
それなのにこんな他人の目ばかり気にして、楽しい気持ちを失っちゃって……。
これって、続ける意味あるのかな?

……みたいな!

いやー、もうこれ、この「苦しみの沼」に吸い込まれて結局抜け出せずそのまま諦めてしまう人を何人も、何十人も何百人も見てきた。下手したら何千人になるかも。

私は天狼院書店のライティング・ゼミの講師を担当していて、毎週2,000文字の記事課題のフィードバックをだいたい100人〜150人分くらいやっている。毎週かならず、もうかれこれ3年以上は経つから、数えきれない量の文章を読んできたことになる。

それで、やっぱり文章のお悩み相談的なこともよくされるのだけれど、なかでも多いのがこれだ。

「書くのが楽しくなくなりました」
「自分の方向性がわかりません」
「自分がやりたいことが本当に書くことだったのかわからない」

いやー、もう、本当に多い。まじで多い。死ぬほど多い。
それで、それを聞くたびに私はどう答えているかなのだけど、
じつは、「そうですか、大変でしたね」でも「苦しいかもしれないけどがんばりましょう!」でもない。

「おめでとうございます! 苦しみの沼に入っているんですね! めちゃくちゃいい傾向ですね!」だ。

これはべつに気休めでもなんでもなくて、本心だ。本当なのだ。「苦しみの沼」に入って諦めかけている、心が折れそうになっている、そしてそれを他人に吐き出さなきゃいけないほど葛藤している。
そこまでくれば、もうあと一歩で突破できるかもしれないのだ。

もちろん、私自身も同じように「苦しみの沼」にどっぷりと浸かっていたことがある。
ただ自分の思いを言語化できるだけで満足だったのが、「いいね!」じゃ物足りなくなり、1,000PVでは物足りなくなり、1万PVでも物足りなくなり。とにかくバズを起こしたくて、どんなネタを書けば読者に読まれるのか、承認してもらえるのかとそればかり考えて。

承認欲求の権化になったみたいな気がしてそこで「もうやめよう、こんなことのために書くことを始めたんじゃない」と思って自由気ままに書こうとするんだけど、いざ読者の存在を忘れようと思っても忘れられない。いつも脳裏には「いいね!」がチラつく。

むしろ「承認欲求を捨てたい」という気持ちを強く強く抱いているという事実そのものが、私が承認欲求が強いことの証明になっている気がしてさらにモヤモヤする。結局のところ、読者のことなんか気にせず自由に思いを吐露するアーティストタイプになったほうが、「いいね!」がもらえるんじゃないかとか、そんな邪まな考えが脳裏を横切ったりして。うあー、やっぱり私認められたい人なんじゃん!! とか思ったり。

まあ、そんなわけでとにかく私も長年「苦しみの沼」の住人だったわけだが、
その経験からも、受講生さんたちや後輩たちを見ていても思うのは、
そこを超えた先にしか「本当」の楽しさ・面白さはない、ということだ。

ただ自分勝手に表現しているだけじゃなくて、きちんと読者のことも考えて、「他人の目線」を気にしたうえで、かつ、自分の熱狂を全力で出せる。
その場所に行くには、やっぱり苦しみの沼を突破するしかない。

ただ苦しんでもがいて感情が爆発しそうになっているということは、それだけ自分が真剣に向き合っている証拠だ。それだけ熱量をもって取り組んでいる証拠だ。
だから、苦しみの沼でぐるぐるしているというのは、いい傾向なのだ。

ただ、やっぱりそれをうまくイメージできなくて、途中で諦めてしまう人も多い。
そういうのをたくさん見ていると、みんなに言いたくなるのだ、

なんでいちばんもったいないところで諦めるんやーーーー!!!

と。
むしろ、そのぐるぐると苦しんでいる期間に溜め込んでいた「なにくそ根性」や「あんなやつより私のほうがうまいのに!!」という怨念こそが次なる創作のエネルギーになるパターンも多い。それなのに、いま目の前の「楽しさ」だけにとらわれて、本当の楽しさに辿り着けずにやめてしまう超絶もったいないケースが多すぎる。

「夜明け前がいちばん暗い」じゃないけど、やっぱり報われる前の苦しみって必須なんじゃないかと思う。というか、そう思ってないとやってられないよね。この世の中って理不尽なこと多すぎるしさ。

私も悔しすぎてハンカチをビリビリに破いた夜が1日じゃないし、あまりの理不尽さに憤死しそうになったこともめちゃくちゃあるけれど、でも、そんなことばっかり起きてるとやってらんないから、「私は大器晩成型だから大丈夫」といつも言い聞かせている。「まだ映画ははじまったばかりなの、今のうちに成功しちゃったらつまんないでしょオホホ」とか何度も何度も言い聞かせてすり込んでメンタルを保っている。

苦しみのない楽しさは、全部ビギナーズラックだ。
それくらいの心算でいたほうが発見があるし、やりがいがある。
そうやってうまいこと自分を騙しながら努力し続けるのも、「才能」のひとつ、と言っていいんじゃないかと最近思っている。

***

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2021-02-19 | Posted in チーム天狼院, 川代ノート, 記事

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