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私の仕事の選び方。興味がなかったアパレルの会社で6年間働いた話。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山本 愛子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
29歳の冬だった。私は当時2,000人程の社員がいるアパレル会社の採用部署で派遣社員として働いていた。私は、毎日面接の対応をしていた。入社から2週間が経った頃だった。その日は社長面接で、プレス部署の面接を3名行うことだった。私の役割は、面接に来た3名を控え室に案内をして、社長とプレス部署の責任者に面接の開始の声かけ。全員が配置についたのを確認して、面接をスタートするだけだった。
 
3名の面接が終わった後、私の顔は凍りついていた。
 
面接を終えた社長は、とても怒っていた。
 
「山本は、本気でこのブランドが好きなのか?」と、社長に大声で叫ばれた。
 
このフロアには、社長とプレスの責任者と私しか居なかった。
 
こんなに大きい声で怒られたことは初めてで、マジで怖かった。
 
この2週間で行なった社長面接と今日の面接は、違った点があった。面接予定時間の5分前に社長秘書から、「今日から社長の面接は、面接室で行います」と言われた。今までの社長面接は、1階にある有名デザイナーのオブジェが並ぶ社長室で面接をする。社長室の前には、自社のブランドの商品が完璧にディスプレイされた場所があり、そこで面接を受ける人は待つことになる。
 
社長秘書からの電話を受けた私は、急いで1階から6階に上がり、いつもの面接室と廊下を見た。汚ない。面接室の前の廊下は、昨日まで行っていた社内イベントのボロボロの段ボールが積み上がり、その段ボールには「海苔」と大きく書かれていた。高く積み上がった海苔の段ボールは、かろうじて人が一人通れるぐらいの面接室に入る通路が残されていた。私は一瞬迷った。
 
面接室の中は綺麗だけど、廊下がやばい。でも、今日もここで面接をしていたから大丈夫なのかも?
 
そうこうしているうちに、面接者の3名が揃ってしまい、面接室から離れている控え室に案内をした。
 
急いで面接室に戻り、そこに社長が居た。
 
「山本、こんなところで面接する気なの?」社長の顔が引きつっている。これは、大丈夫じゃないとすぐにわかった。
 
社長は、段ボールを見るなり、すぐに全部見えないところに移動すると言った。オーダーメイドのスーツを着た社長と、8cmのヒールを履いた私が、汗だくで段ボールを片付けた。
 
そして、全員の面接が終わってからあの言葉だった。
 
「山本は、本気でこのブランドが好きなのか?」社長に大声で叫ばれた。
 
「好きです」と答えるしかない私。
 
「山本は、本気でこのブランドが好きなのか?」社長の声がより大きくなる。
 
「好きです」と答えるしかない私。このままじゃダメだ。社長は怒っている。
 
「山本は、本気でこのブランドが好きなのか?」一番大きな声で、社長の顔が近くなった。
 
「好きです。でも面接室の廊下は汚かったです!」と答えた。
 
「そうだよな!」と言って社長は立ち去った。
 
その様子を側で見ていたプレス部署の責任者が、私を心配して、私の上司に「山本さんが辞めるかもしれない」と連絡をしてくれていた。後で聞いて、それぐらい派手に怒られたんだと思った。
 
その時の私は放心状態だった。社長は、ブランドの世界観を壊そうとした私を本気で怒った。私は怒られたことで、ブランドを作るということを体感した。衝撃的だった。ブランドを作るということはこういうことなのか? 社長がどうやってブランドを作っているのか知りたかった。
 
私のことを心配してくれた上司は、山本さんは悪くない。みんなが社内イベントの段ボールを面接室の前なんかに置くから悪いと言って、私を慰めようとしてくれた。私は、自分が辞めようとしていないこと、自分のブランドに対する責任感が足りなかったことを謝った。
 
私がアパレルの会社に入ったのは、前職を退職する時に、社長と話をした最後に「もう一つの人材派遣会社で、アパレルの会社が3ヶ月だけ採用部署のポジションに人が足りないから、次の仕事の間まで手伝ってくれない?」と言われたことだった。そのアパレルブランドを知ってはいたけど、自分で買ったことも、お店に入ったこともなかった。その社長にはお世話になったので、3ヶ月ぐらいだったら、次の仕事までの休憩だと思って面談を受けた。そして、社長から怒られた。
 
そこからの私は、その社長が出した本や過去の雑誌のインタビューやテレビを見て、どんなブランドなのかを勉強した。派遣社員だからと受け身ではなく、自分ができることがあれば社員の人に確認しながら、率先して何でもやった。2週間後に上司から「短期の派遣予定だったと思うけど、できれば社員になってほしい」と声をかけてもらい、社長面接を受けた。
 
「山本、俺は、素直な人と一緒に働きたい。面接に来た人がこのブランドがもっと好きになったと思ってほしい。よろしくね!」
 
面接は3分も経たないうちに終わってしまった。
 
3年後には、全国で自ら面接を行うようになっていた。服もバッグも名刺入れもすべて自社ブランド。関西弁から標準語になっていた。友達からもそのブランドらしいと言われた。
 
私は、一緒に働いている人の想いがわかった時、好きになった時に、その人たちと一緒に仕事を頑張りたいと思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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