サーモンを巡る出来事から考える、捉え方の違い
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記事:あかほりひとみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
【急募】
サーモンってどちらの色に近いですか?
ピンク色? だいだい色?
これは、私が自身のFacebookに投稿した質問だ。
どうしてこんな投稿をしたのかというと、服の色を巡って、母親とバトルになったのがきっかけだった。私からしてみればどう見ても橙色の服を、母親はピンク色だと言う。「橙色だ」「ピンク色だ」といった言い合いの末、私は、よく色が似ているサーモンを引き合いに出してみた。だが、結果は同じ。私はサーモンを橙色だと認識していたのに、母親にとってはサーモンをピンク色だと認識しているらしかった。
これ以上の言い合いをしても埒が明かないと感じた私は、第三者の視点を仰ぐことにした。それでFacebookに上記の質問を投稿したのである。
その日は母親と一緒にランチする予定だったので一時休戦し、出かける。
道中、道路のセンターラインが目に入った。車線をはみ出すことを禁止する、白ではない方のセンターライン。橙色。私はそう確信しつつ、試しに母親に問いかけてみる。
「道路の真ん中の線。あれは、何色?」
「黄色かな」
ピンク色と返って来ても良いように心構えは出来ていたのに、今度は黄色。訳が分からない。あまりに驚いて私が絶句していると、母親は言葉を重ねる。
「だってほら、教習所でも習ったでしょ。黄色って」
そうだっただろうか。信じられずWikipediaで調べてみると、確かに黄色とある。しかし信号機のライトだって緑色だけど青信号と言う。青は進めと同じように、黄は注意。実際は橙色だけど黄と言うことで、注意を促しているのかもしれないと解釈する。だったらそれは認識の違いではなく、呼び方の違いである。納得できたので話がややこしくならずに済んだ。
そう。後はサーモンが何色なのかが問題なのである。
「見てる世界は人によって違うから、良いの。違ったって」
母親は急に諭すような口調になって、私がまだ幼かった頃の話をしてくれた。
私は、産まれた時から斜視だと診断されていた。斜視とは、片方の目は視線が正しく目標の方を向いているが、もう片方の目は視線が正しく向かわない状態のことだ。症状としては弱視であったり、立体把握ができなかったり、物が二重に見えるなどの問題が生じる可能性がある。そのため私も日常生活では眼鏡が欠かせず、その上、自覚症状はないがどうやら人よりも立体把握ができていないらしい。
立体把握能力の検査では、サングラスを装着し、浮き出る仕様のイラストを掴むよう指示される。確かに、私はあれが出来なかった。元々イラストなのだから掴める訳がないでしょ。などと開き直っていたのだが、同じ検査を経験した母親には浮き出ているように見えたらしい。眼科医に、私が正しく認識できていない事を説明されたと話してくれた。
つまり私は人よりも平面的で、のっぺりした世界を見ているのかもしれない。同じように考えれば、橙色をピンク色や黄色に認識してしまう人がいたっておかしくない。先天的な色彩認識異常だと尚更問題として現れにくいだろうが、可能性としては十分にありうる。
ところで、その日のランチは回転寿司に行った。現物のサーモンを確認するためだ。
「どう? 橙色でしょ?」
注文したサーモンのお寿司を見せつけながら問うと、母親は渋々といった感じで肯定した。その後も何枚かサーモンを注文するが、母親は全て橙色だと認めた。ほら、やっぱり。勝ち誇った気持ちのまま、今度は投稿したまま放置していたFacebookを開く。
回答してくれたのは8名。橙色派の圧倒的勝利に思えた——が、予想はまるで外れた。
橙色派は4名、なんと、ピンク色派は3名もいたのである。残りの1名は、サーモンは橙色だが紅鮭はピンク色だという回答。つまり、サーモンを橙色だと認識している人も、ピンク色だと認識している人も、ほとんど半々だということ。本当に、人によって見えている世界が違うとはこの事だった。これを目の当たりにしてしまうと、数で物を言わせようとする考え方が馬鹿らしくなってしまう。例えサーモンを橙色と認識する人が大多数を占めようが、ピンク色と認識する人を無いことにはできないのである。結局は橙色派もピンク色派も、どちらの認識世界も正しいのだと認めざるを得ない。
この出来事について、もう一つ捉え方の違いを感じる面白い出来事があった。
「お母さんがピンク色派だったの? 最初に書いてあったのに?」
Facebookに回答してくれた友人と話していた時、指摘された事だった。サーモンに近いのはピンク色か橙色か、確かに私はそう質問した。友人は、最初にピンク色の選択肢が来ていたので、私をピンク色派だと勘違いしていたらしい。普通なら自分の意見を真っ先に置きたくなるものじゃないのかと、友人は不思議そうにしていた。
確かに、さほど重要でないことなら順番など気にしなかっただろう。しかし、今回の件でいえば、私一人の疑問ではなく母親を巻き込んでの問題。だから、私はあえてピンク色を先に置いたと言っても良い。橙色が最初に来ているからみんなも橙色と答えたんだ、そんな文句を入れられる状況にはしたくなかった。例え自分を不利な立場に追いやることになってしまっても、橙色派が優勢だと信じて疑わなかったのだ。
とはいえ、私の説明では友人を納得させられなかったらしい。どうやら私の考え方は理解してくれたみたいだが、心底どうでも良さそうなのである。こだわる部分を間違えているよとでも言いたげだった。確かに、橙色派が勝とうがピンク色派が勝とうが、それで色彩認識が変わる訳でもない。どうでも良いと言われてしまえば頷くしかないのだが、どんなに下らなく感じる事でも本気になって取り組む人はいる。今回、私はたまたまそれにこだわりたかっただけ。こだわる事に意味があるという捉え方をしただけなのだ。
見え方・考え方・価値観は人それぞれである。
サーモンは何色かという見え方。センターラインを何色と位置付けるかの考え方。どこに価値観の重きがあると捉えるか。サーモンを巡るこれらの出来事は、まさにそれらを表してくれた。私たちが日々、何気なく行っているコミュニケーション内には、恐らくそれ以上の捉え方の違いがあると言えるだろう。自分と相手の捉え方が異なるからと言って、頭ごなしに否定してしまうのは良くない。私がサーモンをピンク色に見えないのと同じように、自分にとっては当たり前の世界観が誰かにとってはありえない世界観にもなりうるのである。
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