「ソ」と「ン」、「ツ」と「シ」の違いが奥深い
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:喜多村敬子(ライティングゼミ 日曜コース)
子供の頃、片仮名の「ソ」と「ン」、
「ツ」と「シ」の違いにいつ気が付きましたか。
私は小学校1年生の終わり頃まで、区別がついていなかった。
父親の仕事の関係で米国に2年滞在し地元の小学校に通った後、
日本の小学校に1年生の2学期ごろに入学した。
その時に平仮名は書けたが、
クラスでは既に平仮名と片仮名の学習は終わっていて漢字に入っていた。
そこで片仮名の五十音字表で自習して覚えることになった。
そこに問題発生。
問題の四つの片仮名のはらいが下からか上からかの違いに気づかなかった。
「点が1個と斜線」「点が2個と斜線」の字がノートに書かれるばかりだった。
「ソ」と「シ」はサ行、「ツ」はタ行、「ン」は最後と
五十音順の表の中にバラバラに散らばっている。
五十音順に一字づつ練習しているので、並べて比較することがなく、
違いに気づかなかった。
今思うと、なぜ「書き方」などの教科書を見なかったのだろう。
実際に文章の中に使われている片仮名に触れるうちに、
同じ「点が1個と斜線」「点が2個と斜線」の字に
それぞれ2種類の読み方があるのは何か変だと思った。混乱した。
別の字?どこが違う?と考えて、向きの違いにやっと気がついた。
担任の先生が気づいて、ヒントをくれたのかもしれない。
ともあれ、「分かった感」はパズルのピースがぴったり合った時の
すっきり感と同じだった。
ところが、はらいが上向きか下向きか書き分けているのに、
自分の書く「ソ」と「ン」が紛らわしい。
「ツ」と「シ」も紛らわしい。
変だなあ、ちゃんと書き方を守っているのにといつも思っていた。
6年生の時、「ソ」と「ツ」の点は縦で、
「ン」と「シ」の点は横向きだと友達が教えてくれた。
その通りに書くと、あら不思議、あれほどに紛らわしかった
「ソ」と「ン」、「ツ」と「シ」がはっきり区別がつく。
まるで顕微鏡のピントが合った瞬間の様にはっきりくっきりと分かる。
すごい!と思った。
気がついているといないとでは、全く物事が違う新鮮な経験をした。
はらいの向きの違いに気づいたことで十分だと思い込んでいたせいで、
見落としていた。
十分に知っているつもりで知らないことがあるのだと知った。
さて、ここまでは小学生の頃の話。
さらに続きがある。
40代になって、外国人向けの通訳ガイドのボランティアグループに入り、
絵を描くのが割と好きな自分がチラシなどのデザインをすることになった。
ど素人がPCでwordやペイントで作成することになったのだ。
便利なことに、レタリングなどの文字のデザイン作業ができない自分でも、
フォントのリストから選ぶだけで文字が整う時代になっていた。
そこで初めてフォントの違いをじっくり見ることになった。
あの片仮名4文字を見ると、
「はらいの上下の向き」と「点の縦横向き」の法則が当てはまらない。
ここまで読む前に、とっくにそのことを知っていた人には今更な事だと思う。
まず、点は縦向きか横向きに書かれているのではなく、斜めだった。
よく見るためにフォントを拡大コピーして重ねて光に透かして見た。
下行に示すHGP明朝体Bでは、
「ソ」と「ン」の点は、同じ角度で斜め。
「ツ」と「シ」の点は、角度の違いがわずかな斜めの横並び/縦並び。
はらいは上下の向きだけでなく、角度も違う。
同様にMSPゴシックを見ると、
「ソ」と「ン」の点は、少し角度が異なる斜め。
「ツ」と「シ」の点は、角度の違いがはっきりした斜めの横並び/縦並び。
はらいは向きがわずかに分かるが、
角度と形の方が決め手になっている。
はらいの向きを暗示する起筆の表現は、
この画面を拡大しないと分からないかもしれない。
色々なフォントを見ていくと、さらに多くの見るべきポイントがあった。
フォントの世界は、私が知っていた「はらいと点の向きの法則」などより、
もっと繊細な世界だった。
見る人が字の具体的な差異を認識していなくても、
直感的に判読できるようにするというデザインの力に驚いた。
手書きではどうなっているのかと、ペン字のお手本を見てみた。
「点の傾きはほぼ同じ」「点とはらいの頭が横線上/縦線上に並ぶ」
「はらいの向きの上下」が書き分けのポイントだった。
ペン字でもフォントでも、
分かっていると思っていたことがまた違っていた。
見えていなかった。
ちょっとへこむが、世界は少し広がったと思う。
こんな自分なりの新発見や再発見を、
人は一生続けていくのだと思う。
書道教室で一緒になる90歳の女性を見ていて一層そう思う。
彼女は最近、2年ほど前に習い始めた楷書行書に続き、草書を習い始めた。
旧仮名や崩し字になじんだ世代の彼女でさえ、
お手本を見て草書の崩し方がすぐに分かるわけではなく、
先生の説明で分かることも多い。
自分の娘程の年齢の先生に積極的に聞きに行き、
合点がいったときの嬉しそうな表情が印象的だ。
学ぶことがいかにも楽しそう。
幾つになっても学べるし、楽しめると目の前で示している。
自分が気づいていなかったことに今さらながら気づいた時には、
がっくりするよりも世界が広がったことと
分かったということを楽しむ方がずっと良いと教えてくれている。
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