二世につなぐ想い
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記者:ひまわり(ライティング・ゼミ集中コース)
「どんなかたちでもいいから、辞めずに剣道を続けて欲しい。」
小学4年生の私にそう言ってくれたのは、町道場で剣道を教えてくれている先生だった。
私が剣道を始めたのは小学3年生の時。
2歳下の小学1年生の弟が剣を振り回すチャンバラやりたさに剣道を始めたことがきっかけだ。
なんとも男の子らしい理由だ。
それまでの私は剣道というものが何かも知らず、興味もなかった。
しかし、弟が剣道を始めたことをきっかけに弟のお迎えがてら剣道の稽古を見学するようになった。
あれから24年たった今でも、その見学していた時の印象が忘れられない。
町道場は、縦15m、横25mくらいの広さがある体育館で、30人から40人の子供がひしめき合って稽古をしていた。
こんなに子供がいればその分保護者もいる。
保護者たちはボーと見学している私に
「剣道やってみない?」
「楽しいよ」
「頭よくなるよ」
と唆してきた。
「やらない」
と断っていた私だが、しばらくするとこの町道場に入団していた。
始めて見て分かったことは、打たれて痛いし全然楽しくない。
そして、頭もよくならない。
保護者に騙された…。
しかし、今更やめることもできず剣道を続けた。
学年があがり四年生になったある日の土曜日。
近所の友達と児童館で遊んでいると左のお尻だけに激痛が走り歩くこともままならない。
足を引きずりながら児童館の先生のもとへ。
女の先生だが恥ずかしさを隠し切れない。しかし耐え難い痛みには抗えない。
お尻を見てもらうと左側だけパンパンに腫れており、先生が慌てて私の親へ連絡をする。
親が飛んできてくれたがそのまま市民病院で診察を受け、原因がわからずそのまま入院することになった。
結局原因はわからないまま、1ヶ月経ち、腫れも痛みも引いたので退院することとなった。
しかし、原因がわからないまま運動することはできない。
運動はとりあえず控えることとなったので、剣道の練習も見学することになったが、また稽古するようになったら同じことが起きるんじゃないのかと私よりも親が心配していた。
それもそうだ。
私は、生後三か月の時に生まれつき左足の股関節が外れて生まれてくる先天性股関節脱臼と診断され、2歳まで自分の足で歩くことができなかった。
5歳で手術を受け、歩くことも走ることも問題なくできるようになったが、あれから4年たち不安が募ったようだ。
私の意見など聞いてくれそうにない母が
「剣道辞める?」
と聞いてきた。
全く考えていなかったことを突然言われると子供でもビックリするものだ。
母は稽古を見ているだけの私が今まで通り剣道ができないならこのままでは不憫だと思ったのだろう。
私は特に続けたいという思いもなかったので辞める方向で先生と話をした。
そこで言われたのが「どんなかたちでもいいから、辞めずに剣道を続けて欲しい。」という言葉だった。
なぜ先生はこんなことを言ってくれたのだろう?
当時の私は、先生の指導を愚直にこなすだけ、自分で考えることもしないので試合でも勝てないような生徒だった。
稽古しなくてもいいからと熱心に説得してくれる先生に対し、親子共々「はい」と返事するしかなかった。
しばらく見学だけが続いたが見てるだけだとやりたくなってくるものだ。
先生にお願いをして少しづつ無理のない程度に稽古に参加させてもらうことにした。
小学6年生になるころには、2年前の出来事がそんなこともあったねと思い出になるくらい、問題なく稽古することができていた。
しかし、相変わらず勝てないまま六年生最後の大会。
奇跡が起こる。
なんと地区の大会個人戦で優勝したのだ。
親はもちろんのこと先生も自分のことのように喜んでくれた。
ここから私の剣道人生に快進撃が始まった。
中学三年間の地区大会個人戦では、たった1回を除いて優勝した。
団体戦でもチームのメンバーに恵まれて県大会で優勝することができた。
高校に進学してからは、国体選手にはなれなかったものの選考選手としてノミネートされるまでに成長することができた。
あの時、引き留めてくれた先生の言葉は、勝つことに執着していた私にとって、とても大きな意味があったように思う。
町道場のためとか、勝ち負けにこだわることのない先生の思いが、どんなにつらい練習でも頑張ろうと思う私の気持ちを支えてくれた。
諦めないことの大切さ、辛いときを乗り超えれば楽しいことも嬉しいこともあるというあの時の経験が大人になった今を支えてくれている気がする。
生まれつき悪い股関節を持ちながら、普通分娩で子供を2人産むこともできた。
そんな子供たちは、あの時私を剣道の道にとどまるよう引き留めてくれた先生に指導を受けている。
辛いこともあるだろう。
しかし、それを乗り超える術を心で教えてくれる先生がいる。
勝ち負けにこだわりすぎることなく、剣道で大切とされている心を養って立派な人になって欲しい。
***
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