テレワーク中限定、私のお昼休みのルーティン
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小池香苗(ライティング・ゼミ集中コース)
私は今、西日本に住んでいる。
西日本エリアの中では比較的大きな駅近くのマンションで、仕事に行くにも最寄駅まで3分もあれば着くのでアクセスは便利だ。
テレワークが増えた最近は、その便利さが有効活用しきれないでいる。駅の近くだから、けっこう音もいろいろ聞こえてくる。まあ、それもあってか、ステイホームでも外界の気配を適度に感じながら、今までなんとかやって来られているのかもしれない。
2020年、世界で生活スタイルが大きく変わってから、日々、制度や毎日に変更、変更が続いている。終電時間、毎日の通勤、部活動の時間……ルーティン、とされてきたことがそうではなくなったところもある。一方でマスクや消毒が共通のルーティンとなって、随分経ったような気がする。
テレワークが多くなってから、私個人でのルーティンがひとつできた。
そのルーティンの始まりは、私がまだ在宅での勤務のペースをつかめていなかった頃のことだ。気怠い午前の仕事をひと段落させ、デスクを離れた。外はしとしと霧のような雨が降り空は煙っていた。お昼12時半を過ぎた時だった。
深呼吸しようとベランダに出た。視界の先のほうで、鮮やかな色のラインがすうっと通り抜けていった。
「なに、今の?」
それは、ジブリ映画「千と千尋の神隠し」で、ハクがシュルッと千尋のそばをすりぬけていくような。神社で手を合わせていたら、ササーッと涼やかな風が髪を揺らすような。
そんな神々しさを感じた。雨にむせぶもやの中だったからかもしれない。
それは、新幹線だった。
でも、いつもと違う。
その新幹線は、鮮やかなピンク色を纏っていた。
翌日から、同じ時間にベランダに立った。
次の日は、来なかった。
その次の日、ピンク色が現れた。
見つけると、自分が想像していた以上に胸が高鳴った。
見送って、調べてみた。その新幹線は、毎日ではなく決まった日に1日1往復だけ運行される「ハローキティ新幹線」というものだった。
なんだ、神々しく思えたけど、キャラクターのラッピングだったのか。
そもそも私はハローキティを、子どもの頃から特に好きなわけでもなかった。どちらかというとキキ・ララ派だったし、そもそもキャラクターものにさほど興味を示さない女の子だった。野球やお笑いのほうが好きだった。
この新幹線のことを、事前に「ハローキティ新幹線」だと聞いて知っていたとしたら、ここまで惹きつけられなかっただろうな、と思った。ちょっと拍子抜けした。
でも、次の日もベランダに出た。
見つけるとなぜか、想像していた以上に嬉しくなった。
なにがそんなに心躍るのか、それは、百聞は一見にしかずなのだが、一体なにがそんなに心をつかんだのか。
自分だけかとまず思ったが、見た人の反応はそれなりに大きいようだった。
そのことは、私がピンクの車体に心奪われた後、3ヵ月ほど同じ時間帯に新幹線通勤をしていた時期に20回以上は確認した。
ハローキティ新幹線がホームに入ってくると、2度見したり、集まったり、写真を撮るなど何らかの反応がかなり見られた。もの珍しいという理由もあるかもしれない。ただ、駅のホームで見るそれは、ベランダから見た姿とは違うと私には感じられた。
その違いは何なのか。
まず、新幹線とハローキティ、に違和感があった。
キティは、メルヘンな印象。やわらかい、ソフトな、ゆっくりしたイメージ。
剛健な金属の塊がキティを纏うなんて、うまく想像できなかった。
時々地方にある、無理矢理に電車に親和性のないラッピングを施したように浮いてしまうのではないか。ブームに乗って無理に作ったゆるキャラが全然ゆるくなかったりかわいくなかったり。名称を見たとき、そんなことを思った。
かつて、JR西日本に期間限定で人気を博した「エヴァンゲリオン新幹線」があった。紫のボディで、形は違えど色だけで充分にそれを表現していた。新幹線という、ヒーローの素質をもつ夢の物体に再現されていたからかもしれない。
惜しまれつつ引退したその車両を塗り替えて2019年に誕生したのが、ハローキティ新幹線だった。
速い、流線形の、機械的な、近未来的な、そんなイメージがエヴァと新幹線にはあった。親和性があると思った。でも、キティは?
しかし、実際を見るとその思いは消えていた。
ハローキティ新幹線は、キティそのものが新幹線になって走り抜ける、そんなデザインでは全くなかった。
動いていても、キティ自身が動いているのではなかった。
キティは、キティとして新幹線に乗っていた。
キティは、リボンを持って新幹線に乗っていた。
街中を駆け抜ける様子は、キティが持つリボンが風にはためきながら通り過ぎていくようなのだ。
実際、新幹線の窓の部分は、8両すべての窓にリボンのラインが描かれていた。
風にはためくリボンが、走り去っていく。
初めて、霧の中に駆け抜けていった鮮やかなラインが、そんなふうに見えたのだとわかった。
デザインが生きているように感じたら、人は心奪われるのではないか。
過ぎ去ったあとの余韻が。残像が。
爽快に、脳裏に残っていた。
落ち着いて周囲を見回すと、ピンクの車体に向かって、ビルから手を振る会社員、子供たちもいた。
コロナウイルスによって日常が時に澱みや不安を感じる昨今、
いつも決まった日、決まった時間に現れる新幹線に、爽快感をくれた新幹線に賛辞を送る。
そうして、今日もお昼休憩に、あのピンクの車体をわくわくしながら待つ。
***
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