【わたしの好きな人を紹介します♡】
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:人生相談YouTuber 和泉あんころ(ライティング・ゼミ平日コース)
いつか、この人の話を書きたいと思っていた。
元同僚であり、自分のこどもでもおかしくはない年齢の人のことを。頑張ればギリギリ産めるであろう歳の差があるあの人のことが、わたしは大好きでしかたがない。
わたしが働いていた職場に、新卒の子が配属されると知らされた。新卒ってことは大学出たばかり? ってことは22歳くらい? と推測していたら……なんと! さらに若くてまだ18歳だそう。どんな方がいらっしゃるんだろう? 年度末のわたしたちの関心ごとだ。……というのも、わたしたちのほうが年齢も上だし、職場歴は長い。その意味合いではわたしたちが先輩っぽく見えがち。しかし、相手が正規の職員さん、わたしたちはパートなので、いくら相手が若いとはいえ、正確にはわたしたちの上司にあたる立場なのだ。
「4月から新たに同じ係になる方のことなんやけど」と上司が口を開いた。
どんな方かがわかったのだろうか? 「先に伝えておいたほうがいいかと思って……」と耳にした情報。その方は、ハンディキャップがあるのだそうだ。左腕の肘から手がないらしい。配慮が必要になると思うけれど、皆様あたたかく迎えるように、とのことだった。
驚きは隠せなかった。新しくいらっしゃる方について、というよりも、人事の判断についてだ。
わたしたちの部署はイベントやセミナーが年に何回もあり、その度に会場設営や重たい荷物を運ぶこと、身体を動かすことが多い部署なのだ。適材適地という言葉があるように、もっと能力を活かせる場所があるのでは? と疑問に感じずにはいられなかった。
「配慮」というのも線引きが難しく、どこまでが親切な配慮でどこからが無礼な配慮なのか……境界線が難しい。困っているように見えたら助ければいいのだが、あまり気を遣いすぎて出来ることさえ口を出すのもかえって失礼な気がする。「そのあたりの匙加減が難しいね」とパート仲間で話していた。
しかし、わたしたちの心配は杞憂に終わった。
初々しくてかわいらしい女の子が自己紹介をしてくれた。何をしてよいかわからなさそうな彼女に、お節介なわたしは一通り知っておいたほうが良さそうなことを伝えたり、窓口対応の時には誰かの隣に座って聞くといいなどと助言をしたりした。とは言え、先輩が対応中に「お隣、失礼します」と入って行きづらいだろうと内心思っていた。でも彼女は違った。ベテランの先輩についてまわり、積極的に電話や窓口に出て、数ヶ月も経つうちに新卒だとは思えないほど職場に馴染んでいた。
ハンディキャップもまったくこちらに感じさせない。
ある時、彼女が重たい荷物を片手で一生懸命に引っ張っていたのを見て、思わず
「流石にそれは両手つかわなきゃ無理でしょ〜」
と言いかけ、慌てて口をつぐんだ。彼女に両手がないことをすっかり忘れていたのだ。
それくらい、彼女は普段から他の人と何ら変わりなく仕事をこなしていたのだ。
彼女が来てから、職場も変わった。長らく紐で綴じられていた書類はクリップでとめられるようになり、取りづらい場所にある荷物は使いやすい場所に移動された。
明るくいつも笑顔でいる彼女に、わたしは出勤するたびに救われていた。
ある時、社外で彼女と一緒に仕事になった。外部の講演会とワークショップに参加させていただいた。勤務時間も過ぎていたので
「もし時間あるなら、せっかくの機会だし、今日の感想を共有しない?」
とダメ元で喫茶店に誘ってみた。彼女は快く承諾してくれた。
わたしたちは好きなケーキを食べながら、さっきまで参加していた講演内容についての感想をシェアした。講演会の主催団体は「生きづらさを抱える人たち」を対象にした自助グループだった。
彼女は
「わたし今まで、あんまり悩んだことがないので、正直、ピンと来なかったです……」
と打ち明けてくれた。ワークショップで悩みを共有する時間も、話すことがなくて困ったそうだ。悩みがないなんて、贅沢な悩みである。
これまで何度か聞いてみたいとは思っていたものの、不躾な質問すぎるかな? と遠慮していたことを思い切って聞いてみた。
「悩んだことないってよく言うよね? 腕のこととか、気にしたことないの?」
「うーん、わたしは全く気にしていませんが、確かに患者会にいくと気にしてる子はいますね。 夏に頑なに長袖で隠す子もいますし……わたし普通に半袖、着ちゃいますけどね」
「気にしないのは、昔から? 例えば自分が気にしてなくても、小さい頃に学校とかでまわりに何か言われるとかなかったの?」
「ああ、言われましたねぇ」
あっさり答える彼女。
「うちの学校、わりと荒れてたので、何かしら悪口は言われるんですよ。 ブスとか……太っていればデブ、成績が悪ければバカとか。 わたしは言いやすい特徴が腕やったから言われましたが……」
「それで学校に行きたくない、みたいな気持ちにはならなかったの?」
「ああ、もともとわたし、学校行きたくなかったので、あんまり関係ないですね」
もう、笑ってしまった。彼女らしい。以前に彼女から「あんなに学校をサボってた割に、毎日、仕事には楽しそうに行くのね」と親に嫌味っぽく言われると聞いていた。
「いやぁ……やっぱり、わたしあなたのことが好きやわ、大好き!」
人は常に、欠けているもの、ないものばかりにとらわれて生きている。囚われの身では、今あるものすら気付けないし、本来持っている魅力や能力さえも上手く活用できない。
どんな人間にも、持ってうまれたものもあれば、ないものも必ずある。すでに手札は配られており、ゲームは始まっているのだ。交換や返品はできないけれど、大富豪にもなれるし、その気になれば革命だって起こせる。人生というゲームは、むしろ限られた手札から戦略や最強の一手で逆転勝ちしたほうが気分がいいではないか。
もちろん人生は勝ち負けではなく、ただの例えなのだが、
目の前には、例えですら人生を勝ち負けではくくらないであろう彼女の素敵な笑顔がある。
何かに悩んでいたり、自分に足りないものにばかりに目を向けて前向きになれない人は一度、彼女に会って話をするだけで、みんな元気になれそうな気がする。
「ねぇ、いつか……わたしがライターになったらあなたのことを書いてもいい? 絶対に勇気が持てたり励みになったりする人が世の中にたくさんいると思うんだよね」
「わたしの話でよければ、全然いいですけど……」
と言いながら、自分の良さやわたしが好きと言ったわけはあまり伝わっていなさそうな顔できょとんとしている。そんなところも、わたしが彼女のことを好きな理由のひとつだ。
彼女のケーキがだいぶ前から綺麗になくなっていたのに、わたしがずっと話を続けて彼女を待たせていたことに気が付いて、わたしは急いでケーキを頬張った。美味し♡
***
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