あえて空気を読まない、という選択
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ちー(ライティング・ゼミ集中コース)
社会人8年目。未だに慣れないのは、空気を読む(強制)という文化。
残業中に、これ、よろしくーと、曖昧な指示を出す上司。
その瞬間に何かひとつでも質問しないと、後々質問しづらくなってしまう雰囲気を察する。
「新しい商品ですか?」
声をかけられたその一瞬でなんとか絞り出した質問だが、その瞬間空気が変わる。
あーもうバカ。やってしまった。
見たことがない商品名だから、そんなの商品名を見たらわかるのに。上司に、またお前は何も見てないんだな、と思われるに違いない。入社してから何度この空気を味わったことか。
「それが、違うんだよ」
意外な言葉に、自分の足元を見ていた目線が上がる。話を聞くと、実は昔からあった商品らしい。ただここ数年は全然売れてなかったとのこと。
人の入れ替わりが激しい僕の部署は、そんな商品があることすら誰も知らなかったと思う。正確には、知っていたかもしれないが数年売れてない商品のことなんて、とっくの昔に忘れ去られていた。
その商品が、なぜかクライアントの目に留まり、なぜか売れてしまったらしい。
それを、入社半年の僕が担当することになった。
いやいや、確かに経験者枠で入社したし、社会人経験もこの部署でいうと長い方だけど、転職してきたばかりの僕に担当させることないでしょ、と心の中で軽く毒づいたあとに続ける。
「そうなんですか?」
「まあ、俺も詳細は分かってないから、営業の話を聞いたあとに考えよう」
「わかりました」
いくら経験者だからとはいえ、入社半年の人間に任せる業務量の範疇をとっくに超えている。というか、入社前に任されると聞いていた仕事と全然違うし。
今日も新規事業立ち上げのための準備が全然終わらず、恐らく退社は23時を過ぎるというのに。
使える人材と思ってくれるのはありがたいが、何でもやらせすぎでは?
翌週、営業との打ち合わせで当社に求められている役割と、商品内容のおおよその方向性が固まった。会議終了間際に上司が言った。
「じゃあ、あとは企画書、頼んだよ」
あ、これ、もう質問できないやつだ。
その日の夜。どうしても企画がうまいこといかない。というか、クライアントの事業内容や取り組み、企業理念について僕が無知すぎるのだ。
はっと時計を見ると、22時30分。集中力なんてものはこのビルのはるか下、ユーラシアプレートに埋まってしまったみたいにヒトカケラも残ってない。
帰ろうとしている上司に、空気を読まずに声をかける。
「すみません、企画書なんですが」
上司がお前、今かよ、という顔をしているのを敢えて気づかないふりをして話を続ける。
「この企画の目的って、これでいいんでしたっけ」
上司は目を瞑り、黙って僕の話を聞いている。
一通り話し終えた後、上司が口を開く。
「それじゃあダメだろう」
何も言えない僕に、上司は続ける。
「今回の規格の趣旨はー」
ダメなのは企画じゃなくて僕の頭だ。上司が帰るのを諦めて説明してくれているのに何一つ頭に入ってこない。
とりあえず上司の言葉を聞き漏らさまいと、聞こえてきた言葉そのままに必死にキーボードを叩いてメモを取る。
「ま、頑張れよ」
一通り説明し終え、上司は満足げにそう言ったあと颯爽と帰っていき、オフィスには僕一人だけが残された。働かない頭を抱えながらどうにか企画書らしきものを書き終え、家路についた。
翌日。出社後、改めて読み返してみると何がなんだかわからない。
もう一度聞くしかない。上司を見ると、話しかけるなオーラをばんばんに放っている。が、話しかけないわけにはいかない。なんせ、この企画書を作らないと話が進まないのだ。
今日もまた、空気を読まずに話しかけた。怪訝な顔をする上司。
「この企画書なんですが」
「どれ、見せてみろ」
何がなんだかわからない企画書に一通り目を通す上司。その横で鈴木園子のように白い顔をした僕がうなだれている。
「なかなか良いじゃないか、これで行こう」
「へ?」
思いがけない言葉に、ヘンなところから声が出てしまった。
上司の満足げな顔を見ながら、それにも気づかないふりをして僕は続けた。
「この企画書、自分で作っておいてアレですが、何がなんだか分からなくなってしまいました」
上司がきょとんとする。何を言ってるんだこいつは、という顔をしている。もう話を切り上げたいらしい。
僕は敢えて空気を読まず続けた。
「この企画、練り直したいので営業とのミーティングを再度設けても良いでしょうか」
上司はニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
「どうして俺がお前に新しいことをどんどん任せるか、理由がわかるか」
「わかりません」
そんなの、使い勝手が良いからに決まってるだろう。と、頭の中で返事をする。それより、営業とのミーティングを再度設けてくれないと良い企画書ができない。良い企画書ができなければ、この企画を実行できないし、何よりも予算を回収できない。
「お前は空気を読まない。俺がどんなに忙しそうに、帰りたそうにしてても、ストレートに疑問や提案をぶつけてくる。
それが面倒に感じるときもあるが、たいていのことはお前の疑問があるから上手く進んでいる。
これが空気を読み、言われたことをただ形だけこなす奴だったら、今まで任せてきた案件もここまで上手くいっていたかは分からない。
お前が空気を読まずに仕事に向き合っているからこそ、俺はお前を評価してる。
だから、お前のやりたいようにやればいい」
鳩が豆鉄砲を食ったようとはこのことだ。
敢えて空気を読まない質問や指摘ばかりする僕が評価されている?上司に?
一瞬面食らったが、わかりました、とだけ返事をして営業に連絡した。
それからも、僕は敢えて空気を読まずに上司や営業、時には社長にも直接話に行った。
空気を読まずに話しかける時には、必ず自分の意見を持っていくこと、相手にどうして欲しいかを明確にすることを心掛けている。
それは筋が通ってないといけないが、へんちくりんな意見でも面白がって聞いてくれる場合もある。
もちろん失敗することもあるが、失敗しても気にしないことだ。
企画書はその後営業の協力を得てブラッシュアップされ、クライアントに提出された。
リアルイベントでクライアントの商品を告知するというものだったが、リアルイベント+Web配信を取り入れることで、より多くの人に見てもらうことができ、結果として予算以上の売り上げになったそうだ。
これも、僕が空気を読まずにあの夜上司に質問をしたからだと言えないこともないが、上司が丁寧に向き合ってくれ、僕を評価してくれ、それを僕に伝えてくれたからに他ならない。
上司の「空気を読まないお前を評価している」という言葉は、これからも辛いことを乗り越えるときの僕の心の拠り所になるだろう。
***
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