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子供が登校渋りになった時に読む話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮村柚衣(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「なんか、ヤダ」
 
玄関の扉を開け、雨音の中で涙を目にいっぱいに貯めながら小学校4年生の娘は言った。
 
デジャヴだった……。
 
娘が小学校に上がったばかりの頃。
ゴールデン・ウィークが終わり、汗ばむ季節が始まる頃に“それ”は始まった。
 
いつもどおりの朝だったように思う。
7時に起きて、歯磨きをして服を着替え、朝食を食べる。小学校へ行くための身支度をして7時45分に家を出る。そんな普通の朝だったように思う。
 
しかし、その日、娘は学校に辿り着けずに泣きながら家に帰って来た。
 
「胸が痛い」
 
娘は目に涙を貯めながら訴えた。
 
「学校の、途中まで、行ったけど、胸が、痛……くて、歩け、なく、て。」
 
嗚咽混じりに、言葉を絞り出す娘を見て、私と夫はオロオロするばかりだった。
 
熱はないが、大変な病気かもしれない……。
 
「とりあえず、学校は行かなくていいから。ゆっくりし。」
 
そう言って、私は小児科の電話番号を探し始め、夫は職場に遅延の連絡を始めた……。その途端、信じられないことが起こった。
 
娘がケロッとした様子で楽しそうに机に向かってお絵かきを始めていたのだ。正に、青天の霹靂だった。
 
「元気やん! 学校サボりたかっただけやろ! 学校行き!」
 
私は娘に向かって鬼の形相で叫んだ。
 
娘は泣いて行きたくないと訴えたが許さず、無理やり自転車に乗せ、夫が学校へ送り届けた。
 
もし、あのまま休ませていたら、娘は甘えて明日からも学校にいかなかったかもしれない。娘を甘やかさずに済んだと、私達はホッと胸を撫で下ろした。
 
が、しかし。
 
予想に反し、その日から娘の登校渋りが始まったのだった……。
 
今まで、一人で学校に歩いて行っていたのが嘘みたいに学校に一人で行けなくなった。それどころか、教室にまで入れない日もあった。
 
そんな日は、教室の後ろの扉の近くの廊下に机を出して授業を受けた。また、先生の席に座って授業を受けたりもした。
 
廊下や先生の席から授業を受ける方が目立って嫌だろうと私は思うが、娘は教室の中の自分の席に座ることの方が嫌だったらしい。未だに、その理由は不明だが、娘なりの理由があったのだろうと思うが、その理由を言語化するには幼すぎたのだと思う。
 
毎朝、夫が出勤前に娘を自転車に乗せ小学校へ送る日々。
 
学校に一人で行けない、教室の自分の席で授業を受けられないことがある以外は、楽しく学校生活を送っているというのだから意味が解らない。
 
夏休みが終わり秋から冬に季節が移り変わっても、状況は一向に改善される気配はなかった。
 
このまま一生、娘は学校にいかなくなるのではないか?
今の状態は甘やかしているだけではないか? もっと厳しくした方が良いのではないか?
 
半年経っても状況が改善されない日常に、私のストレスは溜り不安ばかりが膨らんでいた。
 
そんな時、友人である学童保育の経営者と一緒に飲む機会があった。私は何気なく娘の事を口にした、その瞬間……。
 
「大丈夫! 絶対、(小学校に)行くようになるから!」
 
と、友人は自信満々に応えた。
 
「えっ? どういうこと?」
 
「俺ね、全校舎で年間300人くらいの小学生を観ているけど、学童始めてからの6年間で1人も不登校とか登校渋りが解消してない子は居ないの」
 
「そうなん?」
 
「うん、そう。絶対に(小学校に)行くようになる。大人は大きな原因があって学校に行かない(行きにくい)と考えがちなんだけど、ちょっとした事なんだよ。通学の距離とか、荷物の重さとか、暑さとか、理由は1つじゃなくて色んな要素が重なってそうなっているんだよね。焦らないこと。絶対に行くようになるから。以前、不登校になった子は電車に1時間くらい乗って私立の小学校に通っていたのね。歩いて5分の地元の小学校に転校したら、楽しそうに通っているよ。」
 
そう言われて、我が家が学区外から越境で小学校に通っていることを思い出した。徒歩で片道20分。小学1年生にとっては結構な距離となる。
 
真夏日に、自分の体より大きいランドセルを背負い、鍵盤ハーモニカを持って慣れない道を20分歩く娘の姿は想像するだけで辛そうだった。
 
「あとさ、娘が初めて学校行きたくないって言った日、私、怒って無理やり学校に行かせてん」
 
「えっ! そうなの!? ダメだよ。それはダメ。蛹なんだから、心の充電が必要なの。自分から行きたいって言うまで無理強いしちゃダメだよ。ちゃんとね、自分の中で成長しているから。まずは、ゆっくり休ませてあげて。」
 
そうか蛹なのか。と、私は妙に納得したことを覚えている。
 
それから、私達夫婦は娘のペースに寄り添って少しずつ進むことに決めたのだった。娘が付き添って欲しいと言う間は、ずっと付き添おう。小学校卒業しても付き添って欲しいと言ったら、それでも付き添おうと。
 
年が明け、1年生の後半に差し掛かった頃。
娘は徐々に一人で小学校まで歩いて行けるようになっていった。
 
といっても、一人で行ける日もあれば行けない日もあるといった具合に一進一退の日々だったように思う。
 
しかし、私は不思議と焦らなかった。
 
『絶対、(小学校に)行くようになるから』
 
友人の言葉がお守りとなり、私を落ち着けていた。
まぁ、蛹だし仕方ないよね。と、ドーンと構えていられたように思う。
 
小学2年生になる頃、娘はやっと1つ年下の弟と元気に学校に行くようになった。授業も教室の自分の席で受けるようになり、心配することもなくなっていった。
 
あぁ、良かった。もう大丈夫。私達夫婦は、やっと本当に胸を撫で下ろせた。
 
それから、2年後……。
小学校4年生の娘が泣きながら、玄関の扉を開けて帰って来た。
 
これはアレですよ、間違いなく過去に経験した登校渋りですね。
私は心の中で呟いた。
 
大雨が嫌だったのかな?
4年生の勉強が難しいのかな?
弟が先に走って行ったのが嫌だったのかな?
 
最近の娘が嫌であろう、ちょっとした出来事が走馬灯のように頭に浮かんだ。
しかし、原因追求よりも、まずは娘の「(学校に)行きたくない」気持ちを受け止めることが先決。私はもう間違わなかった。
 
「そっかー。どうしたの?」
 
「わかんない。なんか、ヤダ」
 
「学校、嫌なん?」
 
「わかんない。でも、今日はヤダ」
 
「そっかー。じゃあ、今日は学校休む?」
 
「うん」
 
「じゃ、ゆぅちゃん(私)もお仕事お休みするから、“ららぽーと”に行こっか?」
 
「うん! 行く!」
 
さっきまで泣きじゃくっていた娘が、満面の笑みで応えた。
 
次の日。
 
「あんまり休むと行きにくくなるから」
 
娘は静かに呟き、学校に行った。
“ららぽーと”で心の充電が満たされたのだろう。
 
この2つの経験を通し、私は子どもが学校に行きたくない時は行かなくても良いと思うようになった。
 
だって、蛹だから。
 
蛹が蝶になるように、大きく羽ばたくために必要な時間なのだから。
 
 
 
 
***
 
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2021-07-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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