私は朝ごはんを取り戻した
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:持田美緒(ライティング・ゼミ超通信コース)
私はパンが好きだ。自分で焼いたパンも、パン屋さんで買ったパンも好き。
クリームたっぷりのクリームパンも、カレーが入ったカレーパンも、バターをたっぷり練り込んで外側がカリッ、内側はふわっのクロワッサンなんかも、とっても好きだ。
なかでも大好きなのが、食パン。
ここ数年ブームを起こしている「高級生食パン」。これがまた美味しい。普通にスーパーなんかで売っている、200円弱の普通の食パンとは格が違う。驚くほど美味しい。
私は虜になった。
ここに新しい「高級食パン屋」さんができたと聞けば買いに行き、あそこに美味しい「高級生食パン」が売っているとネットで見たら、お取り寄せする。
バターリッチで甘いもの、デニッシュ生地にあんこが巻き込んでいるもの、ふんわり食感でお口に入れると蕩けてしまいそうなもの。え? これが食パンですか? 私が知っているあの食パンはなんですか? って思う。
初めて有名食パン店Nの生食パンを買ったのは6年くらい前。久しぶりに他県に住む母に会いに行こうと新幹線に乗った。いつものように実家の最寄り駅からタクシーに乗って実家に向かう道すがら、長蛇の列を見つけた。なんだろう? と良く見ると、なんとその高級食パン屋があったのだ。「これは、あの有名な食パン屋ではないか!」と驚き、なんでこんな田舎に? と思いながらも咄嗟に「ここで降ります!」と無理やりタクシーを停めて、列の最後尾に並んだ。
母に食べさせてあげよう、きっと大喜びするに違いない、そしてありがとうと言ってくれるに違いない。私は、やっと買えた母の分と自分の分の2個の食パンを抱えて、ワクワクしながら実家に帰った。
玄関を開けて挨拶もそこそこに「お母さん、こんな食パン買ってきたで! 世間でめっちゃ流行っている、高級生食パンやで!」とパンを差し出した。
母が嬉しそうな顔をして「ありがとう」というのを、ご褒美を待つワンコのような表情で見つめる私。だが、母が放った一言は「こんなカロリーが高い食パン、食べられへんわ!」
おーい、私の時間とお金とワクワクを返せ〜。母はすでにこの食パンを食べていて、「これはカロリー的に無理」という結論を出していたのだ。しょぼん。
仕方がないので、2個の大きな食パン(高級生食パンは、大抵大きくて、一つずつ紙袋に入れてくれる)を持って、新幹線に乗って帰宅。そして、「ケチがついちゃったなぁ、もう……」と思いながら、袋から出してナイフを入れた。おや、なんてふんわりしているんだろう。いつもの食パンを切る感触とずいぶん違う……
これは、期待できるんじゃないか? と思いながら初めて有名食パン店の生食パンを食べた。
衝撃的だった。
今までの食パンのイメージを覆される感じ。これ、食パンって言っていいんですか? なんですか、この、金髪碧眼のイケメンに甘い言葉を囁かれているような、夢見心地になるようなふわふわとした美味しさは……
いつもスーパーで売っている食パンはもっとパサパサしていて、甘くもなければねっとりとした濃い感じの高級感とは無縁。ザ・庶民の元彼を忘れ、私は新幹線に乗って行った異郷の地でたまたま出会った新しいイケメンの彼をうちに連れ帰り、それを愛でて甘い香りに酔いしれ、ドキドキしながら頬張った。ああ、なんて甘美でふわふわなの!その甘さに酔いしれる、幸福なひとときよ……
私の朝は、これからはこの甘い香とともに始まるのね……
さようなら! スーパーにいる元彼!
私はすっかり、高級食パンに夢中になってしまった。
ところが、その濃厚で魅惑的な高級食パンも、しばらく食べ続けるとだんだん疲れてくるのだ。リッチに練り込まれたバターが腹にもたれ、甘味が口の中で粘つく。だって、金髪碧眼のイケメンに、毎日毎日甘い声で「ジュテーム、ジュテーム」って言われているようなもの。そのうち「うるさいわ! あっち行け!!」ってなる。絶対なる。言われたことないからわからないけど、なるに違いない。
バターリッチで砂糖たっぷりの甘い食パンのカロリーにやられて胃が疲れ、気がつくとお財布の中も淋しくなってしまった。そしてある日、イケメンの高級食パンに目移りしていた私はふと我に返り、元彼を思い出す。
私が甘い香りに気を取られて、わざわざ遠くへ足を運んで散財している間も、元彼はいつものスーパーのいつもの場所で私を待っている。私がスーパーに行かなくても、いい子にして待っている。
それに、食べるときにトーストしても、バターを塗っても、卵液に漬け込んでフレンチトーストにしようと、一切文句を言わない。高級な彼は「ボクはそのままが美味しいんだよ」「バターを塗ったり、ピザトーストにしたりなんて、しないでね」と囁く。
ええい! うるさいわ! 私はやっぱり、シンプルで従順な元彼が好きなのよ! 私の朝には、元彼が必要なのよ!!
いつもそこにいる、何を塗っても何を乗せても美味しい、懐の深いスーパーの食パンの大切さを改めて思い知らされた私は、こうしていつもの朝ごはんを取り戻したのだった。
***
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