「自由に作りなさい」からの解放
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事: 河瀬佳代子(ライティング・ゼミ超通信コース)
「あんたは、不器用だからねえ」
子どもの頃、母が私に決まって言ったセリフだ。
自由な発想をしてくださいと言われることが苦手な子どもだった。
そして図工の授業が死ぬほど嫌いだった。
小4の時には「空想の動物を、粘土の楽焼で作りましょう」という授業があった。周りの子たちはユニコーンとかトリケラトプスをダイナミックに作っていたけど、私は空想ということが本当に苦手だったし、頭で考えたことを形にするのはもっとできなかった。
その時粘土で作ったのは、ちんちくりんのパンダの背中に変な羽が生えたようなシロモノだった。作りながら「ダメだこりゃ」と思うくらい、ダメな出来だった。しかもちんちくりんパンダの脚の長さが違っていたので、立たせるとグラついていた。時間がなかったのでそれでいいやと提出したが、後日図工の先生に呼び出された。
「あなたの作品がグラグラしていて、焼き窯の中で倒れたんだよ。粘土の空気を抜いていなかったから焼いている最中に爆発もした。周りの人の作品にもぶつかって割れてしまったよ。壊れちゃった人全員作り直しだよ。あなたこんなに迷惑かけて、どう責任取るの?」
なんで図工で苦しまなくちゃいけないの?
そんなこと言われたって、できないもんはできないし。
図工の教師は威圧的で口も悪かった。身体も大きく怖い大人にそう言われたら、小学4年生はひたすら泣くしかない。
極め付けは小6の夏休みの図工の宿題だった。
縦と横が10cmくらい、高さが30cmくらいの角材がいきなり全員に配られた。
「これを使って、走る車を作りなさい」
えーなにそれ。木切れを走る車にするの?
考えただけで気が遠くなりそうだった。
今思うにその手順としては、角材に車のデザインを鉛筆か何かで書き、それをノコギリで切り出して、下にモーターとかタイヤをくっつければいいのだけど、今の子どもたちが手にするようなキットじゃないから作り方なんてもちろん教えてくれない。そこから考えなさいって、とことん意地悪宿題だった。もちろん小6の私には全く手に負えなかった。
角材は角材のまま、どんどん8月も終盤に向かっていた。困り果てて毎日泣きそうになっている私を見かねた母は、近所のうどん屋さんのご長男がプラモデル作りが得意という話を聞きつけて、その人に作ってもらおうよと言い出した。図工の成績が1か2しか取ってないのに、そんなことしたらやってもらったのがバレるじゃん! と私は一応反対したけど、何にもしないで宿題を出さない方が嫌だなと思い、どうでもいいやとお願いすることにした。
数日して出来上がってきた、走る車は完璧だった。モーターがついてちゃんと走ってカッコよかった。それを学校に持っていくと口の悪い男子が言った。
「誰かにやってもらったやつ、うまいね」
見るからにバレバレだったが、男子を無視して開き直って私はそれを出した。ついた評価はA+だった。もうなんでもいいじゃん、宿題出したんだからさ。先生に「誰に作ってもらったんだ?」なんて事情聴取されないし。図工なんて大嫌いだから適当でいいんだよ、そう思いながら6年間はなんとか終わった。
中学に行くと、図工は美術という名に変わった。
また恥をかかされるのか。そう思ったけど、図工と美術はなんとなく違っていた。
中2の時に、A4の1枚の紙の中にスクラップだけでデザインをして、コラージュを作りなさいという課題が出た。コラージュとは、様々な素材を貼り付けて1つの造形作品を作ることだ。今でこそネットで「コラ画像」で面白いものが出てきているけど、当時はネットなんてなかったから造形だけの作品だった。私は適当に雑誌や新聞の切り抜きを持ってきて組み合わせてコラージュを作り、提出した。
「おお、これ、いいじゃない。あなた、センスあるよ」
美術の教師は私の作品を褒めてくれた。
センスがある?
苦手なことばかりが次々と課題に出てきて、その都度苦しめられた、魔の図工の6年間を過ごした記憶からは考えられない言葉だった。自分が作った作品で褒められるなんて、人生2度とないのかもしれないしなあ。でも好きな材料で、自由に作っていいよと言われて作って褒められるのは気持ちがよかった。
図工の時の「自由に作りなさい」は、決まりきった枠組みの中で、気が向かないものでも「自由に考えないといけない」制限ばかりがあった。だから窮屈だったし苦痛だったのだろう。
美術の「自由に作りなさい」は、自分が枠組みを取り払ってどんどん想像し、創造できるものではないだろうか。私はこのコラージュをきっかけにして「創造」の意味が少しだけつかめたような気がした。そこからは、自分が美術の課題で作ることが苦痛ではなくなっていった。ここをこうして、ああしてと頭の中ですっと形が浮かぶようになると、自然と手が動いた。ものを作ることに対して「楽しいな」という気持ちが沸くようになった。
そして今、美術ではないけど、いろいろと頭の中で考えたことを企画して書くことをしている。小学生の時、自由な発想を形にできなかった私からは考えられないことだ。
手先が不器用といろんな人に言われていたけど、それは結局誰かが作ったものさしに当てはめられてただけだ。勝手に線を引かれて評価されることに縛られなくていいと思えればなんだってできるし、自分が作ることはなんでも好きと思える。そう考えが変わったのは、あの時の美術の先生の言葉だ。私を目に見えない縛りから解放してくれてありがとう。だから今はこうして、好きなことを好きなように作ることが楽しいと思えるし、これからも自由な発想でいろんなことを生み出していきたいと思うのだ。
***
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