言葉が生きる
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:長谷川 大祐(ライティング・ゼミ 超通信コース)
「長谷川君、来週までに〇〇の解析お願いできる?」
上司が何気なく私に依頼をしてきたある日の夕方。職場で若手の私は、頼まれたら断れない性分も少しばかりあるかもしれないが、何よりその人の力になりたい! という気持ちが先行して多少無理をすることがある。来週までに結果出せるかな。正直、仕事で力不足を感じ、焦る。もっと勉強しなくては。その日の帰路、ふと、目の前に突然降りかかってきた依頼と自分の不甲斐なさから焦っている様子に気づく。そういえば、あの島にいた時はもっとゆったり仕事してたっけ。夜景が高速で流れる電車内で思い出す。
「東京から人が来るっていうから、金髪のチャラい感じかと思ってたよ(笑)」
真っ黒に日焼けした顔の濃いオーナーは、そう笑いながら12時間ほどフェリーで揺られ、疲れ果てていた私を迎えてくれた。沖縄の方面だけあって、9月も下旬だというのに全然暑い。遠くに見える積乱雲が立派だった。
大学を卒業して半年、私は東京で就職している訳ではなく、この沖永良部島に来ている。理由は、農業を体験する為だ。沖永良部島というのは、自分の生まれ故郷でもなく、この地で育った訳ではない。何なら今日初めて足を踏み入れた。沖縄方面の島が好き、というだけで決めた。2ヶ月という短い期間ではあったが、いま隣で豪快に笑うオーナーは「全然いいよ!助かります!」と1ヶ月前の電話越しの面接で話した。なので、今日がお互い初顔合わせということになる。私も緊張していたが、楽しくやれそうだ。2ヶ月住むことになる寮や近所のスーパーなどを案内してもらい、馴染みであろう店から私の車も手配してもらった。東京で生活していた為、ペーパードライバーまっしぐらの私は、慣れない運転で職場のビニールハウスまで案内してもらい、簡単な業務内容を聞いた。
「説明はこんな感じ! んじゃ明日から頼むよ!」
了解です! と返事をして、車を出そうとしたところで、オーナーが「あっ」と呟いた。
「そうだ! 言い忘れてた、長谷川君と同じバイト君も明日来るから仲良くね!」働き手は自分だけだと思ってたが、同じことを考える人がいるもんだ。そんなことを思いながら、車を走らせる。
翌日、職場へ向かう。職場が農場という初の状況に心躍らせながら、オーナーへ挨拶する。
「おー! おはよう! あっ昨日話した同じバイト君のたかし君紹介するね!」
朝から声がでかいオーナーが呼びに行き、現れた青年は、「よろしくね~」と物腰柔らかながら信念を携えた感じがして、少しの会話だけで既に好感を抱いた。私と年齢が近いこともあり、余計に親しみやすさを感じた。全てが未体験な初日の仕事も楽しく終えられたのは、「疲れたら休憩してね! 水分補給もしっかりね!」と終始声がでかいオーナーさんの優しさあるが、たかしさんのおかげもあるだろう。作業中でも、お互いの簡単な生い立ちや趣味などプライベートな話ができたので、サウナ並みの温度を持つビニールハウス内でも楽しく仕事をこなせた。
島に来てから数日。ありがたいことに真っ黒いオーナーが自分の歓迎会をしてくれるとのことで、飲み会を計画して頂いた。飲み会当日、やっぱりこの島も好きだなと感じた。2ヶ月しかいない不届き者の為に歓迎会を計画する懐の広い人が多いのも好きだが、沖縄方面の島が好きな理由の一つに、時間にルーズということがある。飲み会を計画したとして、「店に○○時に集合!」と決めても集合時間から30分後にふらっと来て「お待たせー!」と屈託のない笑顔で合流するなどざらである。俗に「島時間」などと言ったりするが、東京ではありえないその緩さが好きなのだ。
「長谷川君は、本土に戻ったら何するの?」
ある日の仕事中、たかしさんから聞かれる。この日もビニールハウス内の温度は40℃近くあり、額の汗は止まらず、首にかけていたタオルは既にぐっしょりと濡れている。「ざっくりですけど、IT系ですかねー」と自分の目下考え中の途中経過を伝える。既に島内で自分の農園を開こうと考えているたかしさんからすれば、私のふわっとした甘い考えは回答するのも申し訳ないくらいだが、たかしさんは優しかった。「そっか! 都内出身だからそういう選択肢もいいね~楽しそう!」と全力の肯定をしてくれた。たかしさんの優しさに申し訳無さを感じ、「いや、でも全然勉強もしてなくて……」と言いかけたところで、今も私の中で生きている言葉を言ってくれた。
「何事もこつこつと! だよ!」
自分の将来に対する漠然とした不安をはじめ、目の前の壁に対して、支えてくれる魔法の言葉だった。現在のインターネットでは比較的どこにでも転がってそうな月並みな言葉ではあった。しかし、汗水流してる労働中、自身の心境を考えてる時に面と向かって人から言われると、その力は凄まじかった。
そうだな、焦っても仕方ない。こつこつゆっくりとやっていこう。
そうだ、感染症が落ち着いたら手土産でも持って、またあの島に遊びに行こう。気付けば最寄り駅に到着していた。会社を出た時の焦燥感は消え、晴れた気持ちで改札を出る。
***
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