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そうだ 山、行こう!


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:笠原 康夫(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「京都に通い始めてもう25年になります。1200年分の時間を持った町が、東京からたった2時間ちょっとの先にあるなんて、なんて贅沢なんでしょう。京都をまた新しく歩き直してみることにします。そうだ 京都、行こう」
「そうだ 京都、行こう」は、1993年から2018年まで続いた某鉄道会社のTVコマーシャルのキャチコピーだ。当時、このコマーシャルにまんまと乗せられて、よく京都に旅行していた。
 
ただ、十数年前からは京都旅行よりハマっていることがある。それは、登山である。
 
私にとって、登山は旅のような存在である。
行き先が町や観光地から山になり、宿泊地がホテルでなく山小屋に置き換わるだけ。
行き先を計画する楽しさに始まり、時にはハプ二ングもありながらも、道中における人々や景色との出会いは永く良き思い出となって残る……
 
8月11日は国民の祝日、山の日だ(2021年は五輪開催の影響で日程変更)。
祝日の主旨は「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」こと。
山は、日本人にとって生活に根付いた存在なのだ。
 
□  □  □
 
私は、30代後半になるまで無趣味の人間だった。社会人になってからの十数年間は、オンとオフの区別もなく仕事中心の生活を送っていた。休日も特に打ち込める趣味もなく、だらだら過ごしたり、暇つぶしに休日出勤するような生活を繰り返していた。
今思えば、片輪だけのバランスが取れていない日々を過ごしていた。
 
体でも動かそうとゴルフを始めたり、ジム通いをしたり、いろいろと手は出してみたが、どれも馴染まず、長続きしなかった。
 
そんな生活が長く続いていたが、忘れもしない2008年の10月、あの景色と巡り会ってから一変した。
会社の先輩社員から八ヶ岳の登山に誘われた。誘われるままに大きな期待もなく、なんとなく出かけた。当日早朝、都心を出て車で約3時間。登山口から木々が生い茂る中を延々と歩くこと3時間。
登り詰めると、そこにはこの世と思えない景色が目の前に迫っていた。
鮮やかな紅葉と奥にそそり立つ岩肌の雄大な景色に目を奪われた。
画面や写真で見る景色とはまるで違った。
「車で3時間程度、足を延ばすだけでこんな魅力のある景色に出会えるのか」。
大きな感動に心も奪われた。
 
この日を境に登山に目覚めた。それからというもの、時間さえあれば登山に出かけた。
週末が来るのが待ち遠しくなった。休日は登山を堪能するために平日は集中して仕事を終わらせるようになった。こうして登山という趣味を持つことで生活にメリハリができた。
 
登山を始めてから、さまざまな良い変化があった。またたくさんのメリットに気づいた。
 
まずは、心身ともに健康になれたこと。
足腰が鍛えられることはもちろん、不整地を歩くことで全身の左右バランスも整う。以前のひざ痛や肩こりもすっきり解消した。
そして自然の中で過ごしているとストレスから解放される。五感が冴えてくる。
また、辛い運動を続けることはメンタル面の鍛錬にもなる。日常生活で少し苦しいことが出てきた時も、辛い登山をやり切ったことを思い起こすと、目の前の難題がちっぽけに思えてきて気持ちが楽になった。
 
二つ目は、綺麗な景色に出会えること。
普段の生活では決して見ることができない高山植物に出会えることもある。山頂からは遠くの山々の姿や下界の展望が広がる。
こうして登った人だけが体感できる景色が用意されている。写真や映像で見る景色とは違い、五感全体で感じる景色は全く別ものだ。
明け方、夕暮れには、山だけでしか見られない幻想的な自然現象などに遭遇できることがある。
こんな景色を見ている瞬間こそ登山の醍醐味だ。
 
三つ目は、達成感が得られること。
登山を終えた後は、言葉では言い表すことのできない満足感に浸れる。
苦しい思いに耐えた後の爽快な達成感は自信につながり、やがて自己肯定感につながる。
 
最後は、ミニマリストになれること。
登山は、荷物をなるべく必要最低限に抑える必要がある。いざ、山に入れば、日常生活と勝手が違い、多少の不便を強いられる。水回り、お手洗い、火、雨避け……とあらゆる場面で。
だから、「足るを知る」という考え方が大切になる。
登山で必要最低限の道具や持ち物で過ごすことを覚えると、日常生活においても不思議と身の回りがすっきりし始めるようになった。すると次第にメンタルにも影響し、常に気持ちもすっきりしてくる。
 
このように、良い効果が現れ、心身ともに健康で充実した生活が送れるようになった。
生活にオンとオフの切り替えができるようになり、生活が両輪で回るようになった。
 
□  □  □
 
世界を見渡しても日本の登山環境は恵まれているという。
世界の平原地帯に暮らす人々は登山とは縁遠い。また、山があっても岩場で容易に登山できない山ばかりの国もある。
日本は北アルプスのような急峻な山もあるが、身近に気軽に登れる低山もそれ以上にたくさんある。
中国人の登山客から聞いたことがある。「中国では国内最高峰の山(チョモランマ)には容易には登れない。でも日本の富士山は少し頑張れば登ることができるなんて、なんて恵まれているんでしょう!」
 
日本人として、山々に囲まれた環境に感謝したい。そしてこれからも自分なりにマイペースで山に親しんでみたい。
 
私が登山のコマーシャルを作るなら、こんな感じだろう。
「山に登り始めてもう12年になります。この国には、全国津々浦々に気軽に登ることができる山がたくさんあるなんて、なんと贅沢なんでしょう。次の連休には八ヶ岳の懐でのんびり過ごしてみます。そうだ 山、行こう!」
 
コロナ禍の世の中では、不要不急の活動を自粛するよう呼びかけられている。
まさに登山は不要不急の活動になるのだろう。
だが、不要不急の活動こそが、人間らしい活動であり、人間らしさを取り戻す活動と言える。
どんな景色に会えるのか、どんな登山客と出会えるのか。未知なる楽しみや刺激に対する好奇心こそが人間本来の豊かな糧になる活動だ。
 
「苦しくない山はない。だけど楽しくない山もない」
これが、十数年間、登山を続けてきた私がたどり着いた心境だ。
山は普遍的。山は逃げない。
思い立ったら、山に目を向けてみませんか。山でのんびり楽しんでみませんか。
 
いつか、不要不急の活動制限も解ける。
その時は思いっきり、登山を楽しんでみよう。
「そうだ 山、行こう!」
 
<2021年8月9日 山の日>
 
 
 
 
***
 
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2021-08-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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