シロアリの王は70年以上も生きる??
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記事:しょうなぐ(ライティング・ゼミ10月コース)
みなさんは、長寿の生き物と聞いて、どんな生き物を連想しますか?
もちろん、人間がまっさきに挙げられるでしょう。特に日本人は長寿です。それ以外では?
ゾウなんかを思い浮かべる人も多いと思います。ダーウィンが調査を行ったガラパゴス諸島に生息するガラパゴスゾウガメを思い浮かべた人もいるかもしれません。
連想されるのはたいてい大きな生き物です。
この質問を投げかけたときに昆虫を挙げる人はとっても少ないです。
実際、昆虫は短命です。人間と同等、ましてやそれ以上に生きるなんてことは、一般には考えられません。
ところが、今回紹介するヤマトシロアリの王様は、なんと最低でも70年、個体によっては100年以上も生きると言われているのです。
私は学部生のころ生物学を専攻していました。シロアリとの出会いはそこで受けた実習。
その実習で潰しかけてしまった、体長わずか10ミリ程度の王様は、私の数倍もの時間を生きてきた大先輩だったのです。
わずか10ミリの体にどんな秘密が隠されているのでしょうか。
この謎を解くには、しばし回り道をして、ダーウィンが唱えた「進化論」について考える必要があります。
敵者生存という言葉を聞いたことがある方も多いかと思います。
ダーウィンの進化論によれば、最も環境に適応した個体が競争に勝ち、子孫をたくさん残すことができます。つまり、生物とは次世代にどれくらい自分の子孫を残せるのか、を競っているのです。その戦いの勝者が、私たちが生きているこの地球にいる生き物たちです。
つまり、「生物は自らの子孫をできるだけ多く残す」ように進化してきたと言えます。
ところが、この進化論からシロアリを眺めてみると、おかしなことになっているのです。
シロアリにおいては、子供を作らない=作れない個体が存在するのです。俗にいう働きアリや兵隊アリです。彼らは、自らは子供を作らず、巣内にいる他の個体の世話をしたり巣を作ったり、天敵から巣を守ったりして一生を終えます。
これがダーウィンを悩ませました。進化論によれば、自分の子孫を残すために競争しているのに、なぜ彼らは子供を作らないのか? 彼らは自然の法則に反しているように見えます。
実は、これに対する答えが、シロアリの王様の長寿を解明するカギとなるのです。
シロアリは、社会性昆虫に分類されます。
同じ巣内にみんなで住み、分業しながら生きています。働きアリと兵隊アリのほかに、王様と女王様がいます。
巣を作った当初は、王様と女王様しかいません。そこから子供が生まれ、大きな巣に発展していきます。巣の外から新しい個体が入ってくることはありません。ということは、巣内にいるシロアリは全て、王様と女王様から生まれた子供たちということになります。
これは大変なことです。
人間社会でも近親交配はタブーとして扱われてきました。
遺伝的に近い個体同士から生まれた子供の致死率は一般的に高くなります。
ここで、王様と女王様から生まれた子供たちが、近親交配によって次世代をつくったらどうなるでしょう。働きアリや、兵隊アリが子供をつくったらどうなるでしょう。
巣を守る個体も、メンテナンスする個体もいなくなってしまう上に、巣の中は貧弱な個体で溢れかえってしまいます。
巣は容易に崩壊してしまうのです。
勘の良い方はもうわかったかもしれません。
近親交配を防ぎ、巣を存続させるためには、王様と女王様が子供をつくり続けるしかないのです!!
そして、兵隊アリや働きアリは、自分で子供をつくるより兄弟たちを育てる方がよい。
王様と女王様を助ける方がよい。
自分の子孫は残すよりも、自分と同じ遺伝子を持っている兄弟たちを世話した方がよい。
結果的に、自分の遺伝子という形で、子孫を残すことになるからです。
そうすれば、巣を維持したまま、自分の遺伝子を残すことができます。
この仕組みによって、シロアリの巣は保たれているのです。
ここでやっと王様の話に戻ってきました。
なぜ、シロアリの王様は長生きできるのか?
それに対する答えは、簡単です。
王様が死んでしまえば、女王様とその子供たちの近親交配が起こり、巣が崩壊してしまうからです。
それゆえに、王様は長寿である必要があるのです。長い年月をかけてそのように進化してきました。
巣の運命は、まさに、彼が生きるか死ぬかにかかっているのです。
実習で何の気なしに、潰しかけたシロアリの王。
彼は、時に数万頭におよぶファミリーの長として、その命運を一身に引き受けていたのでした。
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