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新しい「家族」をつくる──シェアハウスのこれから──


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村山葵(ライティングゼミ日曜コース)
 
 
最近すっかり一般にも定着してきた感のある「シェアハウス」。
「シェアハウスに住んでいるんです」という若い人が私の周りでも増えてきました。
そんな私は、10年ほど前からシェアハウスに住んできました(そう言うと「へー!」と驚かれます)。
そんな、プロ・シェアハウス住人の私が、シェアハウスの現状と未来について語りたいと思います。
 
日本で「シェアハウス」という新しい暮らし方が現れはじめたのは15年ほど前のこと。
私はその頃、大学を出てアルバイトをして生計をたてようとするがなかなかうまくいかず、一人暮らしをする資金が稼ぎ出せないが、田舎に帰るのも嫌だしどうしよう……と悩んでいました。
どうにかして東京に住み続けたいけど、私の資金力で住めるような場所がない。苦し紛れでネットを検索していると「ルームシェアジャパン」という掲示板サイトを見つけたのです。
そこには、シェアハウスをする仲間や、一つの部屋を共有する「ルームシェア」をする仲間を募る書きこみや、シェアハウスのオーナーが住人を募集する書き込みがたくさんありました。
家賃は2万円代や3万円代で敷金礼金なし、審査などもゆるくて即入居可、という条件の物件もちらほらあります。
家族でもない他人と住まいをシェアする、というのを聞いた時点で生理的な拒否反応を示す人もいますが、私の場合は、それに関しては特に違和感はなく、「そういう住み方もあるのか」とすんなり受け入れられたように思います。一人っ子で自分の部屋を与えられずにプライベートのない空間で育ったためかもしれません。
 
たくさんある書き込みの中から、私の求めている条件を満たしており、説明が丁寧で誠実さが感じられる投稿者何人かに連絡をとってみることにしました。
すぐに返事が返ってきて、やりとりをした後、実際に物件を見にいき、その中で一番しっくりくる物件に入居を決めました。
 
一番初めに住んだのは、東京の葛西にある木造の一軒家で、ミャンマー人やイギリス人など、多様な国籍や文化を持つ女性たち5人ほどが暮らしていました。
印象に残っているのは3人のミャンマー人。彼女たちは工場の研修生として毎日生き生きと働いていました。
「なぜそんなに楽しそうなの?」と聞いたら、「母国の家族に送金するため」という返事がかえってきました。
当時のミャンマーの物価は日本の10分の1ぐらいで、日本の1000円が向こうでは10000円ぐらいの価値があるということ。どうりで生き生きと働けるわけです。日本では就職難や不況が話題になっていた頃だったので、彼女たちの輝きが眩しく見えました。
 
思い出深いシェアハウスは他にもいくつかありますが、全部は書ききれないので、一つだけ紹介します。
 
そこは京都の外れにあるシェアハウスで、庭付きの大きな一軒家でした。住人は多かった頃で6人いました。日本で学んでいる、韓国人やフランス人、ドイツ人などいろいろな国の人たちが共同生活をしていました。日本語があまりうまくない住人とは英語で話したりしていたためか、少しだけ英語が上達した気がします。
住人同士で遊びに出かけたり、ご飯を食べに行ったり、みんなでご飯を作って食べたり、庭でバーベキューをしたり、畑で作物をつくったりなど、いろいろなことを楽しみました。住人は入れ替わりが多かったですが、私がそのシェアハウスを離れて数年経つ今でも付き合いのある友人もいます。
 
このシェアハウスで最も印象深かったのは、シェアハウスで出会って結婚した男女がいたことです。一緒に住んでいる時はふたりは付き合っていなかったのですが、一人が退去してから付き合いだし、めでたくゴールインしたという報告がありました。
(男性のほうはなかなかのイケメンで、シェアハウスの女性みんなからモテモテだったので、結婚報告があった時は女性陣はみんなちょっとがっかりしてしまいました)。
 
そんなプロ・シェアハウス住人だった私ですが、もうすぐシェアハウスを卒業します。
シェアハウスでいつも直面する問題は「プライバシーがない」ことや、「人と話したくない時に一人になれない」ということでした。
この問題を解決するため、私は、新しい住まいを友人たちと計画しているところです。
その住まいは、5階建、20部屋程度の「コレクティブハウス」です。
コレクティブハウスとシェアハウスの違いは、シェアハウスでは風呂やトイレやキッチンを共有するのに対し、コレクティブハウスは、風呂・トイレ・キッチンつきの個室はちゃんとあること。一人一人のプライベート空間はしっかり確保した上で、共有のリビングやキッチンでみんなでご飯を食べたり、コミュニケーションをするなど、暮らしの一部を共有して助け合って暮らしていけるのです。
 
ここで私は、友人たちとカフェを運営したり、みんなで仕事をつくって収益を生み出したりなど、いろいろな試みをしていきたいと夢を膨らませています。
 
私が10年前にシェアハウスにお世話になることになったきっかけは、経済的な困窮でした。どんなに自分なりに努力しても、安定した収入が得られず、アルバイトでなんとか食いつないでいた私を救ってくれたのが、シェアハウスだったのです。
 
私が困窮に苦しんでいた10年前は、どこへいっても、誰と話しても「自己責任」と言われる、社会になかなか適合できない人にとってはとても厳しい時代でした。今はだいぶ、私のような人にとって生きやすい世の中になりましたが、まだまだ、格差と貧困の問題は根本的には解決されていません。
 
私は、自分自身が社会の中に入れず苦しんできた経験から、どうにかこの社会を、弱い人たちにも生きやすい、ありのままで受け入れられる場所に変えていこうという強い思いで活動を続けています。
 
そのひとつのキーワードが、「つながり」です。気の合う仲間たちとの信頼できるつながりの輪が広がっていけば、その中で、生活に必要なモノや情報やお金などあらゆるものを共有して、助け合いながら生きていけるはず。コレクティブハウスを、その足がかりとなる場所として、ここを拠点に、他のコミュニティや、仕事をくれる企業、さまざまな社会的活動を行う団体と連携を深めていきたいと思っています。
 
5年後は、食費と家賃を0円にし、収入の半分以上をつながりの中で得られるようになっている。
10年後は、コレクティブハウスでの収益が黒字になり、さらに豊かに満ち足りた生活ができるようになっている。
もうひとつの「家族」ともいえる、新しいコミュニティのあり方を模索しています。
10年後を楽しみにしていてください。きっと、みんながありのままで幸せに生きられる社会ができていると、私は信じています。
 
 
 
 
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2021-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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