メディアグランプリ

人生の再出発は家と共に


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ぬもさん(ライティング・ゼミ8コース)
 
 
我が家にとっての大黒柱は、家そのものだ。
暑い日も寒い日も、どんな時でも文句を言わずに家族を守ってくれる。
そんな実家も、気がつけばもう30年が経とうとしていた。
 
父が40歳になった頃、現在の実家を購入した。20年というとても長いローンを抱えて。
奨学金という学生ローンを背負った者として、ローンの大変さは身に染みている。家を購入するという決意をしてくれた父と母には感謝しかない。
 
実家は、それほど大きい家ではなかったけれど、家族5人が住むには十分だった。
小さい頃は、家のありがたみなんて知らないから、壁に落書きなんて当たり前。障子は穴を開けるし、大声は出すし、妹といつも喧嘩していた。
親からしても、家からしても、とても迷惑だったに違いない。
 
家族5人も住んでいれば、いつも何かしら出来事は起こる。
コウモリが家の中に入ってきて家族中が混乱したり、天ぷらを作っている時に突然火が上がってドキッとしたり。
もちろん、嬉しいこともたくさん共有してきた。
年に5回くる誕生日を手作りケーキでお祝いしたり、深夜に母とベランダからひっそりとみた流星群が楽しかったり。振り返ると思い出はたくさんある。
 
しかし、時が経つにつれて、賑やかさは段々と落ち着きに変わっていった。
最初に実家から離れたのは、兄だった。
地方への就職が決まり、ひとり暮らしをすることになったのだ。
兄は高校生の頃から夜遊びばかりで、家にほとんど帰って来なかった。だから、家を出ていく時に寂しさを感じることはほとんどなかった。
次に独り立ちをしたのは、妹だった。
大学を卒業した後、当時交際していた彼と結婚をすることになったのだ。
妹とは仲が良かったため、家からいなくなったあとはなんだかポカンと穴が空いた感じがして寂しかった。
それから2年後くらいに私も実家を離れた。
父と母は「口うるさい子がやっと出ていくのか」と口先では嫌味を言っていたものの、独り立ちする私の姿を明るく見送ってくれた。
 
父と母の2人だけになった実家は、賑やかさはなくなったものの、ひっそりと夫婦2人の時間を楽しんでいたことだろう。
時々実家に帰った時も「お父さんうるさいのよー」なんて母は愚痴をこぼしていたが、2人でよく買い物に行くようになったと嬉しそうに話してくれた。
 
しかし、そんな夫婦2人の時間は長くはなかった。
母が末期の癌で亡くなったのだ。
かつて家族5人で暮らしていた実家は、父1人だけになってしまった。
なるべく父が寂しがらないようにと、妹夫婦が月に1〜2回ほど帰ってくれたり、私もできるだけ父と会うようにしていた。
「大丈夫だから無理して来なくていい」
父はいつも強がっていたが、心の中では寂しかったはずだ。
 
こんな時、家そのものが父と会話してくれたらいいのにと思うことがある。
家がしゃべるはずないのはわかっている。
でも、30年ほどの間、ずっと私たち家族と一緒に時を刻んできたからこそ、頼りたくなる。
きっと家族の間でも知らない秘密も知っているかもしれない。
だからこそ私は、この家のことを6人目の家族だと思っている。
 
そんな実家も30年が経ち、あちこちポロポロになっていた。
「お母さんの49日も過ぎたし、家の内装をきれいにしようと思う」
父からの提案だった。
「タバコのヤニで黄色くなった壁とか新しくしたいんだ。内装は任せるから自由にやってくれ」
母が亡くなってまだ数ヶ月しか経っていなかったので、内装を変えたいという言葉が出るとは思っていなかった。
思い出がなくなってしまうような感じがして、私は反対していた。
「この家とともに最後までいたい。お母さんのことは忘れない。新しい気持ちで過ごしたいんだ」
父の言葉に覚悟が感じられた。
思い出は消えるのではなく、重ねていくものだと言われた気がした。
 
新しい気持ちで再スタートを切れるよう、内装は今までと違ったものにしようと決めた。
壁紙は11種類使い、どの部屋にいても明るい気分にさせてくれるように工夫した。
リビングや階段には、白い壁の中にアクセントとなる水色を取り入れ、パッと華やかな印象に。
寝室は畳を入れ替え、井草の香りがふんわりと漂うお部屋に。
使われていない空き部屋は、花柄がプリントされた上品な白い壁紙とシックなグレーを組み合わせて優雅さを出した。誰かが泊まりに来た時の来客用として考えた部屋だ。
張り替えていく時に、小さい頃に書いた落書きも一緒に剥がされてしまうのはなんだか寂しさもあったが、新しい壁紙で生まれ変わる姿は見違えるほど美しく、清々しかった。
 
「こんなに変わるとは思わなかった」
父は驚きながらも喜んでいた。
これからこの新しく生まれ変わった家とどのくらい一緒に暮らせるかはわからない。
でも、何十年と経っていても、再出発はいつでもできる。
実家と父がそう私に教えてくれた。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ

 


 

■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2021-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事