週刊READING LIFE vol.151

子育てに迷ったら麻雀をしよう《週刊READING LIFE Vol.151 思い出のゲーム》

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2021/12/14/公開
記事:赤羽かなえ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
小さい頃から憧れていた景色がある。
 
家族が集まってみんなで楽しく過ごすこと。
本当にささやかなことだけど、実家ではあまり見られなかった。
 
両親が共働きで父の帰宅は遅かったし、母は家でも仕事をしていたから、家族4人でゲームをするということがとても珍しかった。もちろん、それを責めるつもりはない。両親は彼らのやり方で一生懸命、私のことを育ててくれたのは分かっている。
 
けれど、一緒にトランプやカルタなどをしてくれた時は、格別に嬉しかったのだ。なんだかお腹の底からぽかぽかするあたたかさとともに頭の中のアルバムにしまわれている。
 
結婚して、子供ができると、働いていなくても日々の仕事に追われてなかなか子供達と一緒に遊べない。母よりも断然やることは少ないはずなのに、できない言い訳ばかりを指折り数えては、子供達の中に入っていくことはいつも後回しになってしまう。
 
夫も子供達と積極的に遊ぶタイプではない。みんなで何か遊べることはないかな……迷った挙句に、我が家が4年前にたどり着いたのは「麻雀」だった。

 

 

 

麻雀は、憧れのゲームだ。
 
年末年始に母方の実家に遊びに行くと夜の遅い時間から大人たちが麻雀を始める。 母は三姉妹だから、父や伯父たちは居づらい時間を過ごすことになる。中途半端にコミュニケーションを取らないといけないところに麻雀は格好のツールだったのだろう。子供達がご飯を食べて落ち着いた頃から、お酒でいい具合に上がったテンションを連れて、隣の和室に消えていく。
お風呂に上がってウロウロしていると、じゃらじゃらという音が聞こえ、笑い声や悲喜こもごもの声がもれ出てくる。そっと襖を開けて覗き込むと、タバコの煙を、もろにかぶって咳き込んだ。負けていたせいか、父は、若干不機嫌そうにしかめっ面をして子供はこんなところにいるものじゃない、早く寝なさいと言う。
 
しぶしぶ襖を閉める。扉の向こうではまた、大きな笑い声が聞こえてくる。廊下の端で、いいなあ、と思いながら、冷気に首をすくめて居間に戻るのだった。
 
私が小学校低学年くらいの頃だったか、その家に住むいとこが「ドンジャラ」というゲームを買った。麻雀をモチーフにした子供向けのゲームで、当時人気があったパーマンのキャラクターの絵が牌に描かれているのも魅力的だ。麻雀のルールにはないオールマイティな役割をする牌が、パーマンの中でも子供ならだれもが欲しかったコピーロボットだったの強烈に覚えている。
 
麻雀牌は、どんなにせがんでも触らせてもらえなかったけど、ドンジャラの牌が目の前にある。嬉しくてドキドキしながらゲームに混ざる。父たちがやっていた麻雀の牌よりも若干チープな感じにチャラチャラという音を立てながらみんなで混ぜていく、もうそれだけでワクワクした。大人になったような気分だった。
 
ただ、小学校低学年では、まだ若干難しかったのだろう。ルールはたくさんあるし、覚えなければいけない役もたくさんあるし、肝心のゲームをしているシーンはなかなか思い出せない。毎年遊びに行くと、いとこにせがんで一度はドンジャラを出してもらうところまでは覚えていても、結局、あんなに牌がうまく集まるはずがない、と思っていた気がする。大方、ゲームが始まってもしばらくしたら飽きてしまって、結局最後まで続かなかったのだろう。みんなが大きくなって、親戚一同で集まらなくなってから、大人からも子供からもジャラジャラという牌の音は消えてしまった。
 
懐かしい音に再び出会えたのは大学生になってからだ。サークルの先輩たちが雀荘に入り浸っているのをくっついて出入りするようになった。雀荘はどのキャンパスの周りにもソコソコあって、そこに行けば、誰かしらに会うことができた。しょっちゅう顔を出していたので、なんとなくメンツとして混ぜてもらうようになって、ほんの少しだけれど麻雀ができるようになった。
 
麻雀をしている時には、普段の先輩後輩の関係が少し変わる。いつもカッコイイ雰囲気の憧れの先輩がポーカーフェイスを崩したり、いつもなら厳しい檄を飛ばす先輩が子供みたいに歓声をあげたり。夜遅くまで他愛のない話をしながら、時にはちょっぴり真面目な話をしながらジャラジャラと牌を混ぜた記憶を懐かしく思い出す。
 
大学の同級生だった夫と距離が近づいたのも麻雀がきっかけだった気がする。当時、学校にインターネットが導入されたばかりで、パソコンの授業の合間に、こっそりとインターネット麻雀で待ち合わせをしてコッソリ、サボっていたのも今となってはいい思い出だ。
 
麻雀は少し退廃的な、あまり健全ではない時間帯に行われるので、親に言っても顔をしかめられるだけだけど、まだ、SNSなどがなかった当時の私達にとっては、欠かせないコミュニケーションツールだったのだ。
 
そうは言っても、麻雀が、我が家の定番のゲームになるだなんて思いもしなかった。
 
3人目の子どもを妊娠していた時のこと、冬になって、重い体を引きずって子供と外に出るのも億劫になっていた頃、家でなにかゲームをしたいと子供が言うようになった。
 
上の子が8歳、下の子が4歳の時だ。夫は、なかなかゲームなどに参加してくれないからなるべく、夫もくいついてくれそうなものをと考えて、ふとドンジャラを思い出したのだ。当時はパーマンだったけど、今はどんなドンジャラがあるんだろう? そもそもドンジャラってまだあるんだろうか? というところからネットで調べると、ワンピースやら鬼滅の刃やら、バリエーション豊富なドンジャラが売っていて、なんだか嬉しくなってしまったのだ。
 
それだったら、ドンジャラを買おうかという話になったときに、夫が、
「ドンジャラをするくらいなら、最初から麻雀覚えたらいいんじゃないか」と言い始めた。子どもに麻雀? と思ったけど、実家に麻雀牌があるかもしれない、と言って、夫にしては珍しく乗り気で実家からセットを探してきた。
 
白の箱の金具をパチン、パチンとあけると、やたら明るい赤のビロード張りの容れ物に、きちんと牌が揃っていた。子供達は始めてみる牌や点棒、起家マークに小さなサイコロ……次々と飛び出す珍しいものに興味津々でのぞき込む。
 
そこからゲームになるまでが一苦労だった。私自身も、麻雀が全部わかるわけではないし、20年近いブランクがある。ルールブックを購入して、みんなで回し読みしながら、家族のゲーム作りが始まった。
 
みんなが拙いながらも、4人でゲームをするということがなかったので、子供達はすぐに気に入った。休みの度に麻雀をやりたいと言うようになった。じゃらじゃらと牌を混ぜながら、私自身、久々に麻雀ができるということだけではなく、夫が家族団らんの場にいてくれることが嬉しかった。
 
麻雀は人の人生の縮図のようなところがあるな、と思う。4人のプレースタイルが全く異なっていて、性格がよく出るのだ。日々子供や夫と接していると、彼らの個性を受け入れるというよりも、自分の都合がいいように動いてほしいと思い、つい色んな注文を付けてしまいがちだが、麻雀を通してみる彼らの個性的な姿を見ていると、その個性を受け入れる方が気持ちよく生きていけるような気がする。
 
長男は、ルールと役をしっかり把握していて、堅実なゲーム運びをする。長時間戦になったら強いタイプだ。まだ、引き際が読めないところに若さも出るけど、これから時間をかけて学んでいけばいいのだろう。
 
長女は、圧倒的な強運の持ち主だ。「人生に使える運は限られている」と言ったのはだれだっただろうか。配られた牌も引いてきた牌もいつだって面白いように揃っていく。短期ですぐに結果が出る。堅実な息子が、運だけの娘に負けると気の毒だなあと思うが、それもまた人生ということなのだろう。彼女は、この運さえあれば、どんな世の中でもチャンスはあるし、うまくやっていけるんだろうな、と安心感すら覚えてしまう。
 
夫は、いざという時の勝負に強い。最初に少し負けていたとしても、最後の最後で必ず巻き返して来る。その勢いの強さや突き進む力、集中力を普段の仕事で発揮しているのならば、頼もしい。
 
私自身はというと、待てない性格で、誰かが捨てた牌をすぐに鳴いて揃えようとする。結果、勝ったとしても大した点数はつかない。そんな部分を分析してみると麻雀ではちっとも強くなれないへたっぴなままだけど、実生活では、沢山の仲間をすぐに巻き込んで協力し合って生きていけるタイプ……のはず!
 
そんな風に、麻雀で性格分析などもしながら、日々のやり取りだけでは見えない彼らの良さを知ることができるのはすごく良かったと思う。子供達の性格や様子が見えづらくなるときはどうしてもある。そんな時には思いつめずに、麻雀をしながら様子を観察をするのはお互いにとって案外良いのではないかと思っている。

 

 

 

「ねえねえ、20時までに夕飯食べたら麻雀しようよ!」
 
末娘が生まれて4年経ち、4歳だった長女が小2に、長男は中1になった。長女は、いまだに麻雀が大好きで事あるごとに家族を誘う。
 
家族で麻雀を初めて4年。あっという間の4年だった。日々に追われていて、誘われてもつい「今日はダメ」と断ってしまいがちだけど、本当にみんなで卓を囲むのなんて、あと、せいぜい10年かそこらなのだ。まだまだあると思って後悔しないように、今楽しめることは楽しんでおきたいものだ。
 
子供達は、私くらいの年齢になったときに、牌のジャラジャラという音をどんな風に思い出してくれるのだろうか。
 
願わくば、家族で過ごしたあたたかい思い出として、彼らの頭の中のアルバムにしまわれていきますように。それをいつか、そっと取り出して懐かしんで、赤いビロードに収められた麻雀のセットを持って帰りたい……そんな風に思ってくれたら嬉しいな、と思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

自称広島市で二番目に忙しい主婦。人とモノと場所をつなぐストーリーテラーとして、自分が好きなものや人が点ではなく円に縁になるような活動を展開。2020年8月より天狼院で文章修行を開始し、身の上に起こったことをネタに切り取って昇華中。足湯につかったようにじわじわと温かく、心に残るような文章を目指しています。

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2021-12-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.151

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