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ゼリーのようなみかんのおかげで20歳の心を思い出した話


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記事:yajima(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「ゼリーのような食感」これが“彼女”の謳い文句だった。正月休みを利用して、岡山まで車で出かけた先輩が、お土産にとくれたのが、私を虜にした“彼女“「紅まどんな」との出会いだった。
 
私は、小さい頃から、柑橘類が大好きで、特にみかんは、冬になれば、一箱買ってもらい、ほとんど一人で食べてしまう。そんな子だった。自分の好みのみかんにはうるさかったし、美味しいみかんは、むかなくとも外側から見れば大体わかるのでみかん選びはもっぱら私の担当だった。
大人になった今では、一箱とはいかないが、冬になれば欠かさずみかんを買うし、新しい柑橘類を見かければ、味見とばかりに買ってくる。
近所のスーパーに売っているような柑橘類であれば、名前を聞けばなんとなく味が想像できるくらいになっていた。
 
だから、今回“彼女”に出会った時、先輩が「本当にゼリーみたい」と言って大絶賛していた時は、にわかには信じられなかった。みかんのようなゼリーなら食べたことがあるが、ゼリーのようなみかんなんて、柑橘類が大好きな私でも、食べたことはもちろん、聞いたこともなかった。
 
後で調べてわかったことだが、“彼女”は愛媛県を舞台とする夏目漱石の小説「坊ちゃん」のヒロインである「マドンナ」がその名の由来と言われている。贈答用として作られた品種と言われており、栽培地域が限定されているため、とても希少性の高いみかんらしい。
だから一度も見かけたことがなかったのか……。
“彼女”はみかんとオレンジのハーフのようで、普通のみかんよりも皮が繊細で、手で剥くのは難しいので、オレンジのように包丁で切って食べることが推奨されている。
食べ方まで普通のみかんとは違う“彼女”は高嶺の花のようであった。
 
食べることを楽しみに自宅に帰り、“彼女”と一緒にもらった美味しい食べ方で切り方のイメトレをしたら、早速その日のデザートにするために“彼女”に包丁を入れた。
スッと包丁が滑らかに下まで入っていく感触は、オレンジともみかんとも全く違った。例えるなら、昔ながらの寒天のゼリーを包丁で切ったように、包丁が滑らかに滑っていった。
これは食べる前から、ゼリーのようだ。
今まで感じたことのない感触に、自然に味や食感に対する期待値も上がる。
 
オレンジを切るように6等分にくし型に切られた断面は、みかんよりも細かく、デコポンのように水分がたっぷりで、オレンジのような色をしていた。普通のオレンジよりも少しだけサイズの大きな“彼女”は、お気に入りのお皿に盛り、食卓に並べると、キラキラとして、存在感を放っていた。
食後が待ち遠しく、急いで食事を済ませると、早る気持ちを抑えながら、そっと“彼女”に手をのばす。口に入れた瞬間に、ジュワッと広がる味は、デコポンとオレンジを混ぜ合わせたような、強い甘みがあった。みかんジュースを思わせるその味は、オレンジのように爽やかな後味で、強い甘みがあるのに、さっぱりとした後味なのもクセになる。
さらに食感は、瑞々しい果肉がぎっしりと詰まっていて、それなのに口当たりはとても滑らか。そして、よく噛み締めないとわからないくらい、薄皮が本当に薄い。指で弾いたらぷるんっと動くのではないかと思うくらい、本当にゼリーとしか例えられないような食感だった。
こんなみかん食べたことない……‼︎
 
食べる手が止まらなくなった私と夫は、あっという間に食べ終えると、すぐに“彼女”を手に入れる方法を探した。一度会ったら忘れられない。“彼女”は確かに「まどんな」であった。
今までに体験したことのない食感のみかんに出会った私は、とてもワクワクしていた。世の中には、まだ私の想像もできない柑橘類も存在していたことが嬉しかった。
 
30も半ばになってくると、いつの間にか、感動するような初めての経験というものが少なくなってきているように感じる。初めて食べるものでも、何となく自分の経験から味を想像し、それを大きく上回らないと心が動かされない。
20歳になった頃は、初めての生ビールの苦味と泡の滑らかさに感動し、たくさんの種類のカクテルの名前をみては、どんな味かとワクワクし、子供の頃にはあまり好きではなかったセロリが美味しく感じるようになったことに喜び、食べることと楽しむことはもっと近くにあったように思う。
そして、世界は、たくさんの未知とワクワクが溢れていた。
 
「まどんな」に出会い、久しぶりに大きく心を動かされた私は、まだまだ自分にも未知のものがあったのだと嬉しくなる。いつの間にか世界の全てを知った気になっていた自分に、“彼女”は世界の広さ思い出させてくれた。
 
さあ、次はどんな未知に出会えるのだろうか。私の未来には、まだまだ沢山の心踊らされる体験が待っている。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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