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私はパン粉である


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:majyo(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「自分を食べ物に例えると」
これは、私が自己紹介の際によく使うフレーズだ。
私を食べ物に例えるなら“パン粉”である。
 
パン粉は単体だとパサパサして、とても食べられたものではないけど。
ハンバーグで肉と玉ねぎを繋いで美味しいうまみ成分を含んでみたり。
グラタンにのってこんがりサクサク(私は個人的には、グラタンの中ではここが一番美味しいと思っている)になったり。
他の物と一緒になると他の物もパン粉もより美味しくすることが出来る。
私は一人で全く魅力的じゃないけど、誰かと協力したら相手のことも、自分も魅力的にキラキラさせることができるのだ。
 
そんな自分に気が付いたのは、初めて、講師をした20年前のこと。
ヘルパー講座の講師の欠員で穴埋めをしたことがきっかけだった。
 
拝み倒されて断り切れずにモゴモゴしていたら、どんどん押し切られ
「通信教育なので、授業は実技と体験談で大丈夫、よろしく」
と数冊のテキストをデスクに積まれた。
 
入社したばかりで、自社の社員の研修だと思って引き受けたら、お金を頂くヘルパー講座の講師だったのだ。
 
嘘でしょう?
講義なんてしたことありませんけど。
 
「大丈夫、話うまいしわかりやすいから……」
いやいやいやいや、それってランチタイムの雑談ですやん。
 
半泣きになりながら、すでに断る選択肢はなく、3日後の洗髪と清拭の講義の為に翌日は他の講師の授業を聴講した。
看護師長の経験のあるその講師は実技より講義のほうが多かった。
絶対無理……。
握りしめた手がしっとりしていた。
 
確かに遠い昔に習った記憶はあるけど、もはや自転車をこぐレベルで何も考えずに経験だけでやっていることを言語化するのは気が遠くなりそうだった。
しかも受講者は年上のかたが多かった。
 
講義の当日20名の生徒さんに対して、簡単な自己紹介の後こう伝えた。
「皆さんは通信教育だと伺っています。本日代講の私は、実技の専門なので早速始めます。
途中でも、わからないことは遠慮なく質問してください」
とても付け焼刃の講義でお金を頂けるとは思えなかったので、デモンストレーション後に、全員に体験してもらう事で時間を埋めようとしたのだ。
 
喉が貼りつきそうにカラカラになり、心臓が口から飛び出るかと思った。
不思議と身体を動かしてしまえば、平常心を装う程度には落ち着ける気がした。
 
失敗したら素直にそう伝えた。
「あ、ごめんなさい。手順を間違えました。
やり直します。皆さんは今の私みたいなことにならないように気を付けてください」
笑い声が起きた。
 
「次は、やってみましょう。
私も皆さんに見られて緊張して失敗しました。そうじゃなくてもここに至るまで200~300回は軽く失敗しています。皆さんが1回見ただけで出来たら、私は職を失います」
更に多くの笑いが漏れた。
なんだか一体感が出てきて楽しくなってきた。
 
質問されて答えられないことは、午後まで待ってもらった。
「うろ覚えなので確認させてください」
そういうと、ありがたいことに嫌な顔をする人はいなかった。
 
緊張感でへとへとになりながら、途中で気が付いた。
同業の新人に教えるのとはわけが違う、まったく初めての人に伝えるのは専門用語を封印して、わかりやすい言葉にするための語彙力も試される。
生徒さんが失敗しそうなポイントがわかるのは、私自身が山ほど失敗を重ねてきたからだ。
こういう時、こう指摘されて嫌だったな、こう言ってくれたら頑張れたのに……。
そういった苦い経験はフィードバックに活かせた気がした。
 
授業終わりの質問に
「どうしたら先生のようになれますか?」
ときかれた。
 
え? 私みたいにはならないほうが……。
山ほど失敗すること、それと、とりあえずやってみることです。
私はここにいる皆さんの誰よりも不器用で、要領が悪くて、誰よりも失敗しています。
何でも最初からそつなくこなせたことがないので、いわゆる『できる人』の気持ちは全く理解できませんが、今できなくてどうしようと思う人の気持ちはとてもよくわかります。
大丈夫、私が初めての頃よりずっと皆さんのほうが上手でした。
 
なんだか最後は、無事に終わった安心感と、つたない授業に付き合ってくれた生徒さんのやさしさに泣けてきた。
 
この日の体験は、そのあとの私の職業人生を変えた。
いままで、いろんな人に教えてもらってきたけど、いつもよくわからなかった。
理解力が圧倒的に人より劣っている気がする。
でも、だからこそわからない人の気持ちはよくわかる。
そんな私は、もしかしたら誰かに教えるのは向いているんじゃないかと思いはじめた。
 
何よりも楽しかった。
この後、何度も講義を担当することになる。
教えることは、自分が学び直すことだ。
言語化できない部分を、しっかり言語化する作業は、朧気で自信のない自分の輪郭を見つける作業にもなった。
 
清濁併せ呑むことが何より苦手な私は、いつもその時に一番正しいやり方を知りたかった。
考え方も柔軟性がないのだ。正しいことを理解したうえで、初めて応用を受け入れることができる。腹落ちしないと、先に進めないのだ。
 
不器用だからこそ、不器用な人の気持ちがわかる。失敗の数だけは誰にも負けない自信があった。全く自慢にならないんだけど。
何度も潰れたからこそ、這い上がり方も覚えた。
でもそれって、誰かにいかせるならこんな楽しいことはないのだ。
 
自分が自分らしく、誰かの役に立てることがあると思えたら、とても気持ちが楽になった。
どうやったらより分かりやすく伝えられるか、どんな比喩がいいのか。
講義の組み立て方やインストラクションなど知りたいことはどんどん増えていった。
説明が下手な私は説明の仕方やコミュニケーションの本も買い漁った。
 
生きていくうえで、無駄な経験は何一つない。
自分がどう考えるかで大きく違うのだ。
その時は苦しくても、きっと後で振り返れば全部が生きていく力になる。
 
転職して別の仕事についても、この経験はずっと私の仕事の糧になっている。
仕事に限らず、私はパン粉な自分をもっと極めたいと思う。
 
 
 
 
***
 
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