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馬になれないユニコーンたちへ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:玉置侑里子(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
私はこれまで、社会というものにあまり上手くなじめずに生きてきた。
 
学生時代は、周りに数人いた個性的な友人たちのおかげで、自分らしくのびのびと生きることができていた。
それが社会に出て働きはじめた瞬間、きゅうくつになり、急にどうしていいかわからなくなってしまった。
 
よかれと思ってすることが全部裏目に出る。気をつけたつもりでも決定的にどこか大事な部分が抜けている。
「みんな当たり前にできているのに、どうしてあなたにはできないの?」そう言われることもよくあった。
 
 
私は、社会不適合者、というレッテルを自分に貼り付けて20代前半を生きていた。社会に馴染むことをどこか諦め、趣味だった旅の世界に逃げていた。
 
一度はうつ病のような症状になりかけて、失踪騒ぎを起こして家族に捜索願を出されかけたりもした。
 
そんな頃に手に取った精神科医の著書で、社会に馴染めずにうつ症状を覚える人のことが「ユニコーン」に喩えられていた。
 
 
 
ユニコーン。馬のような姿をしているけれど、額からツノが生えた、ちょっとへんてこな空想の生物。
 
その喩えはちょっと小恥ずかしくもあったけれど、とてもわかりやすかった。何不自由なく周りに馴染んで生きる馬たちの中で、なぜか自分にだけおかしなツノが生えている、その感覚。
 
「なにそれ?へんなの」「変わっているね」「なんでそんな変なもの生やしているの?」
 
それはこっちが聞きたい。いっそこんなツノさえなければ、不自由なく社会に馴染めるのに。もっと楽に生きられるのに。
 
 
長いことそう思って「別に好きでもなんでもないけど、楽をして安全に生きていけそうな仕事」や「なんの重圧もない代わりに、なんの決定権もない仕事」を選んできた。
 
ツノを折ってなかったことにしてみたり、そんなものないですよと言わんばかりにひた隠しにしたり……どうにか個性を殺し、社会というものに馴染もうともがいた。
 
でも、毎回それはうまくいかなくて、結局なにかヘマをやらかすか、我慢ならなくなってやめてしまうかのどちらかになるのがオチだった。
 
 
 
しかしある時からその姿勢は少しずつ変わり始めた。小さなきっかけや転機、尊敬できる人たちとの出会いが積み重なって、少しずつ自分を変えていった。
 
中でも大きなきっかけは、ひっそりと始めた旅のブログだった。はじめはただの独り言でしかなかったものが、徐々に好きだと言って繰り返し通ってくれる人ができた。
それが小さな自信につながって、少しずつだけれど、仕事にも活かしていけるようになった。
 
自分にとっては長い間邪魔でしかなかったこのツノを「それ、いいじゃん」と言ってくれた人たち。
私にとってヒーローである彼らの中には、かつて同じように自分の強い個性の存在に苦しんだ人も少なくなかった。
 
その人たちとの出会いを通じて、私は「逃げ続けるのではなく、持って生まれたこのツノと一緒に生きていこう」と思った。
 
 
 
 
そしてその中で学んだのは、ツノを折ってなかったことにするのではなく、生やしたままでも、社会の中で弾かれずにちゃんと必要とされていくコツのようなものだった。
 
 
コツ、その一。
周りにツノを生やした人しかいないような、安心できる自分にとっての聖域を持つこと。
 
みにくいアヒルの子の童話と同じ。周りも同じ場所に行けば、自分のツノは気にならない。
それは、話の合うマスターがいる行きつけの居酒屋だったり、歩き旅仲間との集まりだったり、自分よりずっとぶっ飛んだ大きなツノを生やした、尊敬できる誰かの存在だったする。
 
 
その二。
できるだけたくさんの時間を、自分のツノの形や特徴をより深く知るために充てること。
 
どんな時に人を不快にさせてしまうのか、反対にどんな時には人を幸せにできるのかを、よく観察すること。
世の中には似た悩みを抱える人たちも多くいて、そういう人たちの著書やブログは大いに役に立ってくれた。
 
 
その三。
自分のツノの特徴を、人にもわかりやすく説明するよう努力すること。
 
「このツノは危険ではない。このツノはあなたの幸せの役に立てる可能性がある」と、できるだけわかりやすく周りに示すこと。
正体がわからないから、周りは恐怖し警戒する。だったら、わかるように説明すればいい。
 
名刺を作ったり、文章や写真を通じて自己表現をしたり、ポートフォリオを作ったりして、目に見えない自分のツノを、誰にも見える形にしていった。それらの作品は、周囲が私を理解することを助けてくれた。
 
 
その四。そして、なによりこれが一番大事だ。
それは、自分のツノを誰よりも、自分自身が愛して労って、手入れをしてやること。
 
時に理解されようと肩を張り続けて、疲れてしまうことがある。そんな時は改めて自分の個性を、誰にも邪魔されない場所でもう一度見つめる。愛おしむ。これが自分なんだから、世界中の誰になんと言われようとも、これでいいのだと肯定する。
 
私にとってはそれが、温泉に浸かって「あー最高」と一人呟くことであったり、無心でノートに文字や絵を書きつけることであったり、自分の過去の作品を見返して「へえ、わりといいもの作るじゃん」と自画自賛することだったりする。
 
とにかく自分の好きなことをしまくっていたら、またそのうち元気が出てくる。
「いっちょ、世界にもこのツノの素晴らしさを教えてやろうじゃないか」とか「このツノでめいっぱい存分に喜ばせてやろうじゃないか」とかいう気持ちになれるときが、遅かれ早かれ再びやってくる。
 
もう嫌だと逃げ出したくなる時も少なくなかったけれど、自分自身を満たすことで乗り越えることができるのだとわかった。
 
 
 
そんなことを日々繰り返して、私はようやく、ツノを持ったままで、社会の中で生きていくことができるようになってきたようだ。
 
自信を持って、自分を必要としてくれる仕事や仲間にも出会うことができた。人生第二のスタートラインに立ったような気分。
 
 
社会人になって9年、もうすぐ30歳になる。
ずっと自分と向き合うことから逃げ続けた結果、大切なことにやっと気がついた。それは普通と比べたらあまりに遅すぎるのかもしれない。
周囲と比べて未熟な自分に、恥じ入りたくなったり落ち込んだりすることがきっとこれからもたくさんあるのだろう。
 
それでもかまわない。
だって、これが、自分なんだから。
 
 
不恰好で愛おしいこのツノと、これからも、老いて死ぬまで一生添い遂げたい。
 
そして、願わくばこの不恰好なツノが、周りの人たちを幸せにしていけたのなら、こんなに嬉しいことはないなと思う。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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