メディアグランプリ

服を脱ぐ覚悟

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:夏木緑(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
私は慌てていた。
私の書いた文章が天狼院書店のWEBに載る。
それは私の名誉であると同時に、私への脅しだった。
 
私はいま、天狼院書店のライティング・ゼミを受講している。
天狼院書店とは本の販売以外に、読書会やゼミなどのイベントの企画を通し、本の先にある体験を提供する一風変わった書店だ。その天狼院書店が企画するライティング・ゼミでは、天狼院書店のライター育成に使われている秘伝のタレの様なメソッドを学ぶ。そして、それを元に毎週課題を提出し、後日ライターから講評をいただく。その後、作品として認められれば天狼院書店のページに掲載してもらえる講座だ。
 
私はその講座に2期通っている。
 
書くことは、自分をどこまでさらけ出せるか。
それこそ講師の川代さんの言葉を借りると「パンツをずらす覚悟」があるか?
私は、最初、その言葉の意味がわからなかった。思ったことを、そのまま書き連ねればいいのかな、そんな幼稚な考えだった。
しかし、その意味の一部を身をもって体験する出来事が起きた。
 
「編集部セレクトにアップします!」
私が家族について書いた文章が、作品としてWEBに掲載されることになった。
ライオンが我が子を崖に突き落とし、這い上がらせ、また落とす様に、そう簡単には合格(掲載)をくれない、あの天狼院書店が、私に、「編集部セレクト」をくれた!!!
嬉しかった。ただただ嬉しかった。舞い上がった。自分の文章を何度も読み直し、この子(文章)の何がその評価に値するのか、読まれる文章ってこんな感じなんだ、と悦に浸っていた。
 
調子に乗った私はSNSでも公開してみようと思った。天狼院書店に評価してもらえるのなら、他の人の反応もきっと大丈夫。「編集部セレクト」の印籠もある。面白さはお墨付きだ。
 
「思わず全部読んじゃった」
「その時の状況が、色をつけてリアルに浮かびあがり、映像として出てきました」
 
優しい、身に余る言葉がSNS上にあがった。
普段書き込みもしない人からのメッセージもあった。
いろんな人に見てもらえている、こんなちっぽけな私の文章が、体験が。
書いてて良かった、初めてそう思った。
 
舞い上がる気持ちの中、ふとSNSをやってない友人からメッセージが届いた。
「〇〇から転送してもらって読んだよ! 面白かった!」
……不意に背中に冷たさを感じた。
 
 
小学生の頃、地域の文集に出すからと、自分の作文が選ばれたことがあった。
「じゃあ、ここをこう直して、清書して出してね」
そう言って先生から手渡された自分の作文は、二重線やら先生訂正の字で埋め尽くされていた。
私は指示されたように書き直した。清書をすると、素晴らしい作品が出来上がっていた。先生ってすごいなって思った。
でも、もう、清書した作文は、自分の作文じゃなくて、先生の言いたいことの作文になっていた。
だって、先生が書いてくれてるんだから、どんな人に読まれようと私は間違いはない、鉄壁だ、とそう思っていた。
 
 
天狼院書店でのWEB掲載は一切添削がない。
修正もできない。
当たり前だ。書いているのは子供ではなく大人だ。
大人なのだから自分の文章くらい自分で責任は取らねばならない。どんな欠陥があったとしてもWEBに載った時点で完成なのだ。
わかってる、わかってる、だけど……友人からのメールで気がついてしまった。
 
この作品を、誰が、どう読んで、どう感じて、それがどう拡散していくのか。
WEBの載ると言うことは私の手の届かないところに行くんだと、やっと気づいたのだ。
 
これが、もし、私の苦手とする「あの人」の目に入ってしまったら……。
「あの人」はニタつくのか、蔑むのか、馬鹿にするのか。
ハァ? コイツってこんなこと考えてるんだ、ダッサ。何偉そうに書いてるの?
 
一気に血の気が引いた。
妄想で広がる「あの人」の罵声に、自分がニッコリと笑いながら「で? 何?」と言える自信がない。
テンパった。
 
 
「匿名」で書けばいいじゃないか。
地名もフェイクにしたらいい。
なんなら気づかれないようにキャラクターのイメージを変える様な嘘をばら撒けばいい。
自分をさらけ出した姿の作品にズボンを履かせ、身なりを整えて、何食わぬ顔をさせたらいいんだ。
 
 
その考えも閃いた。
実際そうしようと天狼院書店にも電話した。
だけど……。
 
装った作品なんて、そんなの私じゃない。
私の体験したことの大筋の流れは一緒だけれども、私の見た世界じゃない。
この作品の意味は無くなってしまう。
 
自分をさらけ出して書いた作品に胸を張れる自分がいないことが、悔しい。
傷つく様なことを言われた時に「これが私です、なにか?」って、たった一言言い返す勇気がない。
軸がぶれたコマの様に私の頭の中はグルグルした。
 
結局、私は「編集部セレクト」の作品の掲載をWEBから下げる様にお願いした。
 
心のどこかでは、この作品を読んでも「あの人」からは攻撃を受けない、それはわかってた。
この作品が悪いわけじゃない。
このテンパリの原因は私が、私の「発信」に対する軸がないからだ。
 
自分が自分の価値を決める。
誰が、どう人のことを言おうと、自分は自分だと言える軸が欲しい。
先ずはそれが、「発信」=「自己表現」の最初の関門なのだろう。
パンツをずらせる覚悟、それがここなのだろう。
 
初めて公で自己表現をした。
あの作品は評価してもらい、初めて書いて嬉しいと思った。
臆することなく、照れることなく、自分自身を語れるようになるまでは、この会心の必殺技が決まったような作品は仕舞っておこう。
私とって、初めての不特定多数に自分を晒す恐怖は、確かな学び、名誉の悩みを与えてくれた。
 
今週も私の、私たる「発信」の軸と自分の服の脱ぎ方を、またこの天狼院で試していくしかない。
苦痛だが、いつか快感になるであろうパンツをずさせる覚悟(自由)を持った自分になれるまでその努力は続けていこう。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2022-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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