週刊READING LIFE vol.156

自己肯定感は高くないといけないのか《週刊READING LIFE Vol.156 「自己肯定感」の扱い方》


2022/02/08/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「〇〇ちゃんって、いいなあ」
 
小学生の頃から、私はこの言葉を何度心の中で発していただろうか。
多分、物心がついたころから、私はずっと自分ではない他の人ばかりを眺めて来たと思う。
 
髪型、顔かたちがかわいい子を羨ましがったり。
着ているお洋服が素敵なモノだったら憧れたり。
お勉強ができる、運動ができる、性格が明るい、身近にいるそんな子の、そのどれもが羨ましくて仕方なかった。
こんなふうに、子どもの頃から劣等感の塊で、人のことが羨ましくて仕方なかった私は、今思うと自己肯定感が相当低かったということになる。
自己肯定感という言葉を知ったのは、ずいぶん大人になってからだけれども。
 
小学生の頃、友だちが着ている真新しくてかわいい洋服と、いつもお下がりの洋服を着ている自分とを比べては残念がっていた。
体育の時間、マラソンでは後ろから数えた方が早いくらいの順位だったこと。
引っ込み思案で自分から話しかけられないので、明るく楽しく盛り上がっているグループが羨ましかったり。
 
なんだか、そういうことの一つひとつが、自分自身とは大きくかけ離れていて、そんな自分はすごく惨めだと落ち込ませ、つまらない存在にさえも思えてきたのだ。
きっと、人から見たらそんなこともなく、特に私の小学生の頃、昭和40年代はむしろお下がりを着ている子どもも多かった時代だった。
マラソンの順位が遅くても、別段、気にしていない子もいただろう。
みんながみんな、活発な子ばかりではなく、おとなしい子だってたくさんいた。
それでも、私は常に周りの女子の方ばかりを見て、自分と違う素敵なところばかりを探していたように思う。
いちいち、周りの友だちと自分を比べては落ち込んでいたものだ。
その差が大きければ大きいほど、さらに落ち込み、自分なんて取るに足りない存在、何も取り柄がないし、いてもいなくてもいい存在とまで思うこともあった。
 
今思うと、当時は私の意識は常に外へ外へと向いていた。
友だちのことを観察し、友だちの良いところばかりが目に入り、ちっとも自分に目を向けようとはしていなかった。
それだと、いくら自分に良いところがあっても、いや、きっとあったと思うが、わかりっこないのだ。
自分自身を知ろうとしないかぎり、自己を慈しみ、認め、好きになることなんて出来ない。
そういう思考や行動が、ますます私の自己肯定感を下げていったのだと思う。
 
それでも、小学生の頃の自分は全くダメだったのかと言うと、今、思い返してみるとそうでもなかったとわかる。
周りを気にしすぎてはいたが、そのことで、結果、周りの空気を読む力はずいぶん身についたように思う。
周りに対する、気配りが出来る子ではあった。
なので、私以上におとなしい友だちには、自分から声をかけていったりもした。
周りの人が、今、何を欲しているのかが、直感でわかるという長所と呼べるところもあった。
 
そんな自分自身の良いところは、数年前、高校の同窓会に参加して数十年振りに再会した同級生からも言われた。
 
「穏やかで、まじめだったよね」
 
「立ち居振る舞いが凛としていたよね」
 
直接、話したこともない同級生たちが、遠くから見ていてもそんな印象を受けていたということは、数十年越しの喜びとなった。
その言葉をまとめてみると、どうやら好感度は低くはなかったということだった。
私の、この周りばかりを気にする性格は、高校時代も変わらなかったので、今、数十年を経て嬉しい言葉をもらうと、驚くばかりだった。
 
「もっと早く言ってよ」
 
と、言いたくなるくらい、意外だったし、過去の自分にちょっぴり自信が持てた瞬間だった。
 
「なんてつまらない私」と、思い続けていた自分自身にだって、良いところがあったという証拠なので、心の底から嬉しかった。
 
自己肯定感は低いよりも高い方が、人生を軽やかに謳歌出来そうな気はする。
自主性があって、自分の向かう道をしっかりと認識できていて、清々しいようなイメージが浮かんでくる。
自分自身の心のままに選択決断が出来、その人生を切り拓いてゆく姿を想像するだけでまぶしくなってくる。
 
だから、自己啓発のセミナーが多く開かれたり、心理学を学び自分自身を見つめる機会を持ったりする人も多いものだ。
誰しもが、自己肯定感というものへの意識が強くなり、育んでゆかなければいけないと思い込む傾向があるように思う。
 
でも、自己肯定感が低かった小学生の頃の私自身を、思い返してみることが時々ある。
自分を否定し、他の友だちと比べ、自分自身が最もつまらない人間だと信じ込むような行動しかとっていなかった私。
今ならば、あの頃の私がその時の精一杯で必死に生きていたことを感じられるし、健気だったなと思えるし、よく頑張っていたと労いたくもなる。
 
「自己肯定感は絶対に高くなくてはいけない」、という決めつけをすることはどうなのだろうと今は思うようになった。
それよりも、今自分がどうであるかを見極め、その時々の自分を受け入れることが出来るのが、自己肯定感との良い距離での付き合い方となるような気がする。
自分への自信があるとき、自分への自信が持てない時、そのどちらもあっていいはず。
ずっと、自己肯定感が高いまま、強気で意欲満々の人生なんてありえないはずだ。
自己肯定感が低いといけないと、言い切ってしまうのではなく、今、自分に自信がないんだなと感じることができ、そんな自分をその都度受け入れることで、またいくらでも気持ちは変えてゆけると思うのだ。
 
自己肯定感が高い時もあって、また低い時もある。
それらを行ったり来たりすることが、さらに自分自身を見つめる機会となるはずだから。
今、自分がどうであるかを俯瞰できることが大切だと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2022-02-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.156

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