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娘がタトゥーアーテイストになった


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記事:リヒターけいこ(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
タトゥーといえば、日本ではいまだに刺青のイメージが重なるのではないだろうか。しかし今や海外では20代の若者、アスリートたち、街を歩いてればおばさんだって肩や足首や腕などにちょこっとタトゥーを入れてるので全然珍しくない。
 
 
しかしある日突然18歳の娘がタトゥーアーティストになる、と宣言された時はさすがに度肝を抜かれた。私とドイツ人の夫には男女ひとりずつ成人した子供がいて、偶然にも二人は今アムステルダムに住んでいる。結婚した時から海外生活、二人が赤ん坊の頃1年半日本で暮らした以外アジア数カ国で育ち日本人ともドイツ人ともかなり価値観が違うのは確かである。
 
 
我が家が夫の仕事でチェンマイで暮らしている時、娘は高校でアートのディプロマを取った。
当時タトゥーショップが多く友人からもかなり影響を受けていただろう。夫も私も、高校卒業後にオーストラリアでワーキングホリデーを終えた後にドイツで大学へ入るものとばかり思っていたのだ。ところが! である。
 
 
親としてわかっていたことは、一度言い出したら考えを曲げないだろうという娘の性格であり、
若い時にやりたい事をしておけば、たとえ失敗してもやり直しがきくということであった。
内心、まあ挑戦してみてもいいけれどそんなに簡単にアーチストとして自立できないよね、とたかをくくっていたのかもしれない。
 
 
彼女がタトゥーアーティストになろうと決めた理由はふたつあったと記憶している。
一つは先に述べたように、皮膚に一生残るもの、ということ。
これはどういうことかというと、アーチストの娘が描いたデザインが、一生その人と一緒に体にあるわけで、逆にいうと「自分のアートがお客さまを通してずっと残る」ということ。
 
 
二つ目は名前が知られているアーチストのタトゥーは安くない=儲かるはず、ということだ。
私が娘から聞いたのはあるアーチストのタトゥーに憧れてわざわざアメリカからドイツまで来た人がいた、という話。さすがボディアートである。入れる方は気に入ったアートにお金を払うということで、一回の施術が大きさによって50万、100万、ということもザラなのだそう。
 
 
娘の場合、一人前になるまで2回弟子入りをした。1回目はタダ働きさせられた上に、何も教えてくれようとせず約束を全く無視したドイツ人。サッサと見切りをつけた娘はすぐにそこを辞めて、寿司屋でアルバイトして弟子入りする機会を探しながらお金を貯めた。遠くても自分がいいと思ったアーチストを訪ねて行っては、チャンスがあったら知らせてほしいと頼んでいたようだった。
 
 
2回目はアムステルダムで成功している日本人アーチストだ。私も2度ほど会ったことがあるが責任感もあるし、何しろ日本人なのだ。その頃すでに娘を応援していた私は、これ以上ないお師匠さんだと内心喜んでいたのだが、半年も過ぎると娘から仕事面での厳しさについて聞かされることが多くなった。
 
 
日本を知らない娘が初めて日本職人気質の厳しさみたいなものに直面した、とでもいったらいいだろうか。それがわかったので、母としては日本式教育だったり、日本人男性の姿勢みたいなことを知ってる限り説明しながらエールを送り続けた。
 
 
しかし10カ月になるころには、怒られることに怯え出し、ダメ出しの多さにすっかり自信を失くしてしまって鬱のような症状が出始めた。思春期のころ鬱になった経歴があるので、これはさすがにやばいかも、と心配した。
 
 
辞めるのか続けるか? もちろん私が選択してあげられることではない。娘のアーチストとしてのキャリアに口出ししたくはなかったので、とにかく聞き役となり、師匠との誤解が起きないような配慮だけに心を配った。師匠もインターンとしてやってくる若者がすぐに辞めてしまうという悩みを抱えていたわけで、おそらく日本式しか知らない彼にとっても今時の外国の若者へどう対処すべきか悩みどころだったのであろう。
 
 
とにかく丸一年頑張って、娘は円満に別のスタジオへ移ることになった。新米として下働きしながら、ようやく少しずつ小さなタトゥーをさせてもらえるようになっていった。
彼女は仕事を得る前まで本当にコツコツと地道な努力を続けていたし、そんな背景もあるせいか衛生面の管理とデザインの素晴らしさは、群を抜いているように思う。
 
 
時々インスタグラムの投稿でハッとするような娘の仕事ぶりを見るが、誰に何と言われようと
これが娘の選んだ道なんだ。どんな困難がこようとも、自分が人生に責任を持つしかないのだ。好きなことを仕事にできることがどれほど幸せなことか、ずっと忘れないでいてほしい。
 
 
実は近々私と娘はもうすぐ日本へ一緒に旅行することになった。もちろん娘は自費で、しかも
大阪でゲストアーチストとしての仕事が待っているという。私は一生タトゥーは好きになれそうもないが、彼女の夢がひとつづつ叶っていることに、実は娘以上にワクワクしているのだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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