メモリアル
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:樋口智香子(ライティング・ライブ名古屋会場)
なんだか変だ。私の名を呼ぶ声が聞こえる。
とても遠いところから、何度も繰り返し呼んでいる。
そんなわけはない。義母はもう、天国へ召されたはずなのだから。
何か伝えたいことがあるのだろうか。
それとも、私がもっと伝えてほしかったと思っているからなのか。
義母が89歳で亡くなってから、今日でちょうど1週間。
1か月ほど前、もう終末であることを誰もが覚り、夫、義姉、私の3人は義母のベッドの傍にいることを病院から許されていた。
そのときが来るのは分かっていたし、長く苦しむ様子は見るに忍びない。
「楽にしてあげたい」という気持ちと、「こんなに頑張っているのだから、神様は助けてくださるに違いない」という思いが私の中で交錯していた。
高齢の義母の「老衰」を受け入れたくない理由があるのだ。
3年ほどまえ、義母はたくさんの管がつながれた状態で病院のベッドにいた。4か月ほど芳しくない状態で入院していた。入院当初はほとんど眠っていて、時折目覚めて一言二言話すものの、食事は一切口にできない、薬ものどを通らないという、難しい病状だった。しかし、義母は復活した。驚くほどの回復力で。
自宅に帰ってから、車椅子で介護を受けながら、デイサービスに週5日通った。リハビリに励んで、3か月で杖を使って歩行できるようになった。
後でデイサービスの施設の看護師さんに伺ったところ、家族で旅行に行くことを目標に掲げていたのだという。義母の念願かなって、家族で一泊旅行に出かけることもできた。
そんな義母は何度か調子が悪くなっては病院で診てもらっていたが、いつも健康に気を付けていて、自分の健康状態にとても敏感に対応していた。悪くなってもいつも復活してくる、不死鳥のような人だと思っていた。
けれども、今回は本当に天国に行ってしまうようだ。
付き添っている時、義母の手を取り、「傍にいるよ」と声をかける。
手を握ったり、腕や脚をなでたり、触れていることで、大切な人だと思っている気持ち、感謝している気持ちは伝わるような気がしていた。私はその温かみを感じて義母が生きていることを実感できた。
「ありがとう」と孫二人も亡くなる前に感謝の気持ちを伝えることができて、義母は頷いてくれた。家族がきちんとお別れをできたのは、本当にありがたかった。
夜10時6分に義母が病院のベッドで息を引き取ってから、午前0時ころ深夜にもかかわらず葬儀社が病院から自宅まで送ってくれた。それから夜中の2時くらいまで、隣の濃い親戚が葬儀までの段取りを確認しに来てくれた。田舎のお葬式は、手厚く、心がこもっているように思う。コロナ禍で家族葬しかしてあげられないけれど、皆が送る気持ちはとても暖かい。
自宅の座敷に布団を敷き、白装束で横たえられている義母。
自宅出棺で夕方には葬儀場へ行ってしまう。
朝には納棺師の方にお願いして綺麗にお化粧していただいた。
「宝塚歌劇団のスターのようにベッピンさん」と言って弔問に来てくれた義母のお友達と少し笑った。家族葬のため、親しかったお友達が何人も自宅におわかれに来てくださったが、最期に美しい義母に会っていただけてよかった。
「おくりびと」の映画で少し知っていたけれど、納棺師の仕事は素晴らしかった。
おしゃれだった義母への最期のとても良いプレゼントになった。私もその時はお願いしたい。
弔問に訪れてくださるたくさんの方に支えられ、生前の義母の人生は幸せで楽しかったに違いない。そう確信できた自宅での最期のときであった。
葬儀の前後は気丈に成し遂げて、悲しみはお通夜と葬儀のときに取っておいて、弔問に来てくださる方と分かち合いたいと思った。感謝。
人が亡くなると、葬儀からしばらくの間、故人のおかげで、疎遠になっていた人たちや、道で会ってちょっと挨拶を交わす程度のお付き合いの人たちの弔問を受け、言葉を交わすことができる。悲しいけれども、そこに故人の思い出話もでたりする。
故人のエピソードを聞かせてもらって、笑ったり、感心したり、「へぇー、そうだったの」と初耳の事柄に驚いたり。こんな経験はお葬式がでなければ、あり得ない。
今後のお付き合いをお願いしたり、義母のあと引き継ぐべき家庭菜園の手ほどきをお願いしたりと、これからのことをお願いする機会でもあった。
義母が亡くなってから悲しみとちょっとした情報獲得と日常の入り混じった1週間だった。
すべて義母が引き受けてくれていた、様々なこまかいお付き合いや家事について、これからは私が船頭さんになるのだ。
老いるということは、受け入れたくないけれど、避けられないこと。
義母と健在の実母から、自らの老いていく姿をもってして「老いる」こととはどういうことかを、教えてもらった。親が身をもって子どもに教える最後のことは、老いていくこと、人生を閉じるということ、そのことについて考えなければならないという逃れられない現実なのかもしれない。
久しぶりにスーパーに出かけて、衣料品売り場近くを通ったら、義母の好みそうなカーディガンが目に入った。もう買ってあげることはないのだと思うと、寂しさがこみあげてくる。
義母のいない日常生活が始まる。
いつかは終わる人生をその日までどうやってデザインしていくか、きちんと考えて有意義に過ごしていかなければもったいないと思う。
***
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