メディアグランプリ

最終回を見るのが苦手な彼女の恋愛事情


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中江 園加(ライティングゼミ12月コース)
 
 
「あのドラマの最終回見た?」
「あ、まだ見てないよ~」
私の問いかけに、彼女はいつもそう答える。
彼女がおそらく最終回をまだ見ていないだろうことは、聞く前から何となく分かっていた。
なぜなら、昔から彼女は毎回高い確率で最終回だけを見ていないからだ。
これはただ単に忙しいからまだ見ていないだけとか、録画をし忘れてしまって見られなかったから、とかではない。
 
「なんかさぁ、もう終わっちゃうと思うと寂しいじゃん。それにもしもバッドエンドだったら嫌だな~って思っちゃうんだよね。知りたいけど、知りたくないみたいな気持ち。そうすると、まぁ見るのは今日じゃなくてもいいかな、もうちょっと大事にとっておこうって思っているうちに録画の容量がいっぱいになって、いつの間にか消えちゃっていたりするんだよね」そう言って彼女は笑った。
 
なるほど。確かに私も最終回を見るのは少し寂しい気持ちになったりする。
もう、こんなに大好きなキャラクター達に会えないんだなと思うと寂しくはなるが、でも今まで成り行きを見守ってきて、自分がそれだけ好きになっている物語の結末がどうだったかは知りたい。第一、ドラマは見始めた時から終わりがあることは分かっているし、どんな過程で最終回を迎え、そしてどんな終わり方をしたのかも踏まえて名作になるかならないかは決まると思う。
例え、それがハッピーエンドでも、そうじゃなかったとしても。
 
最終回を見るのが苦手な彼女は、私生活でも「最後」の雰囲気がどうやら苦手なようだった。
例えば私と電話を切る時にも「バイバイ」と何の気なしに言う私に、必ず「またね」と返し、
友達がみんなで集まって遊んだ帰り道も「次はいつ集まれる?」と必ず次の約束をしてから別れるのがお決まりだった。
そしてその最たる例が、片思いをしている相手との関係がもう何年にもなるというのに、未だに「最後」がくることを怖がって、告白さえできないままでいることだ。
 
「だって、私が好きだって言わなければずっと一緒にいられるでしょ? 友達だったら私が勝手に好きでいても会ってもらえるし。でも、もし気持ちを伝えて振られたら、もう会ってもらえなくなっちゃうもん。そんなの寂しすぎるよ」
そう言った彼女の顔は暗くてよく見えなかったが、少し寂しそうだった。
 
「でもさ、もし他に彼女が出来ちゃったらどうするの? その場合ももう会えないよ?」
「そうなったらしょうがないよ。逆に諦めがついていいかもしれない」
 
あぁ、大事にとっておいた最終回なのに、結局録画の容量が足りなくなって消えてしまうのと同じ感じね。
 
「でも、思い切って自分の気持ちを相手に言ったら何か変わるかもよ? 言わなくて、伝えないまま終わってしまっても後悔しないの?」
「いいの。だって今は彼が私のこと好きな確率なんて全くないもん。悲しいけど、それだけは分かっちゃうんだよね」そう言った彼女の背中を、私はもうそれ以上押せなかった。
 
それから二ヵ月後、数年にも亘る彼女の片思いはあっけなく幕を閉じた。
そう、彼に恋人ができたのだ。
 
「そんな突然……」と驚く私に彼女は事情を説明してくれたが、どうやら彼も長年、前に付き合っていた女の子のことを忘れられずに今までずっと好きでいたらしい。
そのことは彼女も知っていて、その一途さも含めて好きだったのだと初めて話してくれた。
だからあんなに頑なに告白をしなかったのか。
 
「まさか元カノが今の彼氏と別れて、また彼と付き合うようになるなんてね。びっくりしちゃった」と彼女はおどけた様にわざと明るく笑ったが、無理しているのは明らかだった。
「前から彼が何回か元カノに告白していたことは知っていたんだ。でも毎回断られていたから、きっともうこの二人が付き合うことはないんだろうなって……たぶんどこかで私は安心していたのだと思う。だから彼の一番近くにいれば、例え今は友達でも近くに居続けられたら、私にも少しはチャンスがあるんじゃないかなって、私のこといつか好きになってくれるんじゃないかなって期待していた。でも、彼はダメ元で元カノに『これが最後の告白だから』って言ったみたい。そうしたらOKもらえたんだって」彼、すごく喜んでいたよ、と付け加えた後に、彼女はこう続けた。
「私はやっぱりダメだね。最後がくるって思うと動けなくなっちゃう。最後がくるのが寂しくて、会えなくなるのが怖くてどうしても避けてしまう。どれだけ避けようとしたって最終回は必ずくるのにね」
 
「じゃあ、最終回がこんなに辛い結末なら、最初から好きになるのをやめとけばよかった?」そう彼女に問いかけると、少し考えた後にこんな答えが返ってきた。
「ううん。好きになってよかった。だって彼を好きでいた時間は楽しかったから。彼と一緒に過ごせたこの数年間はすごく幸せだったから。例え、最終回の結末が『友達』だったとしても、私は彼のことを好きになれてよかったよ」そう言って笑う彼女は、とても綺麗だった。
 
 
季節が巡り、もうすぐ冬が終わる。
また、春になれば新しいドラマが始まる。
もし彼女に、新しく好きなドラマができたとしたら、次は最終回まで見るか聞いてみよう。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~21:00
TEL:029-897-3325



2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事