メディアグランプリ

「この一球に懸ける」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木敬太(ライティング・ゼミ12月開講コース)
 
 
「やっぱ出るんじゃなかったな……」
 
相手に決められたラストポイント。
そのボールを拾いに行きながら、ふと浮かんだ言葉に心底がっかりした。
31年振りに、高校時代のセンパイと組んだ試合は、1勝もできずに終わった。
 
一定、この結果も予測していたから、ショックも小さいかと思いきや、そうでもなかった。
誘ってくれた先輩のせいにして「仕方ない」と、わずかでも思う自分。その思いに甘んじる感覚が大嫌いだ。
趣味のテニスで、壮年(45歳以上のベテラン)であることが出場条件のダブルスの試合に出た。選手としての道を断念して24年。今では気心の知れた仲間と週末に楽しむ程度だ。特別なトレーニングもしていないし、加齢による衰えも自覚している。だとしても。
0勝4敗。
リーグ戦・総当たりで全敗。
 
「あー、腹立つ……」
元コーチとしてのプライド? 思い通りに動かない身体への怒り? 原因がなにか、はっきりとはわからないが、苛立った。
対戦相手は、一回りは年上であろう初老の紳士や、ふくよかな胴回りで動きに制限のあるオジサン、自分よりはるかにキャリアの浅そうなペアなど、以前なら「教えていたであろう対象の方たち」が半数以上はいた。いや、今でも指導対象には違いない。そんな彼らに敗けた自分。敗けたことを仕方ないと思う自分。そして全敗が決まった瞬間に浮かんだ「やっぱ出るんじゃなかった」と言い訳を浮かべる、潔さのカケラもない自分……。ショックだった。
 
いっそ試合に出なければ、こんな思いをすることはないのだが、きっとまた出るだろう。
なぜか?
勝てなかった相手に初めて勝ったとき、強豪を破って番狂わせを演じたとき、納得のいくプレーができたときなど、試合の魅力は色々ある。が、一番の魅力は「非日常」が体感できることだ。おそらく、勝敗のかかる場面が日常だ、という方は少ないだろう。練習では感じない緊張感も、敗けたときの悔しさも、勝ったときの嬉しさも、試合でしか体感できないものだ。大事なプレゼンでも、勝敗というよりは成否を案じての緊張だろうし、カラオケでは自分の点数に一喜一憂できる。マラソンなら自己ベストの追及など、自分に集中できそうだ。
 
もちろん、題材がなんであれ、プロの世界は別格で想像すらできないが、対戦相手がいて、勝敗がある競技でしか味わえない「非日常」がある。
「非日常」は、まるで太陽のように、ときに厳しく、ときに優しく我々を照らす。どちらの側面も成長には欠かせない。厳しければ厳しいほど、乗り越えたときの成長も喜びも大きい。
 
苛立ちの原因がわかってきた。「非日常」を受け止める準備ができていなかったのではないか。言い訳が真っ先に浮かんだのがいい証拠だ。せっかくの「非日常」だったのに不完全燃焼で終えてしまった。成長するチャンスといっても、ラクしてモノにできるものではない。真剣に取り組んでこそ、チャンスになるのだ。
 
テニスで「真剣に取り組む」とは、ボールに集中することに他ならない。自分の調子は大なり小なり上下する。仮に調子が良かったとしても相手がいる。相手も勝利を目指しているわけだから、勝敗に集中したからといって勝てるとは限らない。その点、ボールは違う。調子に左右されず、相手にもよらず、ゲーム展開がどうあろうがボールはボールである。早いか遅いか、弾むか滑るか、ストレートかクロスか。ボールに集中できていれば、自然とそのときのベストプレーに繋がる。厳しいボールにも喰らいついて凌ぎ、チャンスボールを逃さずにウイニングショットを放つ。結果、自分の調子が上がり、相手にプレッシャーを与え、勝利に近付く。文字通り「この一球」に懸けることが大切なのだ。
 
「ボールに集中する」とは「インナーゲーム(W.ティモシーガルウェイ著)」で学んだ、基本の1つだ。テニスコーチを始めて間もないころに読んだ本だが、技術面より精神面にフォーカスされていて、テニス以外にも応用の効く内容だった。
どうやら今回、私はこの基本を忘れていたようだ。ボールに集中せず、ペアのことや自分のこと、相手のことや勝敗のことばかりを考えていたのだ。せっかくの「非日常」を、自分を成長させるチャンスをフイにしてしまった。
 
人に説いてきたことを自分ができなかったのだから、残念な気持ちに変わりはない。ボールに集中できなかったことは大いに反省しよう。だが、テニスはポイントを重ねた先に勝利が待つ競技だ。ポイントを失っても次のポイントを奪えば挽回できる。
今回は「この一球」に懸けられなかったが「次の一球」に懸けよう。見事に挽回して勝利と成長を掴みたい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事