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発令・挫折・そして気づけた大切なこと

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:bajio(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「ちょっといいか」
直属の上司から声がかかる。いつもより神妙な様子。
いつもと違う雰囲気を察し、会議室に2人で入る。
 
「君の異動が決まったよ」
上司からの一言。
とうとうこの時がきた。
 
この営業所に着任してから3年間。異動の多い我が社の中ではかなりの古株。もうそろそろだろう、とは思っていた。だけど、いざそう言われると自ずと緊張する。上司の次の言葉を待つ。
 
「次は本部だ。大変だが、やりがいのある仕事だよ」
 
それから、わたしへの労いの言葉。今度行く部署の仕事のやりがいを説明してくれたが、全くと言っていいほど頭には残らなかった。
 
やるせなさ。敗北感に打ちひしがれていたのだ。
 
それには理由がある。
 
いまの私にとって、その部署への異動は、出世できなかったことを意味するからだ。
 
今の営業所の肩書きは課長。いわゆる中間管理職と言うやつだ。そして、わたしの勤務する営業所は全国でも有数の規模。そこで認められれば、次は更なる出世が臨める。
わたしのいまの立ち位置から、次のステップとなるのは営業所の所長になること。その一択。
 
すなわち、その営業所長ではなく、本部の名前が出たこと。それは出世が出来なかったことを意味するのだ。
 
これまでの3年間、毎日が奮闘だった。
 
上司からの要求水準は高く、いつも自分が試されているような心境。
 
そして、一筋縄では行かない部下たち。上からの指示にいつも素直に従ってくれるわけではない。
 
思い通りに行かないことも一度や二度ではなかった。毎日が苦難の連続。朝は誰よりも早く出社。いまが勝負どころなんだと、自分を奮い立たせながら、なんとか食らいついていくような感覚だった。
 
「いまは辛いけど、きっとここでの頑張りは認められているはず」と自分に念じて、もがく毎日。
 
これまでのサラリーマン人生も順風満帆とは言えなかったが、がんばりでなんとか乗り越えてきた。結果、最終的に希望するキャリアをつかんできたという自負があった。
 
それが、今回の発令。まるで自分が否定されたような、できないやつという烙印を押されたような気がして、ひどく落ち込んだ日々が続いた。
 
そんな中、迎えた週末。
 
「パパ、遊ぼうよ」
 
朝から声をかけてくれる子どもたち。小学一年生の女の子と幼稚園年少の男の子の二人兄弟。
 
遊び盛り。鬼ごっこをすれば、全力で逃げる子どもたち。捕まると心の底から悔しがる。今度は鬼役をやれば、必死に追っかけてくる。逃げるわたしを捕まえることができれば、満面の笑みで嬉しがる。
 
常に全力投球。そのテンションをわたしにも求めてくる。わたしの落ち込みなんて当然気にしていない。
 
はじめは会社での出来事が頭に浮かび、モヤモヤしていたが、子どもたちに合わせているうちに、そのモヤモヤが薄まっていく。頭に浮かんでくる頻度が徐々に少なくなり、気づいた頃にはモヤモヤにとらわれなくなっていた。
 
子どもたちと夢中になって遊んでいるこの瞬間。この他愛ない時間が、なんだか、とても尊いものに感じられたのだ。
遊びに無我夢中になり大喜びしたり、兄弟げんかで大泣きする子どもたち。自分の感情に完全に自由になっていることに尊敬すら感じられるようになっていた。
 
「おれはなんのために仕事をしていたのだろうか」
 
嫌なことも我慢し、ストレスを貯めながら仕事をする。これも次のステップのため。我慢すれば評価される。道は開ける、いまは我慢の時と思いながら、入社以来、20年間働いてきた。
 
結婚し子どもを授かってからは、仕事をする目的が「家族が幸せになるため」に変わったが、そのためには出世してお金をかせぐべき、ということに疑うことすらなかった。
 
そんな、家族を幸せにするために仕事をしているのに、その仕事の出来事でイライラして、ストレスをためる。家族との時間を楽しみきれず、無駄にしていたのだ。
いまこの瞬間の幸せになんで気づかなかったのだろう。
 
同時に、たかだか会社の評価に落ち込んでいること自体もバカバカしくなってきた。
自分を評価しない会社にしがみつく必要なんてないんじゃないか。今回の発令が、自分のやりたいことをするまたとないチャンスなのではないか、とも思えてきたのだ。
 
これまでの「組織の中で自分に与えられた役割を忠実にやるべき」という考え。自分のやりたいことと違っていたとしても、組織で動くうえでは従う。入社以来、その考えを疑うことすらなく働いてきた。
 
それが、子どもたちのやりたいことをやりたいだけやる姿勢。喜怒哀楽を全力で示し、思うがまま行動しているのを見た時に、自分がだいぶ前から忘れていた感覚、きっと自分も子どものころには持っていたそれを思い出させてくれたような気がしたのだ。
「やりたいようにやればいいじゃないか。もっと、自分のエゴをもっと出せばいいじゃないか」と言われたような、そんな気分。
 
40歳。もうサラリーマン人生も折り返しで、気づいたことは遅いかもしれない。
でもまだ、残りのレースはまだ残っている。
そして、人生そのものはこれからも続いていく。妻や子どもたちと、共に歩める道はまだまだあるのだ。だったらその道を楽しく一緒に歩めることが出来ればこんなに幸せなことはないじゃないか。
 
「ありがとう。今日もいってくるよ」
 
いつもの朝。まだ寝ている妻や子どもたちに心の中で挨拶をしながら、今日も職場へと向かっていく。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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