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自分の考えが正しいかは、自分だけではわからない


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐藤知子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
昨年9月、職場で健康診断の結果を受け取った。
その場で封筒を開けてみると、「要精検」の文字が目に飛び込んだ。胸部レントゲンの項目に、肺浸潤影あり、と記載ある。
「胸部レントゲンが再検査になっちゃった」
驚いて思わず口にしてしまった。職場の人も、「肺となると大変だ、俺の高脂血症とは訳が違う。早く病院行った方がいいよ」と早目の受診を勧めてくれた。
がんの疑いがあるのだろうか、これは大変なことになってしまった、と不安でいっぱいになった。
 
大きな病院を受診し、レントゲンとCTを撮ってもらった。
「健康診断で再検査になる人はたくさん来ます。結果的に異常のない人も多いので、あまり心配しすぎないように」との先生の言葉で、少し安心していた。
ところが、検査結果を聞きに行くと、肺の状態が正常ではないことを告げられた。やってしまった、やっぱりがんだったんだ、と体が凍り付いた。
先生は、カチカチとパソコンを操作しながら私の肺の画像を映し出し、見えているたくさんの小さな白い点について、紙に書いて説明してくれた。
 
病名、非結核性抗酸菌症、人から人へは移らない、土や水の中に普段からいる菌で、吸い込むことで感染する人がいる。年単位で進行し慢性的な経過をたどり、約50%の人が悪化する。咳、痰、血痰、喀血などが主な症状。完治は難しい。薬は結核と同じもので、副作用が強く、失明につながったり肝障害になるおそれもあるので、服薬治療を選択するのは、全ての人ではないとのこと。部分的な所見の人は手術も出来るが、私の場合、両肺一面に広がっているので、適応ではないとのことだった。
 
心配したがんではなかった、でも知らない病気にかかっていた。もう長生き出来ないのだろうか、子供が成人するまで生きられるのだろうか、その前に仕事を続けていけるのだろうか。家のローン、3人の子供達をどうしたらいいのだろう。人生の底を突き付けられたような絶望が全身を駆け巡った。一人になってインターネットで調べると、ますます不安が募っていった。
 
一番悩んだのは周りの人に伝えること、だった。誰にどう伝えるか。
まず夫へは、病院で聞いてきたこと全てを伝えた。「ふうん。仕方ないだろ。治すしかないよ」とさりげなく言ってくれた。逆の立場だったら、と考えると、夫が病気になったと聞かされるのはつらいことだと想像した。夫は7歳年下なので、将来いつかは来るだろう、と思っていた歳の差婚の問題の1つが、こんなに早く起こってしまって、申し訳ないと思った。
 
次に職場。出勤して顔を合わせる前に、グループラインで報告し下準備。進行する人もいればしない人もいる。しばらく経過観察となったことを、できるだけ軽く、明るく伝えた。今の仕事が出来なくなったら、異動させられてしまったら、との不安を打ち消すためだった。
 
子供達へは、もうしばらく黙っていようと夫と話し合った。確定診断のためには痰の検査で2回陽性になることが必要だった。しかも培養には1回2週間程度かかるため、確定してからにしようと先延ばしにした。
それがまずかった。悩みを打ち明け合う友人とやりとりをした、ラインの画面表示を、1番下の子供が偶然見て、病気のことを知ってしまった。驚いて数日悩んだ後に姉に相談、変わったそぶりを見せないようにしながら兄とも話し、ある夜そっと聞いてきた。
「ママ、大丈夫なの? 病気なんでしょ。死んじゃうの? ライン見ちゃってごめんなさい」
血の気が引く思いがした。どれだけ子供たちを悩ませてしまったか。深く反省した。
普段は、言っても言っても聞かない子供たち。見方を変えれば安心してのんびりとくつろいでいる姿を見ていると、親が病気だなんて言いたくなかった。いつまでも元気で、何でも出来るお母さんでいたかった。子供たちを守っていきたいのに、弱みを見せたくなかった。でも病気になったのは事実だった。思い切って、3人にわかりやすく伝えた。
 
そして親への報告。もうすぐ80歳になろうとしている母へ言うべきか、と迷ったが、隠すべきではない、と思い、電話でできるだけ淡々と伝えた。親より先に病気になり、心配をかけてしまうことが辛かった。
でも母は、思いの他冷静な声で「きっと治る。気持ちを強く持ってな。毎日仏様にお参りしておくから」と、治らないと言っているのに、無理にでも治ることを前提に励ましてくれた。
 
数か月経過観察の後、現在は服薬治療を始めている。定期的な検査をして副作用を確認しながら、1日14錠の薬を飲むことができている。2年間は続けなければならないそうだ。
 
いろいろな状況が変わり始めた。病気になったらなったで、全てが終わりではなかった。職場に都度状況を話し、2週間に1度、受診のための休みをもらい理解を得ている。異動させられることもなかった。
夫は漢方薬を調べて勧めてくれた。子供達もそれぞれ受け止めたらしく、風呂掃除を交代でしてくれる。母は毎日病気の改善を願ってくれている。家庭菜園で野菜がとれたら、これからは全部洗って土のついたものは渡さないから、と気遣ってくれる。
 
自分も病気のことがわかってきた。人生太く長く、は難しくても、細く長く楽しく、は出来るらしい。気持ちが落ち着いてきた。自分一人だけで考えると、悪い想像ばかりが膨らむ。自分の考え以外、考えられなくなってしまう。それが諸悪の根源だったのだと気づいた。
今は、いろいろな人との関わりの中で生きている、ということに、心から感謝している。
 
 
 
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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