なぜ奈良の春日大社の神さまが鹿島神宮から迎えられたのか
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記事:九條心華(ライティング・ゼミNEO)
どうして、奈良の春日大社が、遠く鹿島の地から神さまを迎えたのか不思議だった。
そもそも、そのことを知ったのが、数年前のことだ。東京国立博物館で特別展「春日大社 千年の至宝」を観て、初めて知った。鹿島神宮からタケミカヅチノカミが白い鹿に乗って奈良にやってきて、春日大社が創建されたといわれている。だから、奈良の鹿は神の使いとして、大切にされている。
春日大社は学生時代からよく参拝に出かけたし、今の季節は、藤の花が美しい。春日山原生林があって、風光明媚なところだ。奈良国立博物館の近くでもあり、文化と自然があって、鹿が悠然と存在し、歴史も感じられる。落ち着いていてとても好きだ。そのなじみのある春日大社の神さまが、鹿島神宮から来られたということに、展覧会を一緒に観た奈良出身の友人とともに驚いた。勉強不足だと言えばそれまでだが、奈良の人がどれだけ知っているだろう。
タケミカヅチノカミって何者で、なぜ鹿島神宮なのか。
1300年前からある春日大社の神さまが鹿島神宮から来られたということは、鹿島神宮がよほど古いということだ。都があったわけでもなく、鹿島の地というのは、いったいどんなところなのか、という好奇心があった。
鹿島神宮を参拝したいと思いながらも遠くて、いつか行こう行こうと思っていて、ようやく今日参拝できた。電車はびっくりするほど便が少ないので、東京駅から高速バスで行くのがスムーズだ。20分に1本ぐらい出ていて、約2時間で行ける。バスからの風景に、関東平野の広大さを感じる。平らで山が一つもない。どこまでもどこまで伸びていく大地。ちょうど田植えの季節で、美しい水田が瑞々しく広がっている。
神社参拝は午前中がいい。本当は平日の参拝客が少ない日に行きたいところだけれど、連休中の平日になったので、参拝者は多かった。
鹿島神宮の鳥居をくぐって、鹿の前で由緒書を読んでいると、親切な地元のおじさまが、
「鹿島神宮の神さまは、雷の神さまなんですよ」と教えてくれた。
その言葉を聞いて、思い起こすことがあった。
かみなりは、「神鳴り」であり、神さまが鳴っている。神そのものだ。
雷とは、易や陰陽五行でいうと、季節で言うと春、躍動、誕生を意味し、方角で言うと東を意味する。ここ鹿島は、日本の東に位置する。
古代、太陽が昇る東は、神聖な場所とされていた。聖徳太子が、遣隋使小野妹子に持たせた国書に、日本を日出ずるところの国と書いて、中国と対等でいようとしたことは、歴史の教科書で学ぶ。
また、雷というものは、稲妻であり、稲と雷が交わることで稲穂が実ると考えられてきた。
稲妻のかたちを逆さにすると、木のかたちにそっくりだ。古代中国の最古の書、易経では、雷と木は同じ象形としている。雷が落ちたときの大きな衝撃、躍動、場面転換、誕生という意味を持つ。何もなかった大地から、春になって芽が出るように、ないところから何かが生まれる。そういうエネルギーをあらわしている。
東の果ての地から、雷の神さまを迎えるというのは、納得がいく。何もないところから、何かを生み出すときには、雷のような大きなエネルギーがいる。ゼロから一にするのは、相当な力がいる。会社で言うと、創業者というのは苦労している。いろんな試行錯誤を経て、創業している。
神社には、同じ神さまでも荒々しい側面の荒魂(あらみたま)と、やさしく平和的な側面の和魂(ににぎたま)の両方を別々に祀っていることがある。荒魂と和魂は、同一の神さまであっても、別の神さまに見えるほどの強い個性のあらわれで、例えば、伊勢神宮では、内宮の正宮と荒祭宮、外宮の多賀宮というように、別に祀られていたりする。荒魂はその荒々しさから新しいことや物を生み出すエネルギーを内包している魂とされ、同音異義語の新魂(あらたま、あらみたま)とも通じるとされる。
雷の神さまは、そのものが荒魂という感じがする。
奈良の平城京に遷都され、藤原氏が氏神としてタケミカヅチノカミを鹿島神宮からお迎えして祀ったのは、まだできたての都を力強いエネルギーで守ってもらって、地盤を固めて確固たるものにしようとしたのではないかと思う。それには、東の果ての地から雷の神さまであるタケミカヅチノカミでなければならなかった。
昔、仕事でお会いした方に、鹿島神宮の宮司の家柄の方がいらっしゃって、ご自身は神職をせずにふつうにお勤めだったけれど、東さんという方だった。東と書いて、「とう」と読む姓だった。東の地の鹿島神宮の宮司さんが東さんというのも、偶然のようで偶然ではない気がする。すべては不思議なご縁のつながりだ。
鹿島神宮のタケミカヅチノカミに出逢えたことに感謝する。
何もないところから自分の人生を自分でつくっていこう。
きっと、タケミカヅチノカミが応援してくれている。
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