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自分が要介護になったときのこと、家族と会話してますか?~親が要介護になるかも?という恐怖を味わってみて~


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記事:長谷川徳子(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
「いつまでもあると思うな親と金」
 
昔の人はうまいこと言うよな~と思うことわざの一つだ。でも、今の私なら、こう言うほうがしっくりくる気がする。
 
「いつまでも元気と思うな親のアタマ」
 
母が吐き気などの調子の悪さを訴えたのは、先週の水曜日の夜だった。食あたりでもしたのかな?ぐらいに私も家族も思っていた。翌木曜日、様子がおかしいから救急車を呼んだと娘から連絡があり、仕事後、運ばれた病院へ駆けつけた。
たしかに表情がおかしい気がしたが、病院でも特に以上は見当たらないとのことで、抗生剤と水分補給用の点滴をいれてもらって、自宅に帰った。
 
その状態がもっとおかしいと気づいたのは翌日、昼前に実家に行ったときのことだった。
 
その日は、歩いたり階段の上り下りが少し不安になってきた母に、手すり等をつけるための介護保険の認定判断の日だった。認定担当の区役所の担当者、ケースワーカー、友人である訪問看護師が来る予定になっていた。実家についた早々、昨晩自宅に帰ってきてから、母がずうっと眠り続けていると父から聞いて驚いた。実際に、私が大声をだしても、肩を揺さぶっても起きない母に、どうしたものかと悩んでいた。
 
訪問看護師の友人が来たときに、母が少し目を開けた。その無感情な、どこにも力のない、焦点が定まってない表情を見たとき、恐怖を感じた。
 
そこにいたのは、私が一度も見たことのない痴呆症感まるだしの年寄りだった……。
 
 
看護師の友人のアドバイスのもと、2日連続で救急車を呼ぶのは嫌だという父を説得して救急車を呼び、7年前に水頭症の手術をした医師のいる大学病院へ運んでもらった。
 
水頭症とは、脳と脊髄の周囲にある水分で、クッション材のような役割の脳脊髄液(髄液)がうまく流れなくなることで数々の脳の障害を引き起こす疾患だ。
 
病院ですぐにCTなどをとってもらったところ、どうやら、水頭症の手術で入れた髄液を流すためのチューブが詰まっていたらしく(その原因は不明)、髄液が脳の中に余分に溜まっていたとのことだった。すぐに、余分な髄液をすぐに抜くための緊急ドレナージュ手術が行われた。
とりあえず、その手術をすれば、もとに戻ると思って、私はほっとした。
 
 
世の中そんなに甘くないらしいと思ったのは、手術の翌々日、荷物を届けに行ったときのことだった。母のいる大学病院は今でもコロナ対策のため、面会謝絶で荷物を届けるしかできない。
 
担当医師との会話で、緊急ドレナージュ手術で脳内の髄液を抜いて脳室も小さくなったのに、母の動作などの回復が、想定よりもかなり遅いとの報告を受けた。そう聞いた時、「まぁ年も年だし~、そんな簡単には復活しないわな~」と気楽に思っていた。
その「私の親のアタマはいつまでも元気」と思いこんでいたお気楽な私の考えを打ち砕いたのは、その後の看護師の話だった。
 
その看護師が、「歯磨きができないので、液体の口腔洗浄剤と舌をきれいにする舌ブラシを持参してほしい」という話から、食事や歯磨きを全部介助されていると聞いたとき、体が震えた気がした。平静を装った私はちょっと茶化した感じで聞いた。
 
「食事の介助って、あの、お口開けて、あ~んってやつですか?」
 
私の想像は間違っていなかった。本当は間違っていてほしかったけど……。
 
 
病院に行く前は、ほぼフルタイムで働く私のために、母は4人分の食事を作ったり、近くのスーパーへ歩いて買い物に行ったりしていた。2階建ての家で階段を、ゆっくりであるが上り下りもできた。
その母が、「おくち、あ~んして」食べさせてもらっている……。
 
私がまったく想定していない母の姿がそこに見えた気がした。私は涙が出そうになるのを必死に堪えて、看護師さんから言われるまま次回持参するもののメモを取った。
面会謝絶で母がどんな様子なのかを自分の目で見られないことも私の不安をあおった。
 
 
救急車で運ばれてから1週間がたった。
 
母は今でも入院当初と同じように食事等の介護を受けている。病院からは、ゴールデンウィーク明けに予定している手術の話があった。そして、その術後の、リハビリ施設のある病院への転院の打診まで始まった。
 
 
思いもよらないことは突然やってくる。そらそうだ。思ってなかったことが来れば、それは「突然やってきた」と思うしかない。でも、今回の件で思う。これって本当に「突然やってきた」のだろうか?
 
 
母が歳を重ねて、歩くのが遅くなるのをみて、いろんな物忘れをするのをみて、「老いる」をリアルに見ていたつもりだった。でも、私は、「老いる」と「介護が必要になる」とを一緒には考えていなかった。
母が買ってきたアイスクリームを冷凍室でなく野菜室に入れ、どろどろに溶けたアイスまみれのキャベツを見つけたとき、私は笑いながら娘にこう言った。
「30年経ったら、ママも、こんなことするようになるからね~」と。
その時の私には、それは笑って話せる「老い」のネタでしかなかった。
 
「介護が必要になる」ということとは、まったく違う話だと今ならわかる。
そして、ただ単に「老いる」ことではなく、「介護が必要になる」、「介護が必要になったときのこと」の話をしておくことが重要だったということも今ならわかる。
 
「自分の子には迷惑をかけたくない」うちの母もそう言ってたし、私もそう思ってる。
でも、私たちは、そのためのリアルな会話を避けてしまった。お互いに楽しい話じゃなかったから。
 
でも、今ならわかる。絶対にその会話をしておくべきだった。
 
なぜなら、先に生きる者は、つまり間違いなく先に老いるものが、自分の介護について家族と話しておくことで、世話や手配をするだろう家族を少しでも楽にしてやれると私は思うからだ。
 
だから、一昨日、娘には言った。
母のことが落ち着いたら、「私自身が介護が必要になった時のことについて」娘と会話したいと。
 
 
そんな今の私にいちばんしっくりくるのは、これだ。
 
「いつまでも元気と思うな私のアタマ」
 
 
 
 
***
 
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2022-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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