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メディアグランプリ

寄り添うことの難しさ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:油井貴代子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
あの時、私も一緒に死んでいればよかった。
 
そう涙ながらに話すその人に、私など生声をかければよいのか、全くわからなかった。励ましたい。でも、がんばれとは言いたくない。
そんなこと言わないで……
口の中でもごもごと言葉を探しながら、無力感を味わっていた。私にはなす術を持ち合わせていなかったのだ。
 
東日本大震災から二年後のことである。
宮城県南三陸町で仲良くなった漁師さんの港で、ボランティアをしていた私たちに声をかけてきたのは、犬の散歩に来ていたおばあちゃんだった。
「どこからきたの?」という問いかけから始まった、関西からと答えた私たちに「遠いところからまぁ、ありがとうね」と、少し世間話をした。
その後突然、あの日の話になった。
その日は友達と寄り合いに行って、自分は用事があるから先に帰ったそうだ。そのおかげで自分は助かったが、寄り合いに出ていた友達は、みんな流されて死んでしまった。最初は命拾いをしたことが良いように思えたが、何にもいいことはない。いっそ、あの時一緒に流されたらよかった……
 
このおばあちゃんにどう接すればよかったのだろう。どのように声をかけ励ませばよかったのだろうか?
ずっと長い間、その時のことが心の片隅に残っていた。時々ガラスの破片のようにチクチク刺さりながら、私にその出来事を忘れないように仕向けていた。
 
数年が経ち、今度は私が逆の立場になった。
「しばらく弟の姿を見ない。車も動かした様子がない」という一本の電話を受け、私は実家へ向かった。最後に会ったのは約2週間前のことだ。その日、具合が悪いと弟は横になっていた。具合が悪いと口に出したわけではなく、いつものことなので、寝ている弟を起こさずに父のグループホーム入所の準備をし、黙って家を出た。父の入所が無事に済んだことを報告せねばと思いつつ、一つの問題が解決したことにほっとして、後回しにしていた。弟は普段から用事のある時しか連絡がなく、用事と言っても父のことばかりであった。父が入所したことで弟からの連絡が途絶えたと思っていた。
 
玄関を開けると、弟が台所の床で寝ているのが見えた。遠くから声をかけたが返事はなく、恐る恐る近づくと変わり果てた姿で横たわっていた。遠くを見つめ何か言いたげな顔であった。病死であった。
元々アルコール依存症であったと思う。まるでアフリカの飢餓に苦しむ子供のような姿をしていた。痩せているくせにおなかだけ異常に出ていたのだ。検視をした医者が言うには、肝硬変で腹水が溜まっていたのだという。
うすうす弟の異常に気が付きながら、私は何もできなかった。苦しんでいたのだろうが、私には問題の多い弟でしかなく、相談に乗ってやることも寄り添った声をかけることもできなかった。むしろ死んでしまえばよいと思っていたくらいだ。
ところが! 実際に死んでしまったのだ。
なぜ? 私が死んでしまえと思ったから?
私はそのことで苦しむことになってしまった。
 
多くの友人は私のことを心配し声をかけてくれたが、私にはその言葉は届かなかった。
そう、あの時と同じだ。私はあのおばあちゃんの立場となり、友人たちは私の立場になったのだ。なんて声をかければよいのか、全くわからなかった私をそのまま見ているようだった。きっとあの時の私の言葉も、おばあちゃんには届いていなかったに違いない。
 
ところが、ある人からの言葉で私は救われたのだ。
「運命だったんだよ。あなたはよく頑張りました。ありがとう」
なぜだがこの言葉は私の心にすっとしみ込んで、もう苦しむ必要がないと言われているような気がした。私はから解放された。
もちろん今でも、思い出すと苦しいし、死んでしまえばよいと思ったことを後悔する。もっと何かできたのではないのか?と考えることもある。けれどそれは、さほど私を苦しめることはない。ただ、悲しいだけである。
 
どうしたら、そんな言葉がけができるようになるのだろうか?
あの時、どんな言葉がけをすればよかったのだろうか?
私はそれを知りたいと強く考えるようになり、心理学を学び始めた。学ぶことでまた苦しくなることもつらくなることも多くあったが、人に対してどのように接していけばよいのか、少しずつ理解を深めた。
私が欠けてもらった言葉にはまだまだたどり着くことはできないが、おばあちゃんに同声をかければよいのかは学ぶことができた。
「傾聴」という方法である。
傾聴ではオウム返しをしながらその人の信頼を得て、心の中にある辛い思いを吐き出してもらう方法である。こちらの意見は言わずただただ聞くだけであるが、相手は話すことで心の辛さを少し軽くすることができる。
オウム返しを使うと、「死んでしまえばよかった」という言葉に対して、「死にたかったんですね」と答えることになってしまう。これではなんの寄り添いにもならない。「死ぬほど辛かったんですね」と答えればよかったようだ。
 
寄り添うことは難しい。自分が体験してみて、そんな言葉は聞きたくないと思ったことが山ほどあった。まだまだ「運命」と言ってくれた人のようになるには、修行が足りない。
けれど少しずつ自分なりの寄り添い方を見つけることができてきたのではないか。
自分からは決して、聞きださない。相手が発する言葉を否定しない。そして、よく頑張っていることを口に出して認めてあげる。私を信じて話をしてくれる人たちに、少しでも寄り添えるように努力をしていこうと思う。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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