止まらない咳と戦う
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鈴木 千弥(ライティング・ゼミ4月コース)
「ゲホゲホッ! ゲホゲホッ! ウ、ウグググ、……ウエッ!……」
通勤電車の中で、私は咳が止まらなくなっていた。止めようとしてもどうにも止まらない。止めようとすると、咳が胸の底から盛り上がってきて吐き気と共に胃の中のものも出てしまいそうだ。
周りの人も体を私から背けて、私から離れようとしている。だが電車はまだ走っている。途中で降りられない。元々次の駅が降りる駅なので、そこまで耐えよう。湧き上がる咳を抑え込み、私はひたすら次の駅に着くまで耐えた。
8年ほど前、私は風邪をひくといつも鼻水が出始め、その後咳が止まらなくなるという現象に悩まされていた。咳が出始めると、自分の力では止められない。仕事にも支障をきたしていた。
もちろん何度も内科に通い、レントゲンも撮り、薬はそのたびにもらっていたが、何故か治らない。結局3か月ほど咳をし続けてやっと治まるという状態だった。医師も原因が分からないようだった。
原因が分からないとなると、あとはもうメンタル的に弱っているからなのだろうか……と考えるようになったある日、職場の先輩から声を掛けられた。
「ねえ、耳鼻科には行った? 黄色い鼻水が出ているなら、副鼻腔炎かもよ」
この時、私は初めて副鼻腔炎という単語を聞いた。昔は蓄膿症と言っていたらしい。確かに鼻をかむと、黄色い鼻水がものすごい量で出ていた。私はその日のうちに、職場近くの耳鼻咽喉科を受診した。
耳鼻咽喉科を受診すると、医師はいきなり細長い器具を私の鼻に差し込んで中を確認するや否や、ガガガと鼻水を吸い出し始めた。
激痛である。
いい歳をした大人の目と口から、涙と声にならない呻き声が出てくる。右の穴が済んだと思ったら、すぐさま左の穴に器具が突っ込まれ、再度の激痛。
やっと左の穴から器具が抜かれると、後ろに控えていた補助の職員からサッと畳んだティッシュペーパーが差し出される。
ありがたく受け取ったティッシュペーパーで涙をふく私に、医師は告げた。
「副鼻腔炎ですね。咳が止まらないのは、後鼻漏(こうびろう)の状態だからです。後鼻漏というのは、のどの奥に鼻水が流れ込んでくる症状です。流れ込んでくる鼻水がネバネバした状態の場合、喉の方に落ちてきた時に気管に触れると、咳が出ます」
止まらない咳の原因が判明した瞬間だった。
そして畳みかけるように医師から説明される。
「3日分の抗生物質を出しますが、飲んでも治らない場合は、それ以上薬を飲んでも効かないことが多いんですよね。病院に通ってもらって鼻の中をきれいに掃除して、薬を直接炎症が出ている部分に塗って治すしかないですね」
うわあ、この激痛の治療をしばらくやるのか……
医師の予言通り、抗生物質を飲み切っても鼻水と咳は止まらない。抗生物質以外の薬も毎日飲んでいるが、効いているようには思えない。仕方なく病院に足繁く通うことになった。激痛の治療に耐えた結果、2カ月ほどで完治することができた。苦しむ期間が1カ月短縮されたのだ。
ただこの激痛の鼻掃除をされるのは苦痛だったため、それからの私は、副鼻腔炎にならないために、きっかけとなる風邪をひかないように注意するようになった。しかしそんな私を嘲笑うかのように、ちょいちょい私は風邪をひき、必ず副鼻腔炎を併発するようになってしまった。連戦全敗である。
そうこうするうちに私は妊娠した。12月の出産予定日を控え、産前休暇に入った11月の半ば、私は喉と鼻の違和感に気づいた。
しまった、風邪をひいてしまった! しかも副鼻腔炎の兆候が出始めている! 出産しながら止まらない咳とは戦えない。私は家の近所の耳鼻咽喉科に駆け込んだ。
「副鼻腔炎になっていると思われるのですが」
医師は私の鼻を細い銀色の器具を使って、激痛を伴う掃除をしてからニッコリ笑いながら宣告する。
「おっしゃる通り、副鼻腔炎です」
「あの、来月出産予定なので、薬は使いたくないのですが!」
恒例の抗生物質と多くの種類の薬を妊娠中に飲みたくなかったのだ。必死な私に医師は代替え案を出してくれた。
「では、毎日うちに通ってもらって鼻を掃除しましょう。もう会社はお休みなんでしょ?」
あの痛い思いを毎日するのか……だが出産予定日は1カ月後に迫っている。仕方なく私は毎日病院に通うことにした。
そして何とか出産予定日前に完治させたい私は、ネットで調べた鼻うがいをすることにして、宿敵である副鼻腔炎に追い打ちをかけることにした。
鼻うがいでは、鼻の穴から洗浄液を流し込み、口から出す。そのため塩分濃度0.9%のぬるま湯を洗浄液として用意する。この塩分濃度とぬるま湯というのがポイントで、これは鼻に入ってもツーンとさせないためだ。だがこの鼻うがいは、臨月の妊婦には厳しい。
まず左の鼻の穴を指で押さえて塞ぎ、右の穴にコップをあてがい、洗浄液を注ぎ込んで口から出すのだが、床の上で行うと水浸しになるので、当然洗面台で行う。すると洗面台の縁と大きなお腹がバッティングしてしまい、お腹の大きさ分、洗面台が遠ざかる。この状態で口から洗浄液を吐き出すと、うまく洗面台の中に吐き出せないため、口の周りや服がもの凄く濡れるのだ。とてもじゃないが人には見せられない姿だ。そして派手なうがい音も発生する。
「ウグッ! ウェー!」
我ながらシュールな光景だが、出産予定日までに時間がないため、私は暇さえあれば鼻うがいを実施した。そしてなんと1週間ほどで、副鼻腔炎は完治し、無事に出産日を咳込むことなく迎えることができたのだった。
これで副鼻腔炎との戦いは終了したに見えたが、そう簡単には終わらなかった。職場復帰すると、しばしば風邪から副鼻腔炎に移行するようになったのだ。仕事をしていると、毎日耳鼻咽喉科へ通ったり、鼻うがいをするわけにもいかない。そのため以前と同じ薬で治す治療法に逆戻りし、治るまで2~3カ月程かかるようになってしまっていた。
ところがつい最近、新たな対策を思い付き、実行したところ副鼻腔炎のつらい症状を未然に防ぐことができることが分かった。
それは、風邪をひき、副鼻腔炎になる前に市販の鼻炎薬を飲むことである。副鼻腔炎のつらい症状である咳は、気管に粘度の高い鼻水が付着することで発生する。そのため粘度の高い鼻水を出ないようにしてしまえば良いのでは? と考え、鼻水を止める作用に特化した鼻炎薬を飲んだところ、1週間かからずに症状が改善したのだ! ただ鼻炎薬の副作用として、とんでもなく眠くなるので、できれば寝しなに鼻炎薬を投入する必要があることが分かった。
これまでを振り返り、今の時点では以下の順で副鼻腔炎への戦いを続けていこうと思う。
1, 風邪をひかないように温度、湿度、服装、食べ物などに気を使う
2, 鼻水が出始めたら要注意。鼻炎薬で鼻水を止める(副作用の眠気に注意)
3, 副鼻腔炎に移行してしまったら、できる限り耳鼻咽喉科へ行き、鼻の掃除をしてもらいつつ、家で鼻うがいをこまめに行う。
このように今回記載した副鼻腔炎への対処法は、私に限った効果なのかもしれないが、どこかで副鼻腔炎で苦しんでいる方の参考になれば幸いである。
***
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