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メディアグランプリ

8ヶ月遅れの誕生日プレゼント


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:島田 弘(ライティング・ゼミNEO)
 
 
「リベンジさせてください」
 
お礼を言ってお別れした2時間後、そんなメッセージが届いた。
 
あの日は、数日前までの台風の影響で、状況が激変しており、何人ものトッププロが成果をあげることができずにいた。
 
その日は息子の誕生日プレゼントにと準備したもの。
 
私の息子は魚が大好き。
 
「サンタさんに何をお願いするの?」と聞いたら「クロダイ」と。
 
あれは息子が3歳のとき。訪れた水族館のショップに展示されていた、
50センチのクロダイのフィギュアが欲しいと言うのだ。
 
驚いた。
 
その年、サンタさんからは無事、クロダイが届いた。
 
その息子と、これまでに川と海に4回、魚釣りに行ったことがある。全て「釣り場」という名前がついている、いわゆる釣り堀だ。
 
そして分かったのは、息子はエサをつけて、ジッとしている釣りは好きではないってこと。少なくとも今のところは。
 
なので、ジッとしていない釣りにチャレンジさせてあげようと思い、ルアーという疑似餌を使ったブラックバス釣りを6歳の誕生日プレゼントにしようと考えた。これならジッとしている時間はないから。
 
場所とガイドさんをインターネットで調べ、事前にいろいろとやり取りをさせていただいき、Nさんという超一流のプロにガイドをお願いすることに決めた。
 
Nさんには私の思いをすべて伝えた。
 
 
Nさんのブラックバス釣り専用ボートに乗り込んでから、息子の頭の中はブラックバスを釣ったときの想像でいっぱいになっていた。
 
 
1時間経過。
 
2時間経過。
 
全然釣れない。
 
すれ違うボートの人と話しても、誰も釣れていない。
 
3時間、4時間、5時間が経過してしまった。
 
とうとう時間切れ。
 
1匹も釣れなかった。
 
落胆する息子に、私も妻も、そしてNさんも、かける言葉が見つからない。
 
誕生日プレゼントのはずが……
 
その2時間後に私たちが受け取ったメッセージが、
Nさんからの「リベンジさせてください」だった。
 
「大物を釣るなら5月頃です」というNさんの言葉を信じて、
再会の約束をした。
 
 
 
5月某日。
 
朝4時に起きて、リベンジに向かった。前日まで雨の予報が出ていたのに快晴だ。風もなく、5月にしては暖かい。
 
待ち合わせ場所でNさんと合流し、大きなエンジン音とともに時速70キロで目指す場所へ。
 
前回とは違い、コンディションはとても良い。
 
しかし、1時間経過しても、1匹も釣れない。
なんとなく、前回同様の嫌なムードになりかけたときだった。
 
「竿を立てて!」というNさんの大きな声が。
 
息子は竿を立てようとしているのに、引きが強くて竿を立てられない。必死にリールを巻いている。ブラックバスと息子との力比べ。
 
ボートから引きずり降ろされるんじゃないかと心配になるくらいに引っ張られている。
 
格闘の末に釣り上げたのは、39センチのブラックバスだった。
 
大喜びすると思っていたが、息子の反応は違っていた。ブラックバスの引きの強さとその口の大きさに驚いてしまったのだ。
 
その直後に2匹目が釣れた。
 
調子に乗ってきている息子に、Nさんが言った。
 
「あそこに見えている50センチくらいのブラックバスを釣ろう」
 
10回、20回、30回とトライするも釣れない。
 
諦めるのかなぁと思っていたら、「ここからが私の強いところなんで」
と、諦める様子はない。
 
息子の後ろに回り、まさに手取り足取り丁寧に教えてくれていた。
何回チャレンジしたことだろう。
 
その間、ルアーを白っぽいものと黒っぽいものを何度も付け替えていた。
 
「湖面を空中から見ている人間にとっては、白っぽいほうが見やすいんですが、水中にいる魚からは、眩しさで白っぽいものは見にくいんです。
逆に、黒っぽいルアーだと、人間からは見にくいけれど、魚からはよく見えるんです」
 
なるほど。ブラックバスの気持ちになって考えるってことか。
 
そして、そのときはやってきた。
 
先ほどまでの2回とは、強さが全然違うのが、見ている私からでも分かる。
息子のライフジャケットのベルトを掴んでいないと、間違いなく船から落ちる。
 
竿を立てることも、リールを巻くこともできない強さ。
 
Nさんの力を借りて、釣り上げた3匹目は、なんと47センチの大物だった。
 
息子が作ったグーがブラックバスの口に入ってしまった。そのくらい大きい魚だった。
 
終わりの時間が迫ってきた。
 
Nさんが「もう1か所いいですか?」と、最後の場所へとボートを移動させた。
強い風が出てきていて、湖面が波立ち、水中の様子が全くわからない。
 
湖面を見つめていたNさんが動いた。
 
「あそこにブラックバスがいます、見えないけど。食欲を刺激してみます」
 
見えないけど、いるのが分かるってどういうことなんだ?
 
「あぁ、短い」
 
「右過ぎた」
 
と独り言を言いながら、ブラックバスがそこにいるのが分かっているかのような口調で、何度も何度もルアーを投げるNさん。
 
「あと5回で釣れるよ」
 
ルアーを投げるのはNさん、巻くのは息子という役割分担。
 
5回目を投げた直後、
「そこじゃないの?ズレてる?わかった、もう1回ね」
と、息子とではなく、ブラックバスと会話をしているみたいだ。
 
6投目のルアーが着水して
 
「くるよ、くるよっ!」
 
と息子に言った瞬間、竿が折れそうなくらいに曲がり、
大きなブラックバスが湖面をジャンプした。
 
 
39センチ、39センチ、47センチ、44センチ、合計4匹を釣り上げた。大会だったら優勝していてもおかしくないらしい。
息子は、「次は60センチを釣る!」と、Nさんもまだ釣ったことがないという大物を釣る目標を宣言し、Nさんとの再会を約束した。
 
家までの道中、買い物や食事で立ち寄ったお店の店員さんを捕まえて、
「僕、47センチのブラックバスを釣ったんだよ」と自慢気に話す息子。
 
この体験を作ってくれたのは、前日からの入念なリサーチと、これまでの数十年のバス釣りの経験、さらにはブラックバスと会話をする特殊能力をもつNさんのおかげ。超一流のプロは、スキルも準備も、他の力も一流なんだなぁ。
 
8ヶ月がかりのリベンジ「完」。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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