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心が砕け散るときに音なんかしない~HSPの私が見た自分の死亡フラグ


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記事:奥志のぶ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
3年前、体調を崩した私は自分がHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)「生まれつき感受性が強くて人一倍敏感な気質の人」であることを知った。昨今は読みやすいアドバイス本が店頭に並んでおり、私もそこから知識を得た。HSPは病気ではない。しかし自分のことを振り返ると、この気質が私を体調不良の谷へ突き落したのだろうと思う。また、それと同時に今まで感じていた生きづらさに納得がいった。10年以上も勤めても職場に居場所がないと感じていたことは真っ当なことだったのだ。私と同じように説明しがたい苦悩を抱えている人は多いはず。この記事がそんな人たちの目にとまってくれればと思う。
 
HSPの特徴のひとつに「不機嫌な人がいると気になって落ち着かない」というのがある。たとえ自分とは無関係でも自分のせいではないかと考え、気持ちが落ち込んでしまうのだ。不機嫌を隠そうともしない人が放つ悪意の矢を一身に浴びて息も絶え絶え。そんなの気にしなけりゃいいじゃん、と思う人も多いだろう。しかしそれができないのがHSPなのだ。私の職場には不機嫌な人がたくさんいる。そしてそういう人は頻繁に気分の波が上下しているが本人はわかっていない。それなのにこちらは話しかけるタイミングを細心の注意でうかがう。こんな些細なことで心をすり減らしていてはストレスも溜まる。どんなに辛くても仕事を辞めるわけにはいかないと思っていた私もいつしか限界を感じはじめていた。そんなある日、私は見てしまった。自分の死亡フラグが立っているのを。
 
休暇をとったとき、ギクシャクしていた職場から離れることができて私はホッとしていた。なにかと攻撃してくるあの人もしばらくすれば機嫌が直るに違いない。きっと何事もなかった顔をしているだろう。私も普段どおりでいよう。それで平和が保たれれば、それでいい。本当は、私の心にはまだ矢が刺さったままだった。抜く前に次から次へと新しい矢が刺さり、傷が癒える間がなかった。心が膿んでいるのを本当はわかっていた。
夏の暑い日だった。休暇が終わり、出勤した私はギョッとした。同じグループのメンバーのデスクにはおそろいの卓上ハンディファンが置いてあった。それは、私のデスクにはない。一瞬で悪意を理解した。あからさまな仲間外れ。グループ内でのちょっとしたプレゼントやお土産は必ず皆が同じになるようにするのが暗黙のルールだった。それは平和を保つための絶対ルールだったのに。誰もハンディファンについて触れない。私も訊かない。ただ心が痛い。傷が開いてとうとう膿があふれ出した。まさかハンディファンが死亡フラグになるなんてと思いながら、私は笑顔で席に着いた。
 
自分の中で、もうダメかもしれないという思いははっきりした。しかし、どんな人にもその人なりの気持ちがあるだろうと考えすぎてしまい、結局自分の気持ちにはフタをする。こういうところもHSPの特徴だ。私は事態を打開することよりも、破れた心をせっせと縫い合わせることに必死になっていた。
そんなとき、メンバーの子供さんが希望校の受験に合格するという吉報を聞いた。喜ぶその人の笑顔には屈託がなく、私も素直にお祝いしたいと思った。さっそくオーダーメイド専門店のケーキを注文。これなら家族そろって喜んでくれるだろう。これをきっかけに関係が良くなることも心ひそかに期待もしていた。あれこれ注文をつけてデザインを決めた。完成までの数日間、ケーキが全てを解決してくれるような祈るような思いで過ごし、ついにプレゼントを渡す日が来た。退社時間を過ぎて人がいなくなったころを見計らい、お祝いの言葉を添えて差し出す。相手はサプライズに驚き、とても喜んでいる……。と思ったのは私の妄想だった。全ては私の淡い期待に過ぎなかった。一通りのお礼の言葉はもらった。でも今日は持って帰れないからと、ケーキは会社の冷蔵庫にそそくさと仕舞われてしまった。賞味期限のことは言わなかった。言うと、持って帰らないことを責めるような気がしたからだ。こんなときにも相手のことを気にしすぎて言いたいことも言えない。勝手にプレゼントしたのは私だ。それはわかってる。だけど……。縫い合わせていた心がバラバラになっていくのを感じる。漫画みたいに派手な音なんかしない。ただ息が苦しいだけ。あぁ、あのハンディファンはやっぱり死亡フラグだったなぁ。必死に笑顔を取り繕いながら、このとき私は退職を決心した。
 
私の話は他人からすれば「些細なこと」だ。でも些細なことほど人を殺す。似たような思いをした人はいるはず。HSPの人ならなおさらだ。空気を読んで他人に気をつかって、倒れそうなくらい神経を張り詰めているのになぜか攻撃を受ける。心が血を流しているのに他人に気を使わせまいとそれすら隠して生きる。そんな人たちへ私からのアドバイスはただひとつ。いますぐそこから逃げるのだ。どの本を開いても同じことが書いてあると思う。逃げることは悪ではない。それを理解してくれる人もいるのだ。不安だらけの私でさえ新たな居場所を探すために動き出そうとしている。なんでもっと早く逃げなかったか悔やまれて仕方がない。自分をもっと有効に使うことができたのではないか。いや、前を向こう。あのときの辛さを思えばなんのその。勇気だって湧いてくるではないか。どうせ生きづらいなら場所を変えてみたっていいじゃない。耐える苦労を、道を拓く労力に替えて生きてみよう。私は逃げるよ、どこまでも。もう二度と、自分の死亡フラグに出会わぬように。
 
 
 
 
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2022-05-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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