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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:牧 奈穂 (ライティング・ゼミNEO)
 
 
私は、料理が苦手だ。
苦手というよりは、「好きではない」と言ったほうがいいかもしれない。
レシピを見て作ろうと思えば、きっとそこそこの味にはなると思う。3年間、料理教室にも通ったことがあり、ケーキもパンも焼いたことだってある。だが、習ったレシピを引き出しから出すことが、すでに億劫なのだ。
学生の頃、付き合っていた彼に、「何を作ってあげるの?」と友人から聞かれて、「湯豆腐」と答えたことがある。「それって料理って言えるの?」と吹き出されたりもした。
さらに、運動会のための家族5人分のお弁当作りは、一年に一度の苦行だった。
「唐揚げが食べたい! スーパーのではない唐揚げだからね!」
息子は、運動会の度に必ずリクエストした。朝4時に起き、唐揚げを作るだけ……主婦なら誰でも簡単にできるようなことが、私にはものすごく苦痛だ。私が出る運動会の参加種目は、「唐揚げ作り」と言えるくらいで、運動会の開会式には、すでに参加が終わり、疲れ果てていた。
 
そんな私が、息子の幼稚園選びの際に、「絶対にこの幼稚園だけはやめよう」と思った幼稚園がある。お弁当が週4日もあるからだ。4日なんて、冗談ではない……だが説明会に行くと、温かな環境に心が揺れる。「温かな教育」と「お弁当作り」を天秤にかけ、お弁当を作る決心をした。
小さなお弁当箱の中は、広い世界に思えた。毎日、何を作ればいいのだろう? カラフルなカップやかわいいピックを買い、トマトやミートボールに刺しては、見た目を華やかにしてごまかした。値段が高かったから、こっそり冷蔵庫にしまっていたが、ウルトラマンの形のノリは、苦しい時の正義の味方だった。
 
そんな「ごまかし弁当」を作る私が、少し自信があったメニューがある。「そぼろ弁当」だ。ご飯の上に、黄色い炒り卵と、味付けしたひき肉をのせると、彩りがよく簡単だ。少し脇にスペースを空けて、ブロッコリーやトマトを添えたら、出来上がりでいい。見た目がきれいで簡単なのは、最高だ。
年長になったある日の夜、息子が、突然、辛そうに、怒りながら泣いた。
「ママがせっかく作ってくれたお弁当を、ぐちゃぐちゃだねって言うなんて、ママがかわいそうだ……」
話を聞くと、私の一番の自信作だった「そぼろ弁当」は、スペースを作ったせいで、持って行く最中に、ぐちゃぐちゃに黄色と茶色がミックスされていたらしい。幼稚園の友人は、ありのままのお弁当を見て、「ぐちゃぐちゃ」と、素直に感想を述べたのだろう。
バスに乗りながら、息子の小さなお弁当箱は、バッグの中でどれだけ揺れていたのだろうか?
「いつからぐちゃぐちゃだったの?」と息子に聞くと、
「最初から……」と言う。
「息子よ、優しすぎるではないか。すぐに言ったらよかったのに……もうすぐ3年が過ぎようとしているではないか……」と心の中で叫びながら、3年間自信たっぷりに持たせていた私を後悔した瞬間だった。
 
料理が好きではない私は、スーパーのお惣菜や冷凍食品に頼りまくり、「塾弁当」も上達しないまま、時間だけが過ぎて行った。
そして、息子も中学生になり、部活の試合で、お弁当を持って行くようになった。
「お母さんの愛情たっぷりのお弁当ね!」と引率の先生に言われたらしい。
すると、息子はすかさず、
「はい〜 今日もレンジでチンするために、愛情たっぷりにレンジのボタンを押してくれました〜」と言って、先生達を笑わせたらしい。
「やだぁ。そんなこと言わないのよ……」
と言いながらも、息子のお弁当を見て、先生達も吹き出していたそうだ。
 
私の作ったお弁当を、ひどく言われて泣いていた息子は、どこへ行ったのやら? 「10年」という月日は、人を図太くさせる。
話を聞いて、恥ずかしさを通り越し、思わず私も一緒になって笑ってしまった。
 
ある日、できるだけ「チン」しないで作ろうとしたら、トマト、果物、冷凍食品など、ただ「入れるだけ」のお弁当になってしまった。これならば、チンしたほうがマシだったのではないか? と自分自身に呆れ果てた。
そして、お弁当の写真まで添えて、私の子育てブログにお弁当ネタを書いてみた。どうせ、私のブログなんて、たくさんの人が読むわけがない。だから、安心して、書きたい放題書いてスッキリしていると、「今日の注目トピック」のようなものに選ばれてしまい、1日で8000近いアクセスを獲得していた。「入れただけ弁当」は、多くの人の目に留まることとなってしまった。どうせなら、もっと真面目なネタで選んでくれればいいものを……そして、ご丁寧にタイトルをつけてくれていたのだが、「弁当をバカにされてた息子の成長」となっているではないか……
 
お弁当作りの技術に関して、私の成長はちっとも変わらない。だが、私を思って泣いてくれていた息子の笑いのセンスは、かなり成長しているようだ。喜ばしくもあり、複雑な気持ちでもある。
そんな息子のために、今日も私は「冷凍食品」という強い味方と共に、お弁当作りに励んでいる。
 
そして……今日も、キッチンでは、元気にレンジの音が鳴り響いている。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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