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不器用な親子の行く末

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記事:キヨタトモヨ(ライティング・ゼミNEO)
 
 
「女なんだから、女らしく」
「女はやさしく」
 
……このフレーズ、今まで何回聞いただろう。
女は〇〇(、男は〇〇)なんて、時代遅れもいいところだ。
 
私の父は昔から無口なほうだが、口を開いたかと思えば、ありきたりなことしか言ってくれなかった。
その上、というかそのせいか、私は反骨精神旺盛な娘だったので、物心がついた時からつい最近まで、父とはろくに話もしなかった。
 
私の父は、無口な上に、多分、不器用だ。
今思えば、娘との関わり方も、だいぶ手探りしながらも、何度も地雷を踏んできた。
 
その中でも一番大きな地雷は、今でも父娘関係に大きな痕跡を残している。

 

 

 

これは今から10年以上も前の話だ。
私が大学を卒業して就職したての頃、突然、父に横浜に行こうと誘われた。
 
「いいことがあるから、ついてこい」
 
2人で行動することなんて今までほとんどなかったのに、浅はかな私は、ただ、横浜に行けることだけを楽しみに、父についていってしまった。
父が私を誘った目的を口にしたのは確か、横浜へ向かう途中の電車の中でのことだ。
 
「お父さんの職場の若い男で、お前に紹介したい人がいるんだ」
 
……はぁ?
 
若い男を紹介?!
 
何言ってんの??!!
 
火がガソリンに触れた瞬間に一気に炎上するように、私の怒りも一気に爆発した。
 
それまで私は、父には一切、異性との交友関係を話したことがなかった。
そんな相手を家に連れてきたこともなかった。
(そもそも「そんな相手」なんていなかったが……)
恋愛とか、結婚の話は、触れてはいけない類のものだった。
 
私のことを全く把握もしないで、一方的にお見合いまがいのことをさせるなんて!
 
父親に裏切られた!!
 
私はそんな思いにさいなまれた。
横浜につくまで、電車の中では沈黙が流れた。

 

 

 

みなとみらい駅を降りて、待ち合わせの場とやらに向かった。
私はあえて父に並んで歩くことを避け、父より4、5歩ほど離れてついていった。
父は足取りの重い私の気持ちなんていざ知らず、職場の部下のもとへ足早に向かっていた。
 
「少しぐらい、こっちを振り向いてよ」
と、心の中で何度も叫んだが、父の姿は前へ前へとどんどん進んでいく一方だった。
 
父はいつだって、体裁ばかり気にしている。
きっと、娘が少しでも早く嫁入りすればいいと思ってるんだ。
娘の気持ちなんて、どうでもいいんだな。
 
そんな感情かむくむと心の中に込み上げた。
このもやもやした気持ちがこの後何年もの間、私の中に住み着くことになる。
 
「……こちらが娘の智代です。じゃ、俺は帰るから、2人で楽しんで」
 
……最悪な横浜滞在だ。
 
父に紹介されたその人とは半日ほどみなとみらい界隈を歩いた。
その日帰り際に連絡先を交換したものの、その後やりとりはほとんどせず、関係は自然に消滅したのは言うまでもない。
 
彼がどんな人だったか、また、横浜のどこを歩いたのかさえ、今は何も覚えていない。
しかしその日家に帰ってすぐ、父が開口一番、私にこう言いたのはよく覚えている。
 
「どうだ、彼はとてもいいやつだろう」
 
……!!(怒)
 
 
その時私は何を言ったか、実はもはや、全く覚えていない。
 
ただ、その日以降、父が私に対し、私の生き方に指図をすることが一切なくなった。
それを考えると、どうやら私も父に対して、相当きついことを言ってしまったようだ。

 

 

 

そして月日は流れ、あれからもう十数年が経った。
 
おそらく昔父が言っていた「女は女らしく」の究極の形、結婚や出産を、私はいまだ経験していない。
それに対し私自身は(今のところは)後悔していないし、別の「幸せ」があると思っている。
それでも時々、父……だけでなく母もが望んでいる「幸せ」を思うと、きゅっと胸が締め付けられそうになる。
 
父はおそらく、とても不器用だ。
あまり人の、特に異性の心を汲み取るのが上手ではないし、口数も少ないから、他人から、そして娘からもなかなか理解されない。
それをカバーするためかどうかは知らないが、自己主張はしないし、世間体に反することは絶対にしない。
 
そして私自身も、父の不器用な面を多く受け継いでしまった。
だからそんな父を、そしてそんな自分自身のことを、長らく毛嫌いしてきた。
 
だが、最近はどうも、父のことを「嫌い」一辺倒でいられないことがある。
というのも、父の「老い」を感じずにはいられない場面に、この頃多く遭遇してしまうのだ。
 
あんなに運転上手だったはずのに、車を擦ってしまったり。
手が痺れているのか、メモした文字が揺れていたり。

 

 

 

時間の流れとともに、人間関係は変わっていくし、人の考え方、感じ方も変わっていくのだろう。
 
父が願う「幸せ」を実現できていない娘は娘なりに、自分が思う「幸せ」を追求し、それを手に入れることで、父には安心してもらいたいと思っているのだが……
 
父が私の思いを理解してくれているかどうかは、よく分からない。
おそらく、結婚しないことを選んでいる私のことを、勝手に「不幸な女」だと思っているかもしれない。
 
そうだとしたら、今はただ、老いてゆく父親の限られた人生のなかで、より多くの時間を楽しく、穏やかに過ごしてもらえたと娘は願うのだが……そう考えるには、もう少し時間がかかりそうだ。
 
お父さん、父の日は過ぎてしまったけれど、いつも気にかけてくれて、ありがとう。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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