われらがスーパーマンの生き方に学ぶ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:宮越 浩子(ライティング・ゼミ6月コース)
「昨日、おじいちゃんが救急車で運ばれたのよ」
そう母から連絡を受けた時、「あんなに元気だったじいちゃんが?」と驚きを隠せなかった。
幸い搬送後に症状は落ち着いたようだが、心臓周辺の血管に問題があり、このままだと余命数か月かもしれないとのことだった。
大学進学と同時に家を出た私は、それからというもの祖父と会うのは年に数回だけだったが、私にとって祖父は小さい頃からずっと変わらずスーパーマンのような存在だった。
定年退職を迎えるまで教員として働く傍ら、休みの日には祖母と二人で田畑に出て農業もこなす。無類のメカ好きで、新しい機械や工具を仕入れては、車庫の改築、外壁の塗装など、愛するメカを手に何でもやってしまう。テレビのリモコンの電池が切れれば、種類豊富な電池のストックからすぐに新しい電池を入れてくれる。
そんなふうに、家の中で何か困ったことが起きた際には、「じいちゃーん!」と呼べば大小関係なくすべてが解決してしまう。何をするにもいつも楽しそうで家族の願いを次々に叶えてくれるその姿は、何でもできる人という意味合いでまさにスーパーマンそのものだった。
そんな祖父は、90歳近くになっても足腰がしっかりしていて、身の回りのことはすべて自分で行っていた。
「一般的に90歳近い方が手術をする場合、筋力が衰えて寝たきりになる可能性が高くなる。だが、本人の体力や健康面の現状を考えると、寝たきりになる可能性は低く、手術をする価値があると思う」
医師からの話に、「もう寿命が来たとしても悔いはない」と最初は考えていた祖父も、心臓の手術を受けることを決断したとのことだった。
「手術のために今日、あなたが住んでいるT市のK病院に搬送されたのよ」
母からそう聞いて、私はすぐに病院に向かった。祖父は今、どのような病状なのだろう……。道中、心配な気持ちを抑えきれなかった。
集中治療室に入ると、ベッドに横たわっていた祖父が私の顔を見るなり明るい表情になった。
「初めてドクターヘリに乗せてもらったんだよ」
目を輝かせて話す姿に、少し拍子抜けした。そして、無類のメカ好きである祖父に元気を与えてくれたドクターヘリ搭乗の機会に感謝した。
手術は10時間以上に及ぶ大きなものだった。無事に終わったが、数日間は目が覚めないかもしれないこと、術後しばらくは食事を自分で摂ることは難しいことについての説明があった。
その後の祖父の回復ぶりは、想像を遥かに上回るものだった。
術後初のお見舞いに行った時のこと。病室に入ると、そこには私に向かって笑顔で手をあげる祖父の姿があった。目が覚めているだけじゃなく、家族を認識している。また、こちらの呼びかけが聞こえて、それに対する反応もしっかりできている。さらには、食事摂取も順調で、今日は食後のデザートのリンゴも自分でかじって食べたらしい。
「さすが、じいちゃんやね。すごい!」
家族で祖父のことを話題にする際には、このセリフが繰り返し出てきた。
毎回お見舞いに行く度に驚異の回復ぶりを見ることができ、祖父はやっぱりスーパーマンなのだと感じる日々だった。自分が今やれることを見出し、一歩一歩着実に積み重ねていく祖父だからこそ、できることがどんどん増えていった。
祖父と一緒に暮らす家を離れて20年近くになる私は、病院に毎日お見舞いに行くようになって、祖父に対する新たな発見があった。
祖父は、今置かれている状況に対する不平不満を全くと言っていいほど口にしない。同じ状況に置かれたとき、私だったら病気に対する辛い気持ちが心を覆い、現状を嘆いたり未来を悲観したりして愚痴をこぼすだろう。でも、祖父の意識はそういった部分ではなく、常にありたい未来の姿にフォーカスしているように私には思えた。
「なるようにしかならないものだよ」
病床でそう話す祖父は、どうなるかわからないことをあれこれ心配するよりも、未来を見据え、現状の中で自分にやれることを見出し、淡々と取り組んでいく。その一貫した姿勢に、祖父の偉大さを感じずにはいられなかった。これがスーパーマンたる所以なのだろう。
自分がもつ未来の可能性を閉ざすものがあるとしたら、”未来を信じることができない自分自身の存在”なのかもしれない。私も祖父のように、未来のありたい自分像を描きながら力強く人生を歩んでいきたいと心から思った。
術後の経過がよく、みるみるうちに回復して退院した祖父だったが、1か月後に再び体調が悪くなった。そして、再入院した病院で、ここ3日間が峠だろうと医師から告げられた。
これまで、傍で驚異の回復ぶりを見てきた私は、そう言われても全然ピンと来なかった。
「じいちゃんは大丈夫。きっと乗り越えられる」
そう信じて疑わない気持ちがあった。なぜなら、祖父はどんな状況にあっても常に自分が今やれることを見出し、現状を克服してきたから。医者が何と言おうとも、家族の期待を遥かに上回る姿を見せてくれていたから。
だが、3日後に祖父は本当に旅立ってしまった。
「なるようにしかならないものだよ」
そうは言っても、きっと祖父は見せなかっただけで、闘病中に不安を感じた瞬間が幾度となくあっただろう。だけど、自分の未来の可能性を信じ懸命に生きようとする姿は、私たち家族に勇気と希望、力を与えてくれた。われらがスーパーマンの姿は、旅立ってしまった今もなお、私たち家族の中に輝き続けている。
ここ最近、私自身の体調に気にかかる点があり、先日ある病との診断を受けた。本音を言うと、これから先、この病とずっと付き合っていかねばならない不安で気が重たくなることもある。
でも、どんなに案じても、自分にはコントロール不能な「なるようにしかならない」ことがある。その一方で、どんな状況にあっても、必ず今の自分にできることがある。
どの部分に意識をフォーカスするかによって見える現実が変わるのだとしたら、私も祖父のように、未来の可能性に光を当てて歩みを進めていける自分でありたいと思う。
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