週刊READING LIFE vol.176

離婚は不幸な出来事なのか《週刊READING LIFE Vol.176 人間万事塞翁が馬》


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/07/04/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「じゃあ、ここにサインしてくれるかな」
 
当時、夫が経営する会社の事務所があった、ビルの1階は喫茶店だった。
10年前の確か1月頃だったと記憶しているが、そこに夫を呼び出した。
私がおもむろに差し出した、緑のインクで印刷されているその用紙のタイトルは、離婚届。
そんなやりとりをしている、私たちのテーブルの横を通った店員さんが、その用紙を二度見したような気がした。
周りのことにはかまわず、私は自分の要求を淡々と夫に告げた。
喫茶店、人目がある場所で離婚の話を切り出すことは、私が計画していたことの一つだった。
人目があると、人は冷静になれるはず、と思ったから。
それでも、その行動自体は、夫にとっては青天の霹靂だったかもしれないが、私たちにとっては当然とも言える結果だったと思う。
 
私たち夫婦には、娘が一人いる。
結婚し、その娘が生まれた後から、夫婦の関係は崩れていった。
そして、決定的な問題が明るみになったのは、娘が幼稚園に通っていた時だった。
その大きな原因を作ったのは、夫だった。
だが、私はすぐに離婚することを選ばなかった。
子どもが幼かったことと、経済的な面からだった。
だから、そのまま生活を変わりなく続けることにはしたが、それでも、夫婦の信頼関係の根幹にかかわるところに亀裂が入ってしまっていたので、どんなことをしても、時間を費やしても修復できることはなかった。
ただ、子どものためにという思いだけで、イヤなことがあっても見て見ぬフリをして、淡々と生活を続けていた。
 
夫とは、同じ会社で出会い、6期後輩だった。
社内恋愛の末、結婚をしたのだがその当時は当たり前だが愛情に満ち溢れていた。
けれども、子どもが生まれた頃には、愛は抜け落ちて、情だけが残っていたように思う。
その、わずかな情だけを頼りに、日々を送っていた。
それでも、心のどこかでは、もう夫のことには諦めの気持ちしかなく、いつも別れることを考え続けていたのだ。
それでも、いつも考えは堂々巡りをして終わるのだ。
子どもから父親を奪うのか。
実家の母がショックで体調を崩したらどうしよう。
親せきの笑い物にならないだろうか。
経済面はどうするんだ。
そんなネガティブな思いと不安しか浮かんで来ないので、いつまでたっても答えを出すことが出来なかった。
やがて、気がつくと干支が一回りするだけの時間が過ぎていた。
そうして、ようやく私は離婚を決意したのだ。
 
その決断が出来た背景には、断捨離との出会いがあった。
断捨離は、モノの片づけを通して自分に向き合う行動だ。
そのモノが要るのか要らないのか、自分に問いかけ、そして選択決断してゆくという行動を繰り返す。
そうすることで、本当の自分自身の思いに気づき、そこから住まいや人生を入れ替えてゆくというとてもダイナミックなメソッドだ。
その断捨離の実践による、選択決断のトレーニングでついた力が、生活や人生で起こる様々な問題を解決する力となっていったのだ。
私の場合、離婚という人生での大きな問題に向き合い、やっと自分の思いに寄り添うことが出来たのだ。
 
そして、ようやく離婚が成立したとき、断捨離を伝えるトレーナーという者を育成する制度が出来ると知り、私は躊躇せずにその世界に飛びこんだ。
断捨離トレーナーとは、まさに、これから出来る仕事なので、その内容や意味合いも訳も分からないものだったので、気持ちは大海原に一人飛びこむような心境だった。
その大きなきっかけとなったのが、ある断捨離のセミナーの受講だった。
 
ある時、書店で偶然出会った『新片づけ術断捨離』という本。
そのタイトルの力強い活字に魅かれて手に取り、パラパラとページをめくってゆくと、そこに書かれていた文章、載せられていた写真を見て、衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えている。
こんなことを書いている、著者に逢いたいとすぐに思ったのだ。
当時、なんとなく使い始めていたパソコンで検索をしたところ、直近では東京でセミナーというものがあると知り、すぐに申し込んだのだ。
一泊二日で東京行きを決め、ホテルを予約して、荷物も往復宅急便で送った。
飛行機も予約完了し、出発する日の朝のタクシーの手配もして、あとは行くだけだった。
 
ところが、その出発の日、明け方に夫が急に苦しみだし、救急車で病院へ搬送された。
本当に突然で、ずっと元気だったのに、一体なんでそんなことが今日起こるのか、訳がわからなかった。
病院の階段の踊り場で、昇る朝日を見つめながら、私はタクシーの手配をキャンセルした。
その時の思いは、ただただ、なんでこの夫には、こうまでも私はイヤな思いをさせられるんだろうと被害者意識だけだった。
腹が立つし、悔しいし、そして、ただ悲しかった。
いずれにしても、楽しみにしていたセミナーに行けないことが本当に残念だった。
 
夫の体調は日ごとに良くなり、やがては普段の生活に戻ることができ、何事もなかったかのような日常が戻って来た。
それでも私はセミナーに未練があり、ずっとサイトで次のセミナーの開催を待ちわびていたのだ。
すると、夏に大阪で同じセミナーが開催されることが決まったのだ。
これはもしかしたら、東京でなく大阪のセミナーがあるから待て、と、何かわからないけれど大きな力が働いて、そのような流れに乗せてくれたのかもしれない。
 
というのも、その大阪のセミナー後の懇親会で、私に声をかけてくれたファシリテーターの方がいたのだ。
その方に少しばかりだけれど、その当時抱えていた夫婦の問題を話したのだが、その後も私のことを気にかけるようになってくれたのだ。
 
そして、離婚を決めた私は、セミナーの懇親会で話を聞いてもらった、そのファシリテーターの方に結果報告がてらメッセージを送った。
おかげさまで離婚することになり、今後は自分で仕事を見つけて生きてゆきます、と。
すると、断捨離トレーナーという制度が出来て、その講習生を募集していると言うのだ。
その初めて募集される、断捨離トレーナーの講習に私を推薦しておいたと言われた。
 
「なんだかわからないけれど、あなたは向いていると思ったから」
 
そんなことを言ってくれたのは驚きもしたが、とても嬉しかった。
 
今年は、離婚してから10年目を迎えた。
縁あって夫婦となり、娘を授かった私は、出来ることならばずっと家族のままでいたかった。
ところが、夫が起こした問題によって、その人生計画は脆くも崩れ落ちていったのだ。
私は被害者意識満載で、こんなに不幸な女はいないと嘆いていた時間も長くあった。
ところが、断捨離に出会い、まさに住まいと人生を自分の手で変えてゆくことができたのだ
大きな人生の問題にも向き合い、行動することが出来た。
そして、イヤなことから逃げるためではなく、幸せになるために離婚を選んだ。
 
それでも、離婚をしたからこそ、断捨離トレーナーという仕事に就くことになった。
私にとっては、離婚は不幸な出来事ではなかったのだ。
さらには、夫が体調を崩さず、あの東京でのセミナーに参加出来ていたら、今、こうして断捨離トレーナーにもなっていなかったかもしれない。
あの日、夫が普段通りの体調で、私が東京のセミナーに参加していたら、著者に直接会って、良いお話を聴くことが出来たという体験だけで終わっていたかもしれない。
夫を恨んでも恨みきれないほど、あの東京のセミナーをキャンセルした日は悔しかったけれど、結果、そのことがあったからこそ、今があるとも言える。
 
今、目の前で起こった事に対して、いちいち感想を持って、良かった、悪かった、幸せだ、不幸だと小躍りすることが多いのが現実だ。
でも、長い目でみれば、その未来を見てみると、一喜一憂することもないのかもしれない。
 
ある日突然、何が起こるかなんて誰にもわからない。
でも、その出来事は、人生の底のように思えたり、人生最大のピンチだと感じたりしても落ち込むことなく、淡々と向き合ってゆくことで、未来は自分の手で必ず切り拓いてゆけると思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2022-06-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.176

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