メディアグランプリ

毎日が8月31日


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村田あゆみ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
間に合うのか??
 
ようやく覚悟を決めてWordを立ち上げたものの、スマホの時計は既に22:33を表示している。ライティング・ゼミ課題締め切りまで1時間半を切っているのだ。
ネタがないわけではないのだけれど、2000字に膨らませるほどの厚みがない。前回提出から1週間、どうにもうまい展開が思いつかないまま過ぎ去ってしまったのだ。
「今回はもう諦めよう」
提出日の今日、何度となくそう呟いてPCに背を向けた。けれど、さっきお風呂上りにふと思い出したFBグループにスタッフの方があげてくれた言葉が背中を押してくれた。
「これから残り1か月ちょっとが正念場です」
 
どうしていつもこうなってしまうのだろう。
学校から届く提出書類は遅刻常習。担任の先生には毎度お手数をおかけしている。反省はするのだけれど、〆切がどうも苦手なのだ。何を隠そう、実は長らく高校教員をしていたのに、である。お恥ずかしいこと限りない。その教員時代にも、やらかしている。定期テストの問題作成が終わらなくて〆切の日の朝まで問題を作って、空き時間に必死で数百人分の試験を印刷するなんてことも日常茶飯事だった。
思い返せば、中高生のころの夏休みの宿題はお盆を過ぎたころから始めるのが当たり前だった。類は友を呼ぶ。毎年、宿題が終わらない仲間が集っては分担を決めて、お互いに写しっこするという体たらく。8月31日に滑り込みセーフ……ならまだいい、「最初の授業で」なんていう科目は当たり前のように先延ばしして、授業の日の朝ようやく終わらせるありさまだった。
 
つまるところ、積年の悪しき習慣というやつにほかならぬ。
6年前に起業して今はひとり稼業の日々だから、「時間の自由がきくんです」なんて飄々といた風を装っているけれど、裏を返せばどってことはない、毎日が8月31日のエンドレスリピーター。いつも何かの〆切に追われて、なんだか切羽詰まっている。
過去も現在も、私の人生は8月31日のまま過ぎていくのだろうか。
 
分かっている。
時間に余裕をもって取り組めば、もっとクオリティを上げたものが作れるかもしれないということも、早く終わらせることで他のサービスまで手を回して充実のケアが提供できることも。
分かっているのだ。
けれど、一方で私は知ってしまっているのだ。〆切日には神さまがやって来るということを。
ずっと心の片すみに課題が引っかかっている状態というのは、裏を返せばずっとそのことを意識し続けているということでもある。そのようにして心にずっと抱いている課題に、最後の最後の土壇場で神さまは微笑んでくれるのだ。自分の意識の外側から降りてくるすばらしきアイディア。通常の数倍の速度で進む仕事。夜が更けるほどに冴えわたる意識の中に、神さまのギフトは降臨する。この麻薬のようなアドレナリンという神さまは、予定を立ててきっちり進めているとなぜか現れない。高揚感の中にだけ出現するレアキャラなのだ。
 
人間を分ける方法はいくつもあるだろうけれど、その一つに課題に取り組む姿勢もあるのだと密かに思っている。一つは、計画を立ててきっちり進めていく堅実・石橋叩いて渡るタイプ。もう一つは、言わずもがな、ラストスパートに全てを賭けるギャンブラータイプだ。
社会的に安心して仕事を任されるのは前者であろう。そして、多くの親は前者のような大人になるようにと子育てをしているはずだ。だって、どう考えたって、後者はハイリスクローターンだもの。かつては私も、前者を育てるべく子育てをしていた。自分は100%ギャンブラータイプのくせに。
けれど、不惑の40代に突入した時にふと悟ったのだ。人生の大半を8月31日状態で生きてきて、案外いいもの作ってきたんじゃないかなって。なんだかんだヒラメキを得られるのは、私にとっては追い込みモードに入ったときだったんじゃないかなって。だったら、どっちでもいいんだなって、ようやく惑わなくなったアラフォー時代。
おもしろいことに、我が息子たちは見事に二手に分かれてくれた。ギャンブラー長男と堅実次男。学校から帰って来るとそのままリビングのテーブルに向って宿題を始めるのが次男。長男はどんなに大変な宿題でも翌朝の切羽詰まった中でヒーヒー言いながら鉛筆を走らせている。それでいて、今のところは結構何とかなっているらしい。
それでいいのだ。バカボンのパパではないけれど、これがこの子たちの個性なんだ。計画性のない母は堅実タイプに憧れて、それを子どもに押し付けようとしていたけれど、自分に合ったやり方というものが誰にでもある。私がどんなに変えようとしても変えられなかったように、その人に合ったやり方が一番良いパフォーマンスを繰り出すことができるのだ。
 
毎日が8月31日。
けっこうハラハラするけれど、ふっとアイディアが湧いてきた時の快感はたまらない。
デジタル時計はP.M.11:11を表示している。文字カウントは「2003」。
どうやら今日も無事に滑り込めそうだ。
背中を押してくれた平野さん、ありがとうございます。
私はこれからも毎日が8月31日で生きていきます。
 
 
 
 
***

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2022-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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