週刊READING LIFE vol.178

ナポレオンから教わった読書法《週刊READING LIFE Vol.178 偉人に学ぶ人生論》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/07/25/公開
記事:早藤武(READING LIFE倶楽部ライターズ倶楽部)
 
 
この物語に登場する人物、場所はフィクションです。
 
「うーん、もう本がこれ以上は棚に入らないぞ。処分するのはもったいないし、どうしよう……」
 
私は仕事でまとまった整理整頓をする時間を取ることができず、近いうちにやらないとなと思って手をつけた時にハードルに当たってしまった。
社会人になってもう5年も経つのでしっかりと身の周りのこともできるようになっていなければいけないのに恥ずかしい限りだ。
今ある本棚には漫画から小説、ビジネス書までぎっしり詰まってしまっている。
どの本も苦楽を共にしてきた本たちなので、手放すのは非常に惜しい。
ある時は仕事で大失敗して落ち込んでいる気持ちを勇気づけてくれた本、また違う時には失恋した気持ちを優しく癒してくれた小説まで様々だった。
 
棚に入らないならば、本を処分すれば良いじゃないかというもっともなご意見は部屋に時々遊びにくる同僚から言われることがあった。
しかし、気に入ってお金を出して買った本をまた読み返したくなる気持ちがまた出てくる可能性が出てきてしまった時のことを考えるとどうしても処分することができなくなってしまった。
 
そんな時に、片付けが得意な学生時代からの友人であるテッペイが遊びに来ると言うことで場所とご飯を提供するついでにアドバイスをもらうことにした。
 
きちんと掃除をしていないとテッペイにはできるようになるまで掃除を指導されるので、水まわりや床はきれいに掃除できるようになっていた。
 
「掃除はやる気が出た時にするのではなく、汚れる前にするのが一番良いタイミングなんだよ。だからこそ、何かをした後は汚れてなくても洗ったり磨いたりしておくまでが作業の流れにすれば後から辛くないよ」
 
テッペイが言うには、例えば料理をしたときは調理するまでに出た食材のクズや調理器具は食べる前に洗ってしまう。さらに食べ終わった時にはすぐに食器も洗浄して片付けておくまでが食事の流れなのだという。
お風呂に入るのも、お湯を抜いてからバスタブを洗って水気を拭うまでが入浴なのだそうだ。
そのおかげでお風呂場や洗い場がカビなどの汚れがつくことはないそうなのだ。
一度しつこい汚れがついて放ったままにしてしまったら、汚れを取るのがとても大変になった経験を何度もしているから、使ったらすぐに最初の状態に戻すことを心がけているのだそうだ。
 
そんなテッペイの本棚はいつもきれいにしていて、どこかに山のように本が横に重ねて積まれているのを僕は見たことがなかった。
同年代の男友達の部屋に遊びにいくとベッドの近くやリビングの床に漫画や雑誌が積まれているのを目にするのが普通なので、テッペイからアドバイスを貰えばきっと突破口が開けるのではないかと僕は期待していた。
 
ピンポーンと呼び鈴が鳴ってテッペイが遊びに来てくれた合図を聞いて玄関に出迎えに行って、家の中に招き入れた。
 
「お邪魔します。おお、久しぶりに家の中に遊びに来させてもらったけれど、忙しい中でもきちんと掃除は続けられてるね。しばらく前の大掃除の時は本当に大変だったから、その時のことを振り返れば進歩したじゃないか!」
 
家に入って早々、テッペイから褒めてもらったので僕も嬉しい気持ちになった。
「テッペイのアドバイスのおかげで毎日の掃除が面倒にならなくなったよ。やっぱり掃除をサボったりすると次の掃除までにすごく大変になることがわかったから、もうこりごりしてすぐに掃除するようにしているよ」
 
うんうんと部屋を見回しながら、テッペイは掃除が行き届いている状態を満足気に見回している。
そして僕はテッペイに本題の相談を持ちかけることにした。
「遊びに来てもらって早速なのだけれど、テッペイにひとつ力になって欲しいことがあってね。実は本棚に本が入りきらない状態になってしまって、テッペイの部屋みたいに片付いている状態にしたいと思ってるんだ。でも、いつか読みたい気持ちが出るかもって思ったら処分できなくて、なんとかならないかな?」
 
僕からのアドバイス要請を受けて、テッペイは部屋の中にある本棚をしばらく見ていた。
学生時代から泣く泣く処分しながらも少しずつ数を増やしていき、棚も大きなものに買い替えて整理して壁一面が本で埋まっている。
棚の中にある本を端から見ていき、どんな本があるのかをひと通り見終わってから僕の方に振り返ってテッペイはこれならなんとかなりそうだと返事をした。
 
「まだ夜ご飯までは時間があるから、それまでになんとかできるように手伝うから君がやる気が出ているうちに片付けてしまおうか!」
 
心強いテッペイの言葉に僕は腕まくりをして、どうすれば良いのかアドバイスの続きを促した。
まずは本を片付ける心構えで、ある偉人のお話をするねとテッペイは話を始めた。
 
フランスの革命家にナポレオンっているよね?
ナポレオンはすごい読書家でたくさんの本を読んでいて、彼はその立場もあってとても多忙な人だったのだけれど、読書の時間を行軍中の馬車の中でも確保していたんだって。
でも本って積み込める量に限りがあるよね?
本を次々と読んで情報を頭の中に入れていきたいナポレオンがとった行動はどんなものだったか想像がつくかい?
僕はテッペイから質問を投げかけられて答えの想像が出ないので続きを促した。
なんとナポレオンは馬車の中で本を読んで、読み終わった本は馬車から投げ捨てていたそうだ。
だから、彼の馬車が通った後には本が点々と残されていった伝説が残っているんだって。
 
「ええ!? そんなもったいないことをしていたのか! いったいどうして?」
 
今の君が聞いたらとてもマネできないと思う行動だよね。
でもナポレオンの立場になって考えてみて、行軍中の時間を利用して本を読んでそのまま移動してたら馬車の馬は疲弊してしまったり、馬車の中が本だらけになってしまって、ナポレオンはその狭い馬車の中でずっと過ごさないといけなくなるよね?
テッペイの話を聞きながら、馬車に揺られながら本を広げるナポレオンの姿を思い浮かべる。
確かに、読み終わった本を何らかの方法で手放していかなければ本に埋まってしまうことが想像できた。
 
ナポレオンは当時の戦乱を生き残っていくために本からたくさんの情報を次々と取り込んでいって、周りの多くの人を導いてきたのだろう。
戦乱の世の中を生き残るくらいに思い切った行動をするとわかりやすく考えられるけれども、大きく歴史を動かしたり、その人の人生を豊かに変えてくれる本に出会うためには、今まで読んできた本は思い切って処分することが絶対に必要になってくるんだ。
 
感動を与えてくれた本を大切にするのは確かにとても重要だよね。
でも、モノの価値って大切に保管されているだけではなくてきちんと使われてこそ発揮できるものじゃないかな?
本であれば、誰かに読んでもらって学びや感動がある時間ができることだよね?
そしたら、この本棚の話になるけれども、この棚の中で半年以内に読んでいない本は棚からいったん出して欲しい。
それは今の君にはしばらくは必要ない本たちだから思い切って手放してみて欲しい。
もし単に捨てるのが心苦しかったら誰かにあげたり、古本として譲ってあげて本を誰かに読んでもらうチャンスをあげて欲しいな。
 
テッペイのアドバイス通りに本棚の端から、最近手に取っていない本たちを次々と本棚から出していった。
不思議なことに1冊取り出すと他の本も取り出してしまおうと思えるようになって、まずは本棚から出してみることにした。
 
取り出した本の中には学生時代から社会人になって、何度も広げた思い出の本もあった。思わず本を広げてみるとマーカーで線が引いてあるところがたくさんあって思い出深かった。
僕が本を広げてマーカーを引いたページを見ていることに気がついたテッペイは微笑みながらアドバイスを加えてくれた。
 
「どうしても処分できない本はいったん端に避けても良いけれども、1個だけ約束事があるんだ。例えば、3ヶ月後までその残した本を開いて読まなかったら必ず処分するって。付箋とかに期限を書いて本に貼っておこう。そうすれば期限を決めて手放すと決めたことも忘れずに済むからね」
 
テッペイに言われた通りに付箋に期限を書いて、取り出した本たちとは別のところに一度避けておく。
 
本当に大切な本の内容は今だとスマホで写真に撮っておいたり、ノートに抜き出したり、切り離したりしてファイルに保管する方法もあるから近いうちにやり方を教えてあげるよと優しく言われて僕は本の仕分けを続けた。
 
本棚の整理を開始して2時間が経って、最初は手放せない本でぎっしり埋まっていた本棚は3割程度埋まった状態で、あとは全て本棚から出ている状態だった。
手放すことを期限つきにした本たちもあるけれども、処分できる本はないと思っていた最初に比べたら驚くべき結果になった。
 
「想像していた以上に、最近手にとって読んであげている本って少ないことがこれで目に見える形になったでしょう? 仕分けした本をどうするかは夜ご飯の後に全部行き先を決めてしまおうか。やり切るまでが整理整頓だからね。後回しにするとここで止まってしまうからもう少しだけ頑張ろうか」
 
夜ご飯を終えてから、さらに1時間をかけてテッペイのアドバイス通りに棚から出した本を思い切って手放すことにした。
大切に思ってきた本を誰かに譲ったり、ボロボロになっているものは処分したりした。
勇気を持って本を手放したのだから、これからもっとすごい本に出会うぞという気持ちが湧き上がってきた。
本を処分するためにヒモで縛ってまとめたりしている時には、当時のナポレオンが本を処分する時には今みたいな気持ちなのかなと思いを馳せた。
ナポレオンは革命家として今までの流れを大きく変えるほどのことを成し遂げるならば、どんなことも思い切ったことをしなければならなかったのだろう。
思い切って感動を与えてくれた本を手放した先に、どんなに素晴らしいと思える本と出会えたのだろうか。
その答えはきっと僕の本棚がまた本で埋まっていく時にわかるかもしれない。
ナポレオンに時代を超えて教わった思い切った手放しの読書法は新たな本の出会いにつながることを僕に予感させた。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
早藤武(READING LIFE倶楽部ライターズ倶楽部)

1984年生まれ東京都出身、城西大学薬学部卒業。
北海道函館市在住の薬局薬剤師。
SDGsアウトサイドイン公認ファシリテーター。
カッコ可愛いを追究する紳士くじらを名乗り「紳士くじらのブログ」を運営。

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2022-07-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.178

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