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大人は本当の優しさを忘れる

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:淵江沙帆(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
何も言わずにただ円満に済ませるか。
多少気まずい思いをしながらも相手のことを思って正直に事を伝えるか。
迷うことがある。
 
 
 
「今までありがとう!」
 
マレーシアでできた友人たちと最後のランチ。お別れ会を開いてくれた。
夫の勤務先の辞令によって日本へ本帰国。マレーシアを離れることになったのだ。
 
働きたくて仕方がなかった。仕事終わりには勝手知ったる居酒屋で気持ちよくビールが飲みたかった。休日には日本の柔らかい空気を吸いながらお散歩して、可愛い雑貨屋さんを巡って、そんな日々を過ごしたくてたまらなかった。
 
だから日本への本帰国は楽しみで仕方がなかった。
 
ただ一方、マレーシアでできた友人たちとはしばらくお別れになる。それが悲しい。「最後にマレーシアで会いたい」と声をかけたところ、みんな集まってくれた。
 
「今まで仲良くしてくれてありがとう、日本に帰国した時は声をかけてね」そう言って餞別の品を友人たちに渡した。するとなんて言うことだろうか。「いってらっしゃい」と書かれたデザートプレートを用意してくれており、友人たちそれぞれが様々なプレゼントを用意してくれていた。「もう船便は出してしまっているよね、荷物にならないように」と帰国時のスーツケース事情を考慮してプレゼントを用意してくれた友人までいた。
 
その内の一人が、封筒をくれた。
この封筒こそが今回の事の発端だ。
 
 
会の後、その封筒を開くとマレーシア仕様のスタバカードが入っていた。一定の金額をチャージすることで使用できるプリペイドカードだ。いくらかチャージをして友人にプレゼントすることもよくあるようだ。
 
「荷物にならないように、こんなものしか用意できずにごめんね。スタバで一息ついてね」というメッセージ付きだった。
 
重いスーツケース二つを持っての帰国。
空港にてチェックイン後、搭乗前にマレーシアのスタバでのんびりコーヒーでも飲んでほしい。そういう気遣いかと思った。嬉しかった。
 
すぐに彼女に連絡する。
 
「ありがとう! スタバカードが入っていると思わなかった! マレーシアを立つときに空港で使わせてもらうね」
 
彼女からもすぐに返事をもらえた。
 
「こんなものしか用意できなくてごめんね。スタバカード、日本でも使えるはずだから、リンギット(マレーシアの通貨)をチャージしなかったの。日本で使ってね」
 
 
さて、これである。
これにどう返事をするか。これが難しかったのだ。
 
おそらくマレーシア限定の柄が描かれたスタバカードを記念に贈り、マレーシアのことを思い出しながら日本で使用してもらおうという趣旨だろうが、マレーシアのスタバカードは日本では使用できないのだ。カードの裏にも「Malaysia only」と書いてある。アメリカ、プエルトリコ、カナダ、イギリス、アイルランド、メキシコ、オーストラリア、この7カ国においてはそれぞれの国で購入したスタバカードをこの7カ国内で使用することはできる。自動で通貨を変換してカードから相当額を引き落としてくれるのだ。
 
ただ、マレーシアと日本はそのサービス圏外だ。彼女はそれをよく知らなかったのだろう。
 
彼女の「帰国する友人に対してプレゼントしよう」という優しい気持ちが嬉しかった。ただ、これは使うことの叶わないプレゼント。できることは部屋にただコレクションするのみ。
 
「マレーシアのスタバカードは日本では使用できないんだよ」という情報を彼女に伝えた方がいいのか。伝えない方が良いのか。
 
私がここで「マレーシアのスタバカードは日本では使用できない」と伝えると、彼女のせっかくの気遣いをなんだか無下にしてしまうような気がする。彼女に「使うことの叶わないプレゼントをしてしまった」と多少なりとも残念な気持ちにさせてしまう。それが私をつらくさせる。
 
ただ、一方でマレーシアに住んでいる日本人の入れ替わりは激しい。
今後も彼女の周りで帰国する友人は多く出てくるだろう。その時に、彼女が同じようにスタバカードをプレゼントしたら、彼女は良かれと意味のないプレゼントを将来的に繰り返すことになるだろう。そしていつか彼女の友人の誰かが「マレーシアのスタバカードは日本では使用できない」という真実を伝えてしまったら、彼女はちょっとショックを受けないだろうか。
 
日本で使用できないプレゼントをし続けていたこと、そしてそれを受け取った人の誰もそれを指摘してくれなかったことに。
 
また、マレーシアと日本は圏外だとしても特定の国であればスタバカードは国境を超えて使用できるという情報は、スタバ大好き日本人としてそれは有益な情報でもある。
 
 
みなさんならどうするだろうか。
 
たった今、ちょっと相手を残念な気持ちにさせるし、それに対してこちらも少し申し訳ない気持ちになるけれども、「日本では使用できないんだよ」と有益な情報を相手に伝えるか。それとも気まずさを避けて何も言わずに感謝だけを述べて円満に事を終えるか。
 
本当の優しさとは何だろうか。
そんなことを考えながら、私は彼女に返信を打った。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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