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記事:MAKIKO(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
「義母が怒っている」
いつもは要件だけの義父から、こんな相談の電話が入った。
 
怒りの矛先は、私の夫だった。
先日、義父母と子どもたちと旅行に行った時のこと。
物忘れが激しくなってきた、義母にあれこれアドバイスをしていたのが、小馬鹿にしているようで気に入らなかったようだ。
 
私の義理の父母は80代だ。
おかげさまで、元気にしてくれているが、最近義母の記憶が怪しく、認知症気味だ。
さらに、義父への当てつけが激しく、文句ばかりで、時折キレたりしているそうで、一緒に過ごしている時の二人の様子を見ているだけで、いたたまれない状況だ。
 
よくよく紐解いてみると、過去の怒りが発端のようだ。
義母は嫁に来た時に、姑に相当いじめられたそうだ。その時、相談しても放っておいてしっかりとケアをしなかった義父に対して、「あなたがこうしてくれなかったから」という想いがあるようだ。
 
この言動に対して、息子である夫がお咎めしても、さらに逆上して、義父に被害が及ぶらしく、親戚一同、腫れ物に触るような感覚で接している。
 
何かにつけて、義父がやっていることを否定している。
先日も、義父が新しいことを覚えようと、スマホの使い方を私たちに聞いているのを見て、横で小声で義父に「もうこの際どうせ死ぬんだから、そんなこと覚えなくてもいい」と言っていたりする。「おじいちゃんすごいね!こんな年なのに新しく覚えようとしていて」と義父を褒めることで、義父のすごさをPRしようとしたが、逆効果だったようだ。
言われている張本人の義父は、あまり気にしていないのか、もう慣れたのか、笑いながら軽やかにスルーしていた。
私は、その「スルー力」に毎回、感心している。
 
義父と義母のこの違いは、何なのだろう。
決定的な違いは、新しいことにチャレンジしようという意欲があることだ。
定年後にパソコンを覚え始め、最近ではギターを習い始めて、コンサートに出たりしている。
新しい場所に足を運ぶことで、仲間もできているようだ。
家族とは離れた第二の場所があることは、義父にとって、「スルー力」の源泉となっているのではないかと、私は考える。
 
家庭、仕事等、人にはメインの場所がある。現役で働いている世代は、家庭と仕事がメインだし、引退すると家庭がメインになるだろう。
義父母を見ていて感じるのは、メイン以外の第2・第3の場所は、人間が生きていく上でかなり重要ではないかということだ。
 
なぜ重要か。
1つ目は、場所や関係が異なる環境でリフレッシュできる。例えば、友達の面白い話を聞いて、イライラが吹っ飛んだり、悲しみを紛らわしたりできる。
 
2つ目は、新しい刺激を受けることができる。誰かが何かにチャレンジしているのを見て、自分も頑張ろうと思えたり、何かを教えてもらうことで新しいことに興味を持つきっかけになったりする。楽しみができるので、些細なことが気にならなくなる効果もある。
 
3つ目は、自分の役割、居場所により、自分が存在している意義を感じられることだ。
 
義母に置き換えて考えてみた。
義母は、最近では友達と話すこともなくなり、兄弟も他界してしまったので、会話をする相手は義父か、我々息子夫婦や孫だ。
 
おそらくこんなことが起きているのだろう。
・話す相手が、義父だけなので、リフレッシュのきっかけがない。イライラを解消できず、ため込んで爆発してしまっている。
・新しい刺激がない状態が続いているので、何か新しいことをする気力が起こらない。それどころか、変わらないことに慣れてしまったため、変わることを嫌うような傾向すらある。認知の範囲が生活のみなので、細かなことが気になったり、過去のことに目を向けてしまいがち。
・自分が認知症になって色んな事を義父に頼らなければならず、自分が存在している意義を感じられず不安なのかもしれない。
 
ふと、今から10数年前、私が育児休暇を取得している時のことを思いだした。
フルタイムで仕事をしていたが、子どもが生まれると、会話のできない乳児と毎日一緒に過ごすこととなる。会話の相手は、実母か夫だ。
最初は、子育てという新たなチャレンジに四苦八苦しながら子育てを楽しんでいたものの、慣れるとだんだん気持ちが不安定になってきていた。
夕食を作ったのに急遽飲み会になった夫にイライラしたり、このまま自分は社会から取り残されるのではないかと不安になったり。
仕事を休み、取り巻く環境が家庭だけになり、いつもと違う場所から得られるものが欠乏したからなのだろう。第二の場所がなくなり、得られる安心感、ストレス発散の場、自己重要感が感じられなくなってしまったのだ。
 
いま、私たちが義父母にしてあげられることは、何だろうか。
何かしら新しい刺激を、変化を感じさせない状態で提供することはできないだろうか。
 
そして、この出来事から学べた、もう一つの側面は自分たちのこれからの人生だ。
人生100年時代、定年が70になったとしても30年ある。
身体の健康だけではなく、心も健康に過ごし続けるには、第二、第三の場所の存在は、欠かせないと思う。
仕事にのめりこむのも大事だが、それ以外の場所にも目を向けて、自分が「楽しい!」と思えることを見つけていこうと感じたのだった。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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