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今日が人生最後の日だとしたら


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記事:杉本陽子(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「この動画、100回見たほうがいいよ!」
 
当時つきあっていた彼の家で、ある動画を見せられた。
 
スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学の卒業式でのスピーチの動画である。
有名な動画なのでご存じの方も多いと思う。
 
彼はすっかりこのスピーチに心酔していて、私にも見てほしいと思ったらしい。実際に見てみると、私もこのスピーチの伝える内容の素晴らしさにすっかり心を掴まれてしまった。何回見たのか数えていないのでわからないが、もしかしたらほんとに100回近くは見たのかも知れない。
 
そのスピーチの中で、私に一番影響を与えたのは「死について」の部分である。
 
「もし今日が自分の人生最後の日だしたら、今日やる予定のことは私が本当にやりたいことだろうか?」とジョブズは毎朝自分に問うていたらしい。死を前にすることで、自分にとって本当に大切なこと以外は二の次になる。最も重要なことは自分自身の心と直感に素直に従い、勇気を持って行動することである、とジョブズは説いている。
 
私はこの考えが大変気に入って、自分も実際にやってみることにした。
ジョブズと同じように、朝起きて鏡を見たときに「今日やる予定のことは私が本当にやりたいことだろうか?」と問うてみるのである。
 
実際には、なんでもかんでも自分がやりたいことだけをやることなんてできない。生活していくためには働かなくてはならないし、仕事の中では「嫌だなあ」と思うことだって出てくるのは当然である。
 
でも、こうやって自分自身に問うことで改めて気づかされたことがある。
 
それは、人生は有限であるということ。
 
誰だって「死」が自分を迎えに来ることは当たり前のようにわかっている。でも、それは今日ではないと思っている。「いつか」なのである。自分が死ぬまでにやりたいと思っていることは「いつか」はしたいなと思って、先延ばしにしてしまうということは誰にでもあるのではないだろうか。
 
かく言う私もそういう一人であった。
 
私が死ぬまでにどうしてもやりたかったこと。
それは世界を旅をすること、特にヨーロッパに行くことであった。特定の国というよりはヨーロッパ全般を広く旅したかったのだが、一言でヨーロッパと言っても広い。私が行きたい国だけでも30か国を超えていた。
 
そうすると、旅の計画を立てるのも一苦労である。まず自分がどこに行きたいのかリストアップするだけでも大変である。そしてそこにはどうやっていくのか、どういう順番で回ると効率的なのか、宿は? 食べるところは? 考えることは無数にある。
 
語学も心配である。英語も中途半端だし、どうせ行くならその国の言葉も少し学んでおきたいし……。
 
自分が一番やりたいことであるにも関わらず、それに向き合うには中途半端な覚悟ではできず、非常にエネルギーを必要とした。
 
そうするとどうなるか。まるで小さい子供が自分の宝物をお菓子の空き缶に詰めるだけ詰め込んで、押し入れの奥に直しこんでしまうかのように、私のヨーロッパの憧れの地への想いは、宝箱に詰め込んでしっかりと鍵をかけ、心の奥の方へしまいこんでしまっていた。
 
 
でも、ジョブズのスピーチに出会って、毎朝自分の心に問いかけるようになると、はて、このままでいいのだろうか? という疑問が湧いてきた。
 
もしかして「本 当 に 今 日 が 人 生 最 後 の 日 だ っ た ら ?」と
と思うと、いてもたってもいられなくなってきた。
 
後悔には2種類ある。一つはやった後悔。そしてやらなかった後悔。
やらなかった後悔の方がはるかに大きいと言われている。
 
本当の人生最後の日に、憧れの地に行けるチャンスがあったのに行かなかったと思って死にたくないと心から思った。
 
私は勇気を出して、心の奥にしまい込んでいたおもちゃ箱の鍵を開け、思い切ってひっくり返すことにした。
 
フランス、イタリア、スペイン、スイス、オーストリア、ポルトガル、イギリス……。
モンサンミッシェル、ベネチア、サクラダファミリア、ユングフラウヨッホ、ヴォルフガング湖、ポルト、湖水地方……。
 
かつて行きたいと思っていたところを全てリストアップしていくだけでも大変だった。
 
あとは一筆書きで、行きたい場所を繋いでいく。どこからスタートしてどこに行きつくか、なかなか定まらなくてヨーロッパ地図は何度も書き直してボロボロになった。仕事の合間も片時も地図を手放さず、夢中になって線を描いた。休みの日などは食べることも忘れるほどに8時間ぐらい旅の計画を練ることもあった。
 
結局一度の旅では行ききれないと判断し、6回に分けていくことになった。
 
そして、実際にヨーロッパの地に降り立ってみると、実に不思議な感覚になった。
 
それまでずっとヨーロッパのことを考え続けていたがために、まるで魂だけがヨーロッパに先に来ていて、やっと体が追い付いて魂と体がやっと一つになった感覚になったのである。なんど「これは夢じゃない」と頬っぺたをつねったことか。
 
しっかりと計画を練ったおかげで、6回の旅は大きなトラブルもなく、2019年のうちに終えることができた。
 
そして2020年に入り、コロナが全世界的に蔓延することとなった。世界一強いと言われている日本国のパスポートをもってしても、自由に海外に旅をすることはできなくなった。コロナが落ち着いてきたと思ったら、ウクライナ戦争でまれにみる円高と物価高。庶民には以前より簡単に海外に行くことが難しくなってしまった。
 
もしあの時覚悟を決めて、自分の宝物に真剣に向き合おうとしていなかったら、と思うとぞっとしてしまう。行きたい気持ちをくすぶらせながら、憧れの地はどんどん遠くに遠ざかって行ってしまうのを想像すると、今頃どれほどの後悔の気持ちに押しつぶされていただろうかと思う。
 
あの時、人生が有限であることを気づかせてくれたジョブズ、そしてジョブズのスピーチを教えてくれた彼に感謝したい。
 
有難いことに私は今日も生きている。
 
これからの日々も「今日が人生最後の日だったら?」という気持ちで生きていきたいと思っている。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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