76歳の今からビジネスを始めたい! 70代になって見つけた自分の道《週刊READING LIFE Vol.192 大人って、楽しい!》
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2022/11/07/公開
記事:深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)
「自分で稼げる道筋が立ったら、会社は辞めようかなと思っています。会社だと決められた人としか関われないけれど、自分でビジネスを立ち上げれば、もっと多くの人と関われます。それに、今はオンラインの時代ですから、関われる人の範囲はもっと広がるでしょう」
そう話すのは、今年76歳を迎えた令子さんだ。
令子さんは53歳のとき、家庭の事情で収入を得る必要に迫られ、保険会社に就職した。まだ子育てと介護の真っ最中だった。ご主人からは「働きに出るなんて、俺を馬鹿にしているのか」とも言われた。でも令子さんは、「自分もできることで収入を得なければ」と思っていた。
それから23年。令子さんは今、新たな目標に照準を合わせている。仕事は「収入のため」だったのが、今では「生きがい」になっていると令子さんは言う。76歳になってもなお、新しい挑戦を続けていこうとする原動力は何か? いつまでも若々しく現役で働く秘訣をインタビューした。
1.新しい人との関わりの中で自分の価値を発見できた
「保険の仕事は知人が紹介してくれました。でも私は最初、保険の営業なんて無理だと思っていました。売り込むイメージが強かったからです。でも、保険はライフプランを考えるものだという話を聞いて、私にはまだまだ知らないことがあると思いました。それで保険のことを勉強して、人に伝えられるようになろうと考え、仕事に就いたのです」
保険の仕事を始めるまでは、令子さんは「人の世話をするのが自分の役割」だと思っていた。「良い嫁」を務め、育児、介護のほか、ご主人の会社の社員の面倒もみた。それはそれで満足していた。
ところが、保険の仕事を通じて新しい人との出会いがあったり、自分の力で成果を出すという経験をした。それは令子さんにとって刺激になった。
「今までは、皆が気分良く過ごしていればいいかなと思っていましたが、外に出てみたら、それだけじゃない世界がありました。自分の力で成果を出すという、家庭にはない楽しみがありました」
その後、令子さんは60歳の時に保険代理店に転職した。今の会社は4社目だ。今の会社では事務職として採用された。
「会社から、居るだけでいいですからと言われたのですが、そんなことあるわけないと思いました。それで、自分で好きなようにやっていいということだと解釈して、職場の環境整備から始めました」
会社はこれから事業を発展させていこうとする段階で、人手不足であるうえに、仕事に慣れていない人も多かった。当時は30社近くの保険商品を取り扱っていたが、営業員はいつも保険のパンフレットを段ボールから引き抜いて持って行くような状態だった。そこで令子さんは、棚を購入してパンフレットや書類を会社ごとに見やすく並べるなどの改善を進めた。
「以前に店舗で働いていた時の経験を生かせました。狭い場所で効率良く動けて使いやすい状態にしたり、どこから見てもきれいに見えるように整えるなど、工夫をしました」
ちょっとした気配りだが、それができる人とそうでない人がいる。それが普通に苦もなくできてしまうのが令子さんの強みだ。それは令子さんの育った環境に影響されているという。
「私の実家は旅館だったんです。母からは、お客様が起きて来る前に掃除をするのよ、靴磨きもこうするのよ、着るものは2日と同じものを着てはいけないのよなどと言われていました。そういう環境で、人に見られた時に恥ずかしくないようにと育てられてきました」
それまでは、「こうあるべき」という教えに縛られ、それが令子さんを息苦しくもさせていた。でも一方で、そうして育てられたことが自分の価値を高めていることに気づけた。そして、「こうあるべき」ではなく「こうあった方がいいな」と柔軟に考えられるようになったことが、令子さんにとっては大きな変化だった。
2.手放すことで見えてきたこと
令子さんはこの夏、ひとつの転機を迎えた。フルタイムの勤務から週4日のパート勤務に変わってほしいと会社から告げられたのだ。仕事の内容も変わった。これまでの事務の仕事から営業員の育成に携わることになった。最初は危機感を抱いた令子さんだったが、成績不振の営業員の育成を任されたということは、会社は令子さんの実力を認めているということでもある。実際、会社からは「令子さんのアドバイスは他の人と少し違うから」と言われていた。
「今までにも営業員の研修に立ち会うことはありました。フィードバックをする際、私以外の男性は、こうするべきだ、こうしないとおかしい、だから君はダメなんだという言い方をしていました。でも私は、できないのは何か原因あるはずと考えて、コメントをするときもダメ出しではなく、自分が感じたことを伝え、それに対して気づいたことを相手に話してもらうように働きかけていました。そういうところが他の人とちょっと違うかなと自分では思っていました」
そういう令子さんも、以前は「こうするといいよ」「こうしなさい」とアドバイスしていたという。それが変化したのは、コーチング的な関わり方を学んだからだ。
もともとは自分自身を見つめるために学んだコーチングだった。
コロナ禍で、令子さんはいつ会社から解雇を言い渡されてもいいように、何か自宅でできることを探さなければと思い、ビジネスを学んだ。ところが、自分には何ができるか分からない。
「今までは、女性は出しゃばることなく支える役だとずっと思って生きてきました。だから、言われたことを守ることはできていましたが、自分が何かをするとなったら、何をしたらいいのか全く分かりませんでした」
「私にできることを誰か教えて」と2年ほどあちこちを駆けずり回ったという令子さん。でも、何を学んでもその答えを得ることはできなかった。
そんな中で出会ったのが、自分で自分をコーチングする「セルフコーチング」だった。そこで令子さんは、自分で自分に問いかけることを繰り返し、自分にできることは何かに気づく体験をした。そして、「人は自分で気づき、自分で決めて、自分で行動を変えなければ変われない」ということを知った。
令子さんにとって、営業員を育成する仕事は、自分が学んだコーチングを生かすチャンスとなった。
なかなか成績の上がらない男性営業員は「まぁ、こんなもんですよ」が口癖だった。令子さんはただ話を聞き、「こんなもんというのは、具体的にどういうことですか」と質問をしたり、自分の感じたことだけを伝えるようにしていた。
すると、ある日その営業員が「どうも僕はやっていることがずれていたようです。僕はお客様より情報を持っているし、説明も上手くできると思って、親切のつもりで先回りして話をしていました。でも、実はお客様の話を深く聞けていなかったんですね」と令子さんのところへ報告しにきた。
「私が、そうよそうよ、私もそう感じていたのよと伝えると、彼は自分で勉強会を企画したり、営業のロールプレイングの相手になってくれないかと、積極的に動いてくれるようになりました」
令子さん自身も、営業員時代は彼と同じように先回りしてお客様に説明していた経験がある。年数が経ってからは後輩に自分のやり方を押しつけてしまったこともある。そうした経験を積み、学びを続けているからこそ、令子さんには伝えられることが多くあるのだ。
さらに、事務の仕事を離れて気づいたこともあった。
「例えば、リンゴを頂いた時のことです。新しく入ってきた人は私とは切り方が違うんですよ。私の中ではくし形に切って出すのが当たり前でしたが、彼女は一口大に細かく切って爪楊枝を刺して出してくれたんです。なるほど、事務所で食べるにはこっちの方が食べやすいなと思いました。もし私に任されていたら、こういう切り方をするのよと彼女に教えていたと思います。でも、私が事務の仕事から外れることによって、こういうやり方もあるんだと見えるようになりました」
年齢を重ね、経験が長くなるほど、「自分が正しい」と思ってしまいがちだ。けれども、令子さんは「そういうやり方もいいわね」「その発想はなかった」と、他人のやり方を認めることができる。令子さん自身が自分自身を認め、受け入れることができているから、他人のことも認めることができるのだろう。
3.90歳になるまでは働きたい
令子さんの今の目標は、「何があっても大丈夫と思える人生」を多くの女性たちに伝えていくことだ。
「たとえ夫に何かあっても大丈夫という経済力を女性も持っていたら、人生違うんじゃないかなと思うんです。私自身の反省をこめて伝えていきたいです」
令子さん自身が経済力のないことの苦しさを味わい、自分の力で収入を得る喜びも得てきた。たからこそ、令子さんから「自分の経験を伝えなければ」という使命感が伝わってくる。
そんな令子さんに、先日50歳位の女性がこう言ったそうだ。
「私、75歳まで現役でいるんです」
「それはもしかして、私のことを言ってるの? と思いました。75歳まではいけると思われてるんだと思って。私自身は90歳になるまでは働きたいです」と令子さんは笑った。
今の令子さんにとって、仕事は「生きがい」だという。「人に喜んでもらえる」というのが何よりの張り合いになっている。自分だけの世界で完結するのではなく、人と関わることが自分の成長にも繋がっている。
家族は生き生きと働く令子さんを見て、「お母さん、どんどん若返っている。楽しそうだね」と言ってくれるそうだ。令子さんはまた、オンラインでの学びを通じて、様々な年代の人たちとの交流も楽しんでいる。
「オンラインは、自宅勤務になって覚えざるを得ませんでした。でも若い人たちに教えてもらって、何とかできるようになりました。新しいことを学ぶのは楽しいですね。84歳になる主人も学びは好きで、パソコンもできるのですが、相手をしてくれる人がなかなかいないようで、お前たちはいいなぁと羨ましがっています」
「自分は何ができるのか」「何がやりたいのか」を探し続けていた2年前の令子さんに何か言ってあげるとしたら何を伝えたいかを聞いてみた。
「諦めずにやっていくこと。それが先の展開に繋がるよと伝えたいですね」
フルタイムからパート勤務に変わった時、令子さんは危機感も覚えたが、今まで考えたこともなかった世界が出現したように感じたという。
「今までは朝7時過ぎには家を出て、帰宅するのは20時過ぎでした。それが今は、10時から16時までの勤務になり、朝の空はこんなにキレイだったんだとか、スーパーのレジってこんなに並ぶんだとか、色々なことに驚きました。週休3日になったので、休みの日は見たかったビデオを見たり、研修を受けたり、人とお話をしたりしています。主人はせわしなく動いているねと言いますが、逆です。こんなに時間って使えるんだと充実しています」
令子さんの姿を見ると、「年を重ねていくことはこわくない。むしろ楽しそうだ」と思う。年齢を重ねるほど人に伝えられることが増え、経験が増えるほど学びで受け取れるものが増える。そして、それを形にして多くの人たちに還元していくことの楽しさを令子さんはこれからも私たちに見せてくれるだろう。
年齢を理由に諦めない。人はいつからでも新しい挑戦ができる。令子さんはそのことを自ら示してくれている。
□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)
愛知県出身。
国内及び海外電機メーカーで20年以上、技術者として勤務。2020年に独立後は、「専門的な内容を分かりやすく伝える」をモットーに、取材や執筆活動を行っている。現在WEB READING LIFEで「環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅」を連載中。天狼院メディアグランプリ42nd Season、44th Season、49th Season総合優勝。
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