週刊READING LIFE vol.192

タイプカプセルを掘り起こして出てきたオレの夢《週刊READING LIFE Vol.192 大人って、楽しい!》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/07/公開
記事:山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
久しぶりにFacebookを開くと1本の投稿が流れていた。
 
「静岡市立○○小学校創立50周年記念式典に行ってきます」
 
この投稿を流した主は小学校から高校までずっと同じ学校に通っていたタカヒロだ。私は長い間学生時代の友人とは全く連絡を取ることができなかったが、Facebookを通じて高校の同窓会に参加し、15年ぶりの再会を果たしFacebookアカウントをフォローしてから、お互いの近況を確認していた。
 
それにしても、中学や高校だったらともかく大人になってから小学校の記念式典なんか参加するものなのだろうか?
 
「○○小学校が50周年を迎えるとはね。そういえば卒業したときって創立何年だっけ?」と唐突にコメントしてみた。
 
「うん、あの頃は創立25周年だよ。いつの間にか50周年って時が経つのは早いね」
 
「もうそんなに経ってしまったのか。それはともかく、なんでまた50周年式典に行くの?」
 
いくら小学校時代が良い思い出だったとしても25年後の記念式典に行くのは普通考えられない。高校や大学ならわからんでもないけどいったい何がそうさせるのだろうか?
 
「ああそれね。おれの息子が○○小に通っているんだ。だから式典に出るんだよ。」
 
これで合点がいった。自分の子供の通う小学校が50周年記念でイベントが行われるなら親として出席するのは当然のことだ。子供のいない私ではそこまで想像が及ばなかった。そのからくりが理解できると同時になんとなく小学校時代の懐かしい思い出がよみがえってきた。
 
翌日Facebookでクラスメイトの投稿が流れてくる。今度は小学校のWebページをリンクに張り付けての投稿だった。
 
「50周年記念イベント、25年前に埋めたタイムカプセルを掘り起こす」
 
そういえば25年前にタイムカプセルに何かを埋めたやつって俺たちじゃねえか。
 
もちろんタイムカプセルに何を書いたかなんて覚えてなんかいない。それどころかタイムカプセルなんてイベントを行ったことすら覚えていなかった。
 
奇跡的に置いてあった小学校の卒業アルバムを25年ぶりに読み返してみると、運動会やキャンプに修学旅行などの楽しい思い出がだんだんとよみがえってきた。当時のクラスメイトは高校まで一緒だったタカヒロを除いては全く覚えていなかったけど、だんだんと思い出した。友人との思い出はもちろん、いつも後ろの席から眺めていた当時好きだったサユリとの思い出が急に輪郭を帯びてよみがえってきた。彼女とは片思いで卒業してからはただの一度もあったことはないのだが……
 
それでもタイムカプセルだけは思い出せない。いったい何を書いたんだろう。些細なことだが気になって仕方がない。かといって今じゃなんも関係ない小学校に一人で行ってもしょうがない。
 
うん、タカヒロと一緒に小学校に行くか!!

 

 

 

こうして小学校の記念式典の日におれとタカヒロは一緒に参加することになった。子供のいない私は一人での参加だが、タカヒロには奥さんと小学校に通う当時小6の息子がいた。やっぱり親子2代で通う小学校は思い入れも違うのだろうか。
 
タカヒロは記念式典のイベントを家族で楽しんでおり、私はタイムカプセルの掘り起こしの時間まで一人で適当に時間をつぶしていた。
 
いよいよ、タイムカプセルを掘り起こすときが来た。その時のサプライズゲストとして25周年記念の時に小学校の担任をやっていた先生が来ていた。小学校5年生の時の担任でやんちゃなオレたちにとっても熱心に指導してくださった思い入れのある先生だったのだが、さすがに25周年の年月は長すぎた。向こうにとってはたくさん見てきた児童の一人であり、俺たちのことは全く覚えていなかったようだ。
 
『まったくこいつは小さい時から手のかかるやつだったけど、私にとってはいい思い出だったよ』みたいなエピソードがあれば完璧だったのだが、現実はこんなもんだ。25年ぶりに会った小学校の先生の元気な姿を見ることができただけで良しとしよう。
 
そして、埋められていたタイムカプセルが25年の時を経て掘り起こされて、まずは担任の先生の手に渡る。懐かしそうに当時の思い出をかみしめていたようだが、間違いなくその時の思い出にオレの名前は消えている。
 
「あなた、25年前の生徒なの?名前は?」
 
「山田です。あの時はお世話になりました。」
 
担任の先生も私のタイムカプセルを探しながら、だんだんと思い出してきたようだ。
 
「そういえば、授業中におもちゃで遊んでばかりでロクに勉強もしなかったのに、私立の中学に行ったんだよね」
 
確かに当時の私は決して活発な生徒ではなかったけど、いつもチョロQとかガチャガチャのおもちゃを持ってきては先生に没収されていた。さらには、学校の帰り道にいつも駄菓子屋で買い食いするたびに怒られていた地味に手のかかる奴だったようだ。
 
いつも授業中に遊んでいたくせに中学受験に成功してしまったのだから、何とも可愛げがなかったのだろう。それでもタイムカプセルの中身をみながらでも、思い出していただけたのだからそれだけでも来たかいがあったものだ。

 

 

 

こうして、タイムカプセルが先生から私に手渡された。中にはガラガラといろんなものが入っている。
 
昭和64年の10円玉とビックリマンシールのヘッドが2枚、そして授業中に遊んでいたと思われるチョロQが入っていた。タカヒロの入れていたものもほとんど似たようなものだった。
 
そして、25年後の自分に向けて手紙が書いてあった。
 
『僕が大人になったら、バックトゥーザフューチャーの博士のようにデロリアンを作れるようになりたいです。そしてサユリちゃんと結婚して、子供を2人育てながら大きな家に住みたいです。』と汚い字で書かれていた。
 
25年前のオレはそんなことを書いていたのか!!
 
これはタイムカプセルということなので誰にも読まれていないはずだ。何しろ自分でも何を書いたのかを忘れてしまうぐらいだから、こうして25年の時を超えてこの目で見るのはなかなかのドラマではあるのだが、それにしてももう少しまともなこと書けなかったのか?
 
これは隠しておかなくてはいけない黒歴史なのだが、すかさずタカヒロがのぞき込む。
 
「お前、サユリのことが好きだったのか」
 
もちろん告白なんかするわけがなく、それどころ誰にも知られていない自分だけの秘密だった。
 
「なんだよ!!言ってくれれば紹介ぐらいはしたのに」
 
「えっお前、あの子と卒業してから会っていたの?」
 
「直接は会ってないけど、彼女が行った中学に知り合いがいるから、紹介ぐらいはできたかもな」
 
「いやいいよ。もし紹介してもらったとしても告白なんかとてもとても」
 
「そりゃそうだよな。もしかしてサユリがこの場にいたらよかったと思った?」
 
「んなわけねえだろ」と強がってはみたものの、初恋の相手が25年ぶりに目の前に現れたりしたらさぞかしロマンチックだっただろう。
 
そんなことを思いながら、スマホを取り出してFacebookで「○○サユリ」と検索した。
 
もちろん、それらしき面影のアカウントは見つかることはなかった。

 

 

 

25年の時を経て、小学生の時に博士になりたいと考えていたことに軽くショックを受けていた。
 
幸せな結婚は疑いもなくできると思っていたが、数か月前に離婚が成立しバツイチ子無しとなった。小学生の頃にはまさか離婚を経験するとは思わなかった。
 
仕事については、小学生の時に憧れていたバックトゥーザフューチャーのドク博士のようにはなれなかったけど、地元静岡の広告代理店で10年以上勤めていたことは、誇ってよいことだと思う。
 
中学・高校と無難に勉強して理系の中堅私立大学に入学し、当たり前のように就職活動をした結果、静岡の広告代理店で印刷工場のオペレーター・社内ネットワーク管理者、総務人事と会社に求められるがまま20年間がむしゃらに多くの経験をさせてもらっていた。
 
しかし、小学生に思い描いた博士になる夢はなかったことにしてよいのか!!

 

 

 

今から博士を目指すならどうすればよいのか?
 
もう一度大学に入りなおして大学院の博士課程を修了するのか?そのためには、高校の英語・数学・理科をまた勉強しなおすことになるのだろうか。高校時代の知識は綺麗に吹き飛んでしまっているけど、今の方が学ぶ熱意はあると思っている。今から学びなおしてみるのも面白いのかもしれない。
 
研究テーマはどうする?ドク博士のようにデロリアンのようなタイムマシンを作るのか?劇中の2015年では空飛ぶ車が普通に飛び交っていたけど、実際は全く飛んでいない。今からでも空飛ぶ車の研究をしてみるか。
 
他には何がある?
 
人生100年時代と言われて久しいが、私の人生100年で満足なのか?さらに長く生き抜くための研究なんか面白いかもしれない。
 
そもそも研究テーマって科学技術に絞らなければだめなのか?
 
日本史や世界史の勉強だってよいのではないか?さらに絞るなら日本史でも戦国時代や第二次世界大戦などの近代史、さらには私が生きてきた時代を研究するのだってありだ。テーマというのはなんだってよい。好きなことを好きなだけ学べば良いではないか。
 
子供のころは「博士になる」という肩書のことばかり考えていて、何を学ぶのかは全く考えていた。今でもドク博士のような学者に憧れの念を抱いているが、本当に欲しいのは「何かを学ぶ」ことだ。
 
幸いにして何かを学ぶための本はいくらでも存在する。今じゃネット上にWeb記事でもYouTube動画もなんだって用意されている。
 
時間も無尽蔵というわけにはいかないだろうけど、その気になればいくらでも学べるチャンスは残されている。
 
いってみれば、小学生のころに思い描いていた「博士になりたい」というチャンスはいくらでもあるはずだ。
 
まだまだ、今というこの瞬間を夢に向かって楽しむことができるのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年8月の誕生日にライティングゼミ夏季集中講座で天狼院デビューとなりここから天狼院沼にハマって、ハードワークの技術、時間術ゼミNEO、無限ラーニングZ他多くの講座を受講することになる。
2022年1月よりライターズ倶楽部参戦するもあまりのレベルの高さに騒然とし、ライティングゼミNEOでライティングを鍛えなおす。同年10月よりライターズ倶楽部復帰

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2022-11-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.192

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