教えてもらうんじゃなくて、自分で見つけたいんだ《週刊READING LIFE Vol.192 大人って、楽しい!》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2022/11/07/公開
記事:小西 裕美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「先生、いろいろ計画係やってもいい?」
「いいけど、それは何をする係なん?」
「いろいろ計画する係!」
「いや、うん、それはわかったけど、何を計画するの?」
「お楽しみ会ー!」
新学期がはじまり、クラスの係を決めるとき、私は友達に誘われて、いろいろ計画係になった。私たちのゴールは、授業の時間をもらって、お楽しみ会を開催すること! 先生は、クラスの全員が登校時に、クラスメイト3人にあいさつができれば、授業をなくしてお楽しみ会をしてもいいよ、とみんなの前で約束してくれた。たぶん、その瞬間にクラスの全員が一致団結した。だって小学生なら、誰でも授業より遊びたい!
次の日、クラスでも目立つヤンチャな男の子が登校してくると、自分の席の前や横など、四方八方へところ構わずあいさつしはじめた。いままで喋ったことがないクラスメイトも多くいただろう。私もそのうちのひとりだった。突然でびっくりしたけど、すごく嬉しかった。話したことがない子へ、自分からあいさつすることって、なんだか恥ずかしい。でも、その男の子が先にあいさつをしてくれたから、私もおはよう、とあいさつを返した。彼も少しびっくりした様子だったが、ニコッと笑ってくれた。
その男の子のおかげで、みんなの恥ずかしさもどこかに吹き飛んでしまったようで、目があうと自然にあいさつをしあうようになっていた。先生が学級会で「毎日、3人の友達へあいさつをした人ー?」と声をかけると、普段は手を半分ぐらいしかあげない私も、肘をぐんと伸ばして高く挙げた。まわりを見渡してみると、クラス全員が同じく真っ直ぐと手をあげていた。
ようやく、いろいろ計画係の出番だ。私たちは、ゲームやプチ運動会など、いろいろアイデアを出して話し合ったが、最終的にフリーマーケットをやろうとなった。当時、人気のあった「ご近所物語」という漫画で、フリーマーケットをする話があり、私たちもやってみたかったのだ。A4サイズの紙にお金を書いて、紙幣をつくり、家のいらないものや自分でつくったものを持ってくるように、みんなに声をかけた。
いざ、お楽しみ会がはじまると、一斉にみんなが動き出す。売ったり、買ったりを楽しんでいた。すると、ある一角にみんなが集まっている。そして、ブーイングの声が聞こえる。私も野次馬で行ってみたら、そこは先生のお店だった。
「そんなんやって、ずるいやん!」
「早く言ってくれたら、私たちもできたのに」
「先生めっちゃ儲けてるやん!」
先生の手元をみると、電気コンロの上にアルミカップをのせて、そこに水と砂糖を入れ、べっこう飴をつくっていた。とてもいい香りがするし、できる過程をみるのも楽しいし、出来立てのあったかい飴ってちょっと新鮮。確かにずるい、と思った。この先生のべっこう飴が私たちに火をつけた。
クラスの全員の総意で、次回のお楽しみ会の開催が決定した。気合いが入る。私は友達とベビーカステラ屋さんをすることにした。
当日を迎え、準備の時間になると、教室がすごいことになっている。以前とは比べものにならない熱気。黒板の前には、たこ焼き屋さんが2つもある。教室の奥の一角には、カーテンが集められており、そのカーテンでテントのようなものができあがっている。内側の窓は段ボールですべて閉鎖されており、中の空間は真っ暗だ。女の子たちで占いの館をするらしい。めっちゃ頭いいやん! と、その発想に感心した。
中には何も売るものを持ってこなかった子もいたが、この子がすごかった。早々に全部のお金を使いきり、すみっこに座ってじっとしているなぁと思っていたら、なんと宝くじをつくっていた。ちょうどみんなもお金がなくなる頃だったので、彼はそこに目をつけたのか、安い金額で売りはじめ、瞬く間にみんなのお金を吸収していく。気がつけば彼は大金持ちで、ガハハハ〜、と笑いながら、札束を握り、その札束で友達のほっぺをペチペチ叩いていた。その成金っぷりが、逆に清々しい。
なんでだろう、と思う。お金を稼ぐことは、あんなに自由で楽しかったはずなのに、どうしていまは、あの頃のように楽しめていないのだろう。これがやりたい、あれがやりたい、と次々とやりたいことがあったはずなのに、いまは何でもやっていいなら何がしたい? と聞かれると、ちょっと困る自分がいる。
もし、あのお楽しみ会が、現実のビジネスの世界だったら、楽しくなかったのかもしれない。きっと、上手くいっているお店はマネされて、競合他社がいっぱい出てくるだろうし、そうなったら今度はマネされたといって、ケンカになるかもしれない。そのケンカをやめさせるべく、法律ができるかもしれないし、警察や弁護士といった必要がなかった仕事が生まれるかもしれない。優秀な人を囲うために会社ができて、採用競争がはじまるかもしれない。
こうなってくると、ただ商品をつくって売りたいだけだったのに、いろいろやることが増えてくる。他社の動向を伺ったり、法律を勉強したり、採用をしたりしないと、お金を稼げないかもしれない。現実で楽しくお金を稼ぐことがむずかしいのは、これが原因なのだろうか?
確かに、私たちはいろいろなタスクを抱えている。商品をつくって売ることが好きな人は、その仕事につくために、まずは就職活動をしないといけないし、入社したあとは、お客様のことや商品のことを勉強しないといけない。しかも、ただ売れば言い訳ではなく、ノルマとコストも意識しなければならない。自分に決裁権がなければ、上司に承諾を得ないといけないし、他部署への調整もいるかもしれない。後輩がいれば、仕事を教えなければいけない。考えれば考えるほど、「つくって売る」ということ以外にやらなければならないことが多すぎる。
あるとき、私は「ぬりえコンテスト」を企画した。この企画の背景は、コロナ禍だ。私自身は、ECサイトの運営をしている会社で働いていたので、そこまでコロナ禍の影響は受けなかったが、問題は短期アルバイトさんだった。繁忙期だけ働いてもらっていたのだが、コロナ禍で次の仕事が見つからないという。繁忙期が終わると、私たちの会社は閑散期に入るので、このままだと雇い続けることができない。だから売り上げを上げるために、いくつか企画を考えたのだが、この「ぬりえコンテスト」もそのうちのひとつだった。
上司に提案したところ、二つ返事でいいよ、と言ってくれた。このコンテストはとても簡単で、自社製品である鉛筆か色鉛筆を買ってくれたら、その商品に同梱してオリジナルのぬりえをプレゼントする。そのぬりえに色を塗ってもらい、写真を撮ってSNSに投稿し、入賞者には豪華景品をプレゼントするというコンテストだ。SNSで訴求できることはもちろん、ぬりえを一緒に送ることで、お客様満足度が上がって、レビュー評価が良くなり、売り上げにつながれば、という狙いだ。
応募があるのか心配していたけれど、フタを開けてみると、約1ヶ月で370作品が集まった。そして、ママたちから嬉しい声ももらった。
「こどもが楽しそうに遊んでいました」
「いまはどこにもいけないので、こういうのがあると嬉しいです」
「ぬりえをしている間、こどもがじっとしてくれていたので、助かりました」
そして、いつもお客様から新しい気づきをもらう。私は売り上げアップのために企画したつもりだったけれど、ママの役にも立っていたということが純粋に嬉しい。そして、いつもこういう瞬間は、楽しいなと思う。
こどもの頃の楽しいと、おとなになった今の楽しいは同じなのかを考えてみると、おもしろい発見があった。これまで、私は「いろいろ計画係」のような、計画して実行して、みんなにありがとうと言われることが好きなのだと思っていたけれど、少し違う。ぬりえコンテストを企画して、お客様にありがとうと言ってもらえることが嬉しいんだと思っていたけど、これも少し違う。私は、これまで知らなかったことを知ることが好きなのだ。
ヤンチャな男の子には人を巻き込む力があること、あまり話したことがないクラスメイトが、いまあるものを上手く使って、占いや宝くじを思いつくアイデアマンであること、こども向けの商品だけど、実はママが楽をしたいというニーズがあること。いままでの見方からではわからなかったことを見つけると、すごく楽しい。冒険家がジャングルで、新種を発見したかのような興奮がある。自分の認識が広がって、視野がどんどんと広くなるような感覚。これが私は昔から好きなのだ。
そういえば、私は昔から相手の意外な一面を知ることが好きだった。ギャップがあればあるほど、おもしろくて、ついつい前のめりになってしまう。でも、ある友人は、引いてしまうそうだ。私は、楽しくてしょうがない! それを知ってどうするつもりもない。友人にちょっと聞いてよ〜、と話すことはあるけど、それぐらいだ。何かをしたい訳じゃない。ただただ、知れて満足なのだ。
私は「計画」や「企画」をすることよりも、「ありがとう」と言われることよりも、「新しいことを知る」ことが楽しかった。お客様から「ありがとう」と言われるとやっぱり嬉しいし、そのきっかけが「計画」や「企画」だったら、自分が向いていることはこれなのかな? と思うけど、それは嬉しいことと得意なことであり、実際の楽しいことはもっと小さなことだった。
実は、ぬりえコンテストはお客様には好評だったものの、売り上げ的には全くだった。SNSのフォロワー数も増えていない。厳密にいうと、増えてはいたのだが、想像以上にぬりえの応募が多く、更新頻度が毎日高すぎたため、増えた分だけ減ってしまった。これをきっかけにファンになってもらい、リピーターになってもらえたらいいが、商品は鉛筆だ。こどもが年を重ねる度に使わなくなっていく。ビジネス的に言うと、残念ながら失敗だ。
だからこそ、ありがたいと思う。お楽しみ会では、ベビーカステラを販売するために、キティちゃんのカステラ型をお母さんに買ってもらったけど、カステラを入れる容器やホットケーキミックス、卵、牛乳は、自分のお小遣いから出した。でも、ぬりえコンテストでは、お小遣いは使っていない。会社がチャレンジさせてくれたのだ。
こどもの頃、私が冒険できる日は、お楽しみ会だけだった。大人になったいまは、失敗しても、冒険を続けることができている。やっぱり、先生や教科書から教えてもらうことよりも、自分で見つけたものの方が価値は大きい。まだまだお宝を探したい。こどもたちが授業を受けている頃、私はまた冒険に出かけようと思う。
□ライターズプロフィール
小西 裕美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
大阪府生まれ、兵庫県在住。
こどもの頃の将来の夢は、ラクにお金を稼げそうだからという、浅はかな理由で、宝石屋さん。
現在は、30代未経験でベンチャー企業に飛び込み、カスタマーサクセスを経て、CRMチームで、生まれ持った損得勘定能力を発揮しながら、リピーターの獲得に注力中。
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