週刊READING LIFE vol.192

大人のおもちゃの楽しみ方《週刊READING LIFE Vol.192 大人って、楽しい!》


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/07/公開
記事:黒﨑良英(天狼院公認ライター)
 
 
「大人のおもちゃ」のお話である。
と言って、いかがわしいものを考えていたあなた、ごめんなさい、想像していたのとは違います。そしてこの記事は全年齢対象です。
AVをちゃんと「オーディオ・ヴィジュアル」または「アニマル・ビデオ」と読める人だけ読んでください。
 
ではここ言う大人のおもちゃとはどういうものか。
例えば、2000ピースのパズルだとか、超絶に小さく精密なできあがりになるブロックとか、いわゆるおもちゃコーナーにありながら、「これ絶対大人しか買わないだろ!」と思われるような品物である。
 
具体的に、例えば、このようなものだ。
株式会社ニューロスカイから販売された、「necomimi」というアクセサリー。
 
名前の通り、ぱっと見は「猫の耳」が付いたカチューシャである。
が、もちろんこれは、ただのカワイイを演出するだけのアクセサリーではない。
 
この猫耳、何と動くのである。いや、ヒモを引っ張ってとか、そんなちゃちなものではない。
この猫耳、着用者の「脳波」を感知して、自動で動くのである。
 
集中しているときは耳がピンと達、リラックスしたときになると耳がパタリと倒れ、集中とリラックスが同時に現れた、いわゆる「ゾーン」の状態になると、耳を同時に左右に振るというのだ。
この度リニューアルを受けて、動きと同時に猫の声が出るようにもなった。
 
最初に販売されたのは2012年だが、当時、この画期的なおもちゃに、あのロボットアニメ『機動戦士ガンダム』の用語を当てはめ、ついたあだ名が「サイコミュ・ネコミミ」である。
 
サイコミュとは、作中でパイロットの脳波を感知して、兵器を遠隔操作する機構のことだ。
脳波を感知して動かすあたり、なるほど、言い得て妙である。
 
ちなみにお値段は14850円ほど。
 
ええ、あなたの心の声はよく分かる。こう言いたいのであろう。
 
「バッカじゃねぇの!?」
 
そう、一見、いや二度見しても三度見しても、このおもちゃの機能や値段は変わらない。
正直無駄な商品である。いや、もっと残酷なことを言えば、この世になくたって何にも困らない。
そしてそんな高度な技術を搭載しているのならば、もっと他の有効的なことに使ってほしい、となるだろう。
 
マニアの間では、こういったものを「才能の無駄遣い」と呼んでいる。
呼んでいるが、そんなマニアたちこそ、得てしてこういったものを買ってしまうものである。
 
正直、この値段が払えるのはどう考えても大人である。大人のおもちゃである。使用目的が局地的であることも、輪を掛けて大人向けである。
というか、大人でもこれ、買うのか? という話だ。
 
もちろん、大人なら払える金額ではあるが、分別ある大人なら払う金額ではない。
 
好事家(こうずか)と、物好きとか呼ばれる一部の大人がターゲットとなっているのは見え見えだが、それにしてもひどい。
 
そして好事家で物好きでオタクでマニアな私は、喉から手が出るほど欲しい。いや、実際注文する勇気はないのだけれど……
 
往々にして、大人のおもちゃは「実用性がない」ものが多い。
 
先に言った超絶ピース数のパズルなんて、例えアニメや漫画が絵柄になっていても、子どもがつくろうと思うだろうか?
まして、昨今は、「白一色のパズル」なんてものもある。
もはや誰が買うのか分からない。いや、パズルを好きすぎる人が買うのか。
やはり、マニアと呼ばれる「大人向け」の品であろう。
 
見た目やカテゴリは子ども向けでも、明らかに大人向けのものもある。
戦隊ものや勇者王シリーズと言われる、巨大メカ(往々にして合体する)が出てくる作品のおもちゃだ。
 
幼い息子さんをお持ちの方なら、一度はねだられたことがあるのではないだろうか。東映が展開する主に五人組で「○○戦隊」と名の付く特撮番組、「戦隊ヒーローもの」とも言われる、あの番組の、最後あたりに出てくる、なぜか巨大化する敵に対抗するべく作られた、ヒーロー側の巨大メカである。
 
リアルタイムに展開しているおもちゃは、社会人からしてみれば高価なものではない。
これは、本来のおもちゃの「安価であること」という特性をしっかり踏襲しているからであろう。
基本的に、おもちゃというものは、子ども用であるだけに、高額であってはならない。
販売する側もそれは心得ており、なるべくコストダウンを図っている。
 
が、大人向けとなると話は別だ。何せ、大人は「金を持っている」のだ。しかも子どもが持つのとは桁違いのものを。
 
そこで、制作会社側は、大人の少年ハートをくすぐるべく、彼らが子どもだった時代の作品に目をつける。
数年~十数年前に放映された、懐かしいあのテレビ番組、あるいはゲーム作品に登場するメカやロボットを、高度なクオリティで再開発したのである。
 
予算を無視……はさすがにできないが、多少の費用は掛かっても、質を担保することによって大人の購買欲を誘う。
かくいう私も誘惑されてばかりである。当時の技術ではなし得なかったリアルさ、質感、変形合体などのギミック、等々、かっこいいことこの上ないのだ。
当然、お値段も大人向けである。やばい。
かつて「超合金」という名で展開されてきた数々の巨大メカ。それが今では、より高い材質とクオリティで、私たち大人の魅了している。
 
大人向け、といえば、フィギュアもそうであろう。もちろん、スケートではない。人形のほうのフィギュアである。最近はクレーンキャッチャーで手に入る、いわゆる「プライズフィギュア」も、出来の良いものがどんどん現れている。しかし、受注生産される多くのフィギュアは、質という点では桁違いである。もちろん、値段も桁違いだが、それに見合うだけのボリュームや精密さ、特に細かい部分や付属小物に一切妥協しない精密さは、まさに大人向けの逸品である。
 
フィギュアというと、漫画やアニメやゲームお美少女キャラクターを造形化したものを思い浮かべるだろうが、「人形」と聞くとどうであろう。
大人向けホビーの世界には「ドール」という人形の分野が存在する。
種類にもよるが、大きめの人形たちで、服装はもちろん、目や髪の毛といった様々なパーツをカスタマイズすることができる。
アニメやゲームのキャラクターを最初から模したドールもあり、いろいろなファン層を取り込もうとする傾向にもある。
一見、西洋人形独特のちょっとした怖さも感じられるが、見慣れるとかなりカワイイ。
もちろん、本体やパーツの値段も大人向けの中の大人向けで、かなりのものである。
 
ちなみに、フィギュアやドールは「購入」と言わず、「お迎え」というらしいぞ。
 
往々にして、大人のおもちゃの特徴として、「実益がない」「無駄に高額」といったことが挙げられる。
まあ、おもちゃというものがそういうものだと言ってしまえばそれまでなのだが、少なくとも、値段に見合った楽しみ方ができて然るべきではないだろうか。
 
一般(?)の大人は、例えば、先述したサイコミュ・ネコミミに、そこまでの価値を見いだせないだろう。それより大事なものに、あるいは、もっと自分を楽しませてくれるものにお金を使う。
 
しかし、マニアと言われる人々、好事家・物好き・オタクと呼ばれる人にとっては、それ相応の価値があるのだ。
ひょっとすると「『こんなの誰も買わないだろ!』というものを買うことに、価値を見いだす人がいるかもしれない。
 
それらを無駄と一蹴するのは簡単だ。
しかし、そこの奥にあるのは、「子ども心」とか、「少年ハート」とか、そういった純真で無垢な心だと思うのだ。
 
あのときかっこいい! と思ったものに、童心のまま素直にかっこいい! と言える心。
おもしろいものに素直におもしろい! と言える心。
 
そういう心の純真さ、というか、今で言えば余裕が必要なのだと思う。
この余裕とは、資金面での余裕であると同時に、気持ちの上での余裕でもあると思う。
遊び心に付き合える余裕。
無駄なモノや時間に意味を与えられる余裕。
 
それらは、そのまま大人の余裕となる。
 
そう、この大人の余裕があることで、世界はより面白くなる。
世間はますます面白くなってくる。
新しい技術、新しい材料、そしてそれを利用した新しいおもちゃ、新しいゲーム、等々。
 
これを面白くするのは、子どもの心とそれを生み出す大人の余裕だ。
しかし、厳しい現実社会を生きる私たちは、それを手にすることが難しい。
面白いはずの世の中を、自らつまらなくしてしまうのだ。
 
世界はこんなに面白いコンテンツに溢れているというのに。
 
資金の余裕はどうしても難しい。ならば、せめて心の余裕を身につけたいところだ。
大人のおもちゃを、くだらないと笑いながらも、それでも魅力的に見ることができる瞳を手に入れたい。
 
こういった余裕は、世の中に必要だと思うのだ。
必要なものを必要なだけ、と考えていれば、今に必要な時にだけしか必要とされない人間になってしまうようになるかもしれない。
 
大人のおもちゃは、社会に余裕を生み出す潤滑油である。
これが否定されたら、世の中は、さらにつまらないものになってしまうだろう。
 
ユーモアと子ども心を添えて、イイ大人はこれらの余裕ある大人のおもちゃを手に取ってみてはいかがだろうか。
 
自分の童心のためにも、そして、社会が余裕を容認するようにするためにも。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
黒﨑良英(天狼院公認ライター)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。持病の腎臓病と向き合い、人生無理したらいかんと悟る今日この頃。好きな言葉は「大丈夫だ、問題ない」。

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2022-11-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.192

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