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真面目過ぎると言われると、嬉しくなってしまう理由


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記事:神田 銀平(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「えー、そんな話ばっかりしてたんですか? 真面目すぎません?」
 
とある飲み会が終盤に差し掛かり、各テーブルで何について話していたのか聞かれたので、正直に回答したら、そういう返事が返ってきた。
特に何を言い返したわけではないが、その時の僕は少し誇らしかった。
 
誇らしくなる理由が分からない。そう感じる方が一般的だと思う。むしろ「真面目過ぎるとは何事だ」と、口にしたくなる人の方が多いかもしれない。その気持ちは分かる。こういう時に「好きでしてるんだからほっといてくれ」と言える人が昔は僕も羨ましかった。真面目過ぎると言われると「もっと違う話題の方が良かったかな」と後悔に近い思いをしたものだ。
 
真面目過ぎる。と言われると、面白くないとか、つまらない。という意味が裏に隠れているのではないかと、言葉の裏をめくって確かめたい衝動に駆られてしまう。そういう性格だった。
 
学生の時なんかは女の子と二人でいる時に、真面目過ぎるとよく指摘された。そう言われる時は決まって次のセリフが続く「ねぇ、もっと面白い話してよ」とか「なんでもいいから別の話しない?」とか。
 
今になって思い返せば自分の話は相手にとって都合が悪かった、というか面白くなかったのだろう。相手の立場に立って考えればそんなことはすぐに分かる。興味を持てない話題には共感できないし、別にしたい話題があったのかもしれない。話を遮られる背景にはそれなりの理由が存在するのだと思う。
 
だから、大人になるにつれて、どんなに自分が話したいと思う話題があっても、私の話を聞いてほしいというアピールが見え隠れすると、僕は自分が本当にしたかった話を引っ込めてしまうようになった。
 
誰だって相手の話を聞くより、自分の話を聞いてもらえる方が嬉しい。そして、僕が本当に面白いと感じる話題は、どうやら真面目でつまらないらしかった。しかし、真面目でつまらないと言われる話題を語っている時の僕は、楽しかったのだ。
 
自分にとっては面白いが、他人にとっては面白くない話題を例に出してみる。例えば「正しさ」には3つの種類があって、どのような正しさも「平等、自由、直感」に分けられるとソクラテスやベンサムの名前を挙げて記述された本があったので、それなら自分は何を正しいと感じるのか。という話題や、人間の本能はピラミッド型になっているらしく、下段から①食べたい、寝たいという生理的欲求、②生きたいという生存欲求、③孤独から逃れたいという所属欲求、④誰かに見てめてほしいという承認欲求、⑤自分をより良くしたいという自己実現欲求と続くらしいが、今自分はどの段階まで満たしているのか。
 
という話題を、最近1,2時間くらい車を運転する機会があったので、暇つぶしになればいいだろうくらいの気持ちで車内の人間と話していた。
 
そう聞くと、つまらなさそう、面白くなさそう。と思われる方がたくさんいると思う。それは否定しない。でも素直な気持ちで言っていいのであれば、僕はこの話題を話すのが楽しくて楽しくてしょうがなかった。なんだったら盛り上がりすぎて結論にたどり着くより先に、目的地に着いてしまった。
 
この話題が1時間も2時間もなぜ続くのか? それはひとえに楽しいからなのだと思う。昔は真面目過ぎる。面白くない。と言われるたびに、自分の趣味や価値観が悪いのだと考えていた。しかしある文章に出会い、その考え方は変わった。
 
「ある作業をし続ける時に、すぐに飽きてしまう人と、黙々と作業が続けられる人がいる。これは向き不向きの問題もあるが、単純にその作業を面白いと感じることが出来るか、出来ないか。という気持ちの問題だ」と本に書いてあったのだ。その文章に出会った時、暗い部屋に朝日が射しこんできたかのように、僕の心は一気に明るくなった。
 
そこからの僕は、他人がつまらないとか、面白くないと思うものであっても、自分がついしゃべり過ぎてしまったり、熱中してしまうならば、その話題や事柄について、むしろ前向きな気持ちになれた。
 
例えば美術館に行って、水彩画や油絵の展示を眺めていた時である。僕は絵の前に立つと、この絵に込めたメッセージは、作者は何を伝えたかったのか、どの部分を描くのにこだわったのか、どんな気持ちで描いたのだろうか、何をきっかけにこれを描こうと決意したのだろうか、と作品の裏側をつい妄想してしまい、気づかないうちに結構な時間が経っている。じっと絵の前に立っている僕に向かって同行者は「ねぇ、早く次行こうよ」と急かす。もしかしたらつまらなかったのかもしれない。でも僕は、他人がつまらないと感じるようなものにでも一生懸命に、真面目になれる自分を嬉しく思えるようになった。
 
もっと言うと、他人がつまらないと思うものを面白がれるのは、一種の才能なのだと思うようにした。そうすると、真面目過ぎると言われた時に「え、そうかな?」と思ってしまっても、僕はその話題やその時間を真剣に面白がれているということに気づけるので、自分のことをより好きになれる。
 
物事を良い悪いで判断するのではなく、自分が面白いと思えるならそれは自分にとって大切なものだ。と考えられるようになってから、真面目過ぎる。と指摘された時「君って本当にそういうのが大好きなのね」とまるで褒められたような気持ちになれるようになった。たとえ人に呆れられたとしても、はたから見て真面目過ぎると思われるくらい、脇目も振らずにのめり込めることがあるというのは、僕にとってこれ以上ないほどの幸せなのだ。みなさんも「真面目過ぎ」と言われた時には「これが私の大切なものなんです」と胸を張って誇ってほしい。
 
 
 
 
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2022-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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