メディアグランプリ

「記者の体力ってね、取材中にもらう元気で回復するんだよ」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大橋秀喜(ライティング・ゼミ 10月コース)
 
 
「記者の取材ってね、体力を使うけど、取材相手からもらう元気で体力を回復することもあるんだよ」。これは、同じ部署で一緒に働いていた先輩記者の女性、Tさんが私にかけてくれた言葉だ。私はこれからの人生、この言葉を大事にして働き続けたい。
 
取材とは、実は「食べること」なのだ。
取材相手の言葉が自分の力になることがあるから。しかしもちろん、どの取材でも「元気をもらえる」と言えるような、そんな甘いことばかりではない。大変で苦しい取材やうまく噛み合わない取材もいっぱいある。しかしインタビューをする仕事の私たちは、取材相手の言葉を「食べている」。
 
私は現在の仕事に就く前、新聞社で5年勤めたが、入社から2年間、私は本当に「ダメダメ」でミスばかりの残念な社員だった!
 
同じ失敗を繰り返してしまうし、それだけでなく自分の力不足を認めようとしない、まさに「仕事ができない社員」の見本のよう。入社から2年間は、記者ではなくて新聞の「編集」を担当する「内勤部門」の部署だった。1人1ページの編集とレイアウトをするのだが、これが全くうまくいかず時間内に完成させることにギブアップ。先輩の力を借りてなんとかギリギリ完成。数時間で何回も何十回も見出しやレイアウトを作り直した。ある時間までに印刷をしないと迷惑がかかるのに、ミスばかりで仕事ができない自分が情けなく、苦しかった。
 
「なんとか巻き返したい」。
2年目の終わり頃に、ようやく「記者配属」の辞令を受けた。元々は編集ではなく記者志望だったが、しかし実際に辞令を受けるとかなり、めちゃくちゃ不安だった。今の編集の仕事ですら上手くできない自分が、さらにスピードと責任を求められる記者をできるのか。
 
そんな自分を救ったのがTさんだった。
私が所属していたその内勤部門のA部から、一緒に先輩のTさんも「記者配属」の辞令を受けた。当時30歳くらいのTさんは、記者経験者。いつも誠実な仕事をしていて周囲からの信頼が厚い。はきはきとしていていつも笑顔でいて、誰とも打ち解けることができる。笑い声が遠くまで響いて、周りを明るくしている。
「どうしてこの人はそんなに元気なんだろう。自信があるんだろう。きっとTさんだったらいい仕事をするんだろうな」。
彼女に対して、そのような疑問と嫉妬のような気持ちを抱えていた。
 
だからこそ、Tさんにはとにかく不安を打ち明けた。仕事の基本中の基本から取材のやり方などなど、何でも聞きまくった。そしていよいよ、明日に部署変更が迫る。その日にちょうど、帰宅するタイミングがTさんと被った。
 
「僕、正直まだめちゃくちゃ不安なんですよね」と漏らす。するとTさんはしばらく何かを考えた後、こう声をかけてくれた。「取材って大変なこともあるけれどさあ、大変なことばかりじゃないよ。記者の取材ってね、体力を使うけど、でも取材相手からもらう元気で体力を回復することもあるんだよ」。
Tさんは地域の話題の取材をする中で、元気に地域活動を頑張るおばあちゃんや、起業してまちを盛り上げようと頑張る若者などに出会ってきた。そんな人たちに出会うと、その言葉からパワーやエネルギーをもらうという。
 
その言葉を聞いて、少しだけ取材が楽しみになった。
しかし、そんなにうまくはいかない。私は最初、取材前も取材中もビクビクしながら「記事を成立させるために、これとあれを聞かなきゃ」「取材時間が短いけど、時間内に聞けるかな、大丈夫かな」などと考えていて、不安ばかりの日々。ちゃんとした記事にするために、相手から「情報を奪い取っていく」というような感覚に近かった。
 
「Tさんの言葉は、その通りだな」と感じたのはそれから数ヶ月経ってから。いろんな人の話をじっくり聞くようになった。すると楽しくなってきた。「手作りの公園を作ったから、子どもたちに遊んでほしい」と大きな声で笑う女性。「お年寄りがみんなで読書をする場所を作り続けています」と熱い思いをにじませる男性。「まちを盛り上げるために、Uターンしてきました」と希望に満ちた笑顔を見せる若者。そんな話に出会うようになって、取材が「不安」から「楽しみ」に変わっていた。
 
特に新聞記事というのは「地域で何かに一生懸命取り組む人」を記事で紹介することが多いので、そういう人たちから元気をもらうことは多かった。そうだ、取材は怖いことじゃない。そう思えるようになった。
 
取材とは、食べること。取材相手が出してくれた言葉が甘い味わいだったり、しょっぱい味だったり、苦かったり。その美味しさのおかげで力をもらったりする。いろんな味をこちらがよく噛んで味わって「こういう味で、こういうところが良いですよね」「こういうところが課題ですよね」と書き手が言葉にして表現してあげることがインタビューだと思う。
 
これは、実は取材だけの話でもない。生活でも同じ。普段の何気ない友人との会話や同僚との会話でも、前向きな言葉を聞くと何故かこちらも力がみなぎることがある。だから人の発する言葉には、どこかエネルギーが秘められているなと感じる。
 
ありがたいことに、今年春から私は色々な企業のインタビューができるライターの仕事に就くことができた。取材は大変なこともあるが私は好きだ。精一杯、目の前の仕事を頑張っている取材相手の皆さんの話を聞いて、私自身の体力を回復させながら、Tさんに負けないように走り続けたい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-12-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事