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「レアキャラ」な父の存在から感じたこと


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記事:ゆきんこ(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
父は、私にとって「レアキャラ」である。
最後に会ったのは、もう3年以上も前。電話は、多くても年2回。それも、一言か二言で終わる。
 
父がレアキャラになってしまったのには、明確な理由がある。
「アルコール依存症」である。
 
父は、私が小学生のときに、長年勤めていた会社をリストラされてしまった。相当ショックだったのだろう。それからお酒がやめられなくなってしまった。治療のために入院したり、アルコール依存症の人専用の療養施設に入所したりしているため、物理的に離れて暮らしていた期間が長い。
 
加えて、父がアルコール依存症になったことで、心の距離も遠ざかってしまった。元々は優しくてユーモラスで物知りで、尊敬の対象であった父。それが、ほとんど人と会話をしなくなり、常にイライラしているか、フラフラしているか、ぐったりしているようになった。
 
しかも依存症は、一度は治ったかと思ったのに、再発してしまうことが多いのがやっかいである。周囲の人間は、期待した分ショックを受けることになる。
 
10年ほど前、仙台の施設に入所していた父に会いに行ったときのことは忘れられない。最近調子が良い状態が続いているというので、母と二人で仙台に遊びに行くことにした。事前に行くところを決めておこうと思って父に電話すると「お父さん考えてるから大丈夫だよ」と、昔の父のような明るくハキハキした声。その様子から、今度こそ治ったのかもしれないと期待した。しかし結局、待ち合わせ場所の仙台駅に現れた父は、そこに来るまでの途中でお酒を飲んでしまっていた。普段はお金を所持することは認められていないのだが、この日だけ特別に、少しお金を持たせてもらっていた。そのお金で、父はお酒を飲んできてしまったのである。依存症は再発するとわかっていたはずなのに、期待してしまったことを心から後悔した。
 
 
一方で、父がアルコール依存症になってしまったことが、私にとってプラスに作用したと思うことも、結構ある。
 
まず、誰かが私に家族の悩みを打ち明けてくれたときに、相手の気持ちを想像しやすい気がする。もちろん当人の置かれた状況や気持ちを軽々しく「理解した」などとは言えない。でも自分が経験したことをベースに、「もしかしたらこういう感情なのかも」と、想像しやすいような気がするのである。
 
たくましい母の姿を見たことも、私の精神を強くしたと思う。母は、父に変わって一家の稼ぎ頭となり、2人の子どもを養い、一時期は祖母の介護もしていた。私もいつか、自分が踏ん張らなければならない事態に直面したときに、母の姿を思い出せば踏ん張れるような気がしている。
 
そして、最も大きな学びは、依存症になってしまう人は、決して悪人ではないと気付けたことである。実は、先程の仙台の話には続きがある。
 
最初、私は「父がお酒を飲んできてしまった」という想定外の事態に、かなり動揺していた。とりあえずそのまま予定通り観光をすることになったが、松島観光のクルーズ船乗り場に向かう道で、私は脳内でひたすら「どうしよう」を連呼していた。
 
クルーズ船乗り場に着く。すると父がゴソゴソと、自分のカバンから何か取り出そうとしている。手伝ってあげて、取り出したものを広げてみた。
 
松島行きのクルーズ船のチラシだった。
右上を三角形に切り取ると、100円の割引券になる。
それが、3枚。
 
それを見た瞬間、私はわかったのだ。
 
父だって、今日を本当に楽しみにしていたのだ。父にとって、やっぱり家族は大切なのだ。それなのに、お酒を飲んでしまうから、依存症は難しい病気なのだ。
 
私は父がアルコール依存症になって以来、心のどこかでずっと、寂しさを感じていた。家族が大切なら、お酒も我慢できるはずなのに。そう思っていたからだ。でもその3枚のチラシを見て、父は本当にやさしい人であり、本当に家族が大切であるのは間違いないのだと、気付くことができたのだ。
 
 
現在父は、和歌山県の施設に入所している。ここ数年は、お酒は飲まずに過ごせているようだが、またお金が手に入ったら、すぐにでも飲んでしまいそうな様子らしい。父のアルコール依存症に悩まされる日々は、これからも続きそうである。
 
それでも、電話で一年に1、2回聞く、「頑張ってね」「おめでとう」といった父の一言や二言は、一瞬で私の心を温かくするパワーがあるから不思議である。「レアキャラ」ではあるが、私にとっても父は、大切な存在なのだ。このことをいつかは、伝えられたと思っている。
 
 
 
 
***
 
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